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閑話 セラフィーナの何でもない一日

m(_ _)m m(_ _)m m(_ _)m


体調を崩していました。


m(_ _)m m(_ _)m m(_ _)m

セラフィーナの一日は、エンニチのどアップから始まる。




「……おはよう、エンニチ」


目を開けた瞬間、どんっ!と視界に入る黒い塊に一瞬だけ呼吸が止まりそうになる。

分かっている。エンニチには悪意は無い。逆に純粋な好意のみと分かっている……だからもう少しだけ離れて欲しいと言えないのだ。

のそのそとゆっくり布団から出した小さな手でエンニチの頭を撫でる。



想像してみてほしい。

柔らかな朝日が窓から差し込み、カーテン越しに部屋の中が明るくなる時間。意識が徐々に目覚める優しい微睡みの中でぼんやりと目を開ける、と。

目に飛び込んでくるのは、先ほど二、三羽殺りました?的な鋭い目付きのヒヨコが己をガン見している光景を。


今ではそれなりに慣れたが、心臓マヒでいつ死んでもおかしく無いと思うセラフィーナだ。




肌触りのいい高級布団に泣く泣くお別れをし、上半身を起こして欠伸をしながら伸びをする。もう一度エンニチにおはようの挨拶キスをして、身支度を整える。

貴族のお嬢様にお世話係の一人も付いていないのは可笑しな話なのだが、事実、使用人全員にお断りされた。心が折れそうなので嫌われていないと思いたい……しかし部屋にいた全員の視線がセラフィーナ本人にではなく足元に向かっていたのは気の所為だろうか?

まあ庶民感覚が抜けないセラフィーナとしては有り難くはある。


その日着るドレスは、家族たちが交代で毎晩決めてくれるのをそのまま着るのでセラフィーナ自身が決めた事はない。着れればそれでいいと思うズボラな性格なので、特に不満は無い。

部屋の隅にある両手開きのクローゼットを開ければ、今日のドレスは落ち着いた色合いの薄いオレンジ色の生地にフリルとおリボンが過剰に施されたものが掛っている。担当はダスティだろう。

フリフリは可愛いのだが、あまりにも幼すぎるデザインだ。未だにセラフィーナに対し赤子感覚が抜け無いのか、時折会話の中で赤ちゃん言葉で話しかけて来るのでいい加減に子離れ?して欲しいものだと幼女にしては疲れ切った程で溜息を吐いた。



シルク生地のドレスに着替え、時計で時間を確認する。いつもの時間だ。

廊下へ続く扉を開けば、扉の前で待機していたルイスとロンにおはようのキスをしてから部屋に招き入れる。

鏡台の前に座ると、直ぐにルイスが櫛を取り出しセラフィーナの髪を丁寧に梳く。慣れた手つきで髪をまとめると、次にロンが護符を編み込んだお手製のリボンをつける。最後に香油を軽くふりかければ、可愛らしいポニーテールの完成だ。

二人を慕うご令嬢達がこの光景を見たら、キーッ!とハンカチを噛み締め嫉妬で怒り狂うであろう姿だが、外部に漏れることは無い。

世の女性たちの嫉妬からセラフィーナの平和は守られている。




兄達と手を繋ぎ共に食堂まで行く。

既に食堂には父親と元ベビーシッター現護衛のダスティが席に着いていたので挨拶がてら二人にもキスをし、自分の場所に戻るとルイスが椅子を引き着席。直ぐにロンがナプキンを掛ける。

本来なら使用人の仕事だが、セラフィーナに関わる事なら何でもしたい家族たちと、幼い頃からお世話されているセラフィーナ。周りから指摘が無い限り彼女が気付く事はないだろう。

席に着くと直ぐに温かい飲み物にサラダ、小さめのエッグベネディクト擬きにカットフルーツ等が運ばれて来た。

お腹を空かせたセラフィーナは直ぐにナイフとフォークを手に取った。


卵の真ん中を切ると黄身がとろりと溢れカリカリベーコンと絡めると相性は抜群だ。もう一つには色鮮やかな野菜と脂ののったサーモンが挟んである。見た目も味も素晴らしい食事に文句があろうはずは無いが、トロトロ卵を炊き立ての白米の上に乗せて醤油を掛けて食べたら美味しいだろうなと思う。

公爵令嬢だが所詮中身はただの庶民。オンザライスサイコーだ。

色鮮やかな豪華な食事を眺めながら、味噌汁と納豆ご飯が恋しいと思うセラフィーナだった。




オサレな朝食を済ませ、家族はそれぞれ城と学園とに向かう。

家族を見送ると、セラフィーナは執事を交えつつダスティから文字や地理、庶民の暮らし、ギルドなど一般的な教養を学ぶ。

もう少し成長すると専門の教師が呼ばれ、裁縫や乗馬、社交術など専門的分野に移行する。

冒険者のダスティの話は面白く、身になる話が多い。

今後、ダンジョン攻略や野営などをするかどうかは別として。




休憩を挟みつつ三時間ほど学んだところで昼食まで軽い散歩をしつつ、庭師と共に庭の手入れのお手伝いをするのがセラフィーナの日課だ。

今の季節は初夏を過ぎた頃。手袋に薄手のコートと黄色のショールをぐるぐる巻きで丁度いいくらいの陽気だ。周りは半袖か薄いシャツだけだが、人は人自分は自分、気にしたら負けである。寒いものは寒いのだ。




「綺麗だね、エンニチ」

セラフィーナの目の前にあるのは、背丈より高い満開に咲き誇る大輪の向日葵だ。

品種改良された早咲きのもので一枚一枚の花弁が大きいのが特徴だ。

これはセラフィーナの提案により植えられたものだ。普通貴族は薔薇やダリアの様な見目好い花を好む。向日葵も綺麗なのだが、枯れると茶色く不気味な姿になる為、忌避する家も多い。しかし満開の向日葵はどの花より目を引く上、種はパンに入れても美味しいし、フライパンで軽く炒って軽く塩をふったものはビールのおつまみに最適である。

セラフィーナは花を愛でる為に植えたのであって、決して後の種が目的ではないのだ。……多分。



城の中庭もイングリッシュガーデンのようで素敵だったが、色鮮やかなうちの庭も中々のものだと水遣りしか手伝いをしていないセラフィーナは自慢気に微笑む。

因みに前世では、ベランダにヘチマを植えれば何故か台風が二度直撃し全滅。タネを植えればハトが新芽を啄ばみ全滅。植物にはあまり縁が無かった。


ジョウロで水をやりつつ、どうして綺麗に咲くのかと庭師に尋ねれば、栄養が良いからですよ、と目尻に皺をよせ笑う顔は日に焼け浅黒いが優し気な印象を更に強めている。

化学肥料などが無いこの世界の肥料は何だろうと呑気に首を傾げているが一生知らない方が彼女の為だ。

知ってしまえば庭に二度と足を運ばないどころか人間不信に陥るかも知れない。

人は時として知らない方が幸せな場合もあるのだ。




少し早めの昼食はダスティが用意する。

ベビーシッターから護衛になっても、昼食とデザート係りだけは譲らず、今ではメキメキと上達し下町の奥様方に引けを取らない腕前だ。

セラフィーナ自身も格式ばったものより気軽に食べれるので有り難い。


「セラフィーナ様、エンニチ様、昼メシが出来ましたよー」


窓からピンク色の生地に胸にはヒヨコのアップリケ付きのエプロンを来た上腕二頭筋ムキムキおっさんがセラフィーナに呼び掛ける。


視覚の暴力である。



因みに昼食のメニューは、季節の温野菜のサラダにほうれん草とキノコのクリームパスタ、デザートにはプルプルゼリー。

昼食を終えると暫しお昼寝タイム。



お昼寝を終え、動体視力特訓エンニチとあそび、そして一時間ほど読書をした後で、今度は別室の魔法陣の前で兄たちのお出迎えの準備だ。


これは陣に設定された者だけが使える移動用魔法陣で同じ陣が城と学園とに設置されてある。

本来なら兄弟は寮に、父親は城にいなければならないのだが、セラフィーナと離れて暮らすのを嫌がった家族らが、権力、もとい誠心誠意を込めた説得により城と学園とに特別に許可をもぎ取った結果だ。



「お帰りなさい、ルイス兄様、ロン兄様、とベル様」

「ただいまセーラ、良い子にしていたかい?」

「セーラ、ただいま」

「…ただいま。何で俺が一番最後なんだよ」



淡く陣が光ると、いつも通りの時間にルイスとロンが帰ってくるのだが、最近ではジグベルトのオマケ付きだ。

客間に着くといつもの心温まる?やりとりが始まる。



「誰も来て下さいなんて頼んでいませんよ、殿下」

「とても心苦しい。お帰りになられて結構です」

「お前ら少しは俺を敬いやがれ!普通俺がセーラの前、、い、いや隣だろうが!」



ギロリとエンニチに睨まれ沈黙するジグベルト。

直ぐに言い直したが、ちょっぴり動揺しているのか手が小刻みに震えている。

6人掛けの長方形のテーブルは一番右端がセラフィーナ、隣はルイスにジグベルト、ルイスのまえにはロンが座る。セラフィーナの前の席は座らないが一応エンニチの席になっている。


見事に上下関係が見て取れる配置である。



カップにも手をつけず掛け合い漫才をする三人を横目にセラフィーナはコクコクと一人優雅にカップに口を付ける。

少し苦目のココアに甘いクリームを乗せるのが最近のお気に入りだ。


身分もなんのその、楽しそうにジグベルトをやり込める兄たちを見てセラフィーナは目を細めた。

この世界では娯楽は限られている。ましてテレビもない現在。目の前で繰り広げられる漫才はちょっとした楽しみになっている。

一番面白かったのは、縦ロールと従者の掛け合い漫才であるが。




夕方になりジグベルトが帰ると、入れ替わるように父親が帰って来る。

そのまま父親に抱かれながら食堂へと足を運ぶ。


今日の夕食は、食欲を誘う焼き色の付いたサクサクの生地に包まれたウサギのパイ包みや、鱒を香草と一緒に一度ふんわりと蒸してからバターをひいたフライパンで表面と皮をパリパリに焼いたもの、グリンピースの皮を丁寧に剥いてすり潰したものにミルクを混ぜた豆のポタージュなど、豪華な食事だ。

パイ生地を崩しながら、はふはふと熱々の肉を口に運ぶ。ウマウマである。焼き立てパンも絶品で幾らでも入りそう…ふっと幼児のポッコリお腹が目に付く。…………涙を飲んで持っていたバターたっぷりサクサクのクロワッサンをそっと皿に戻した。

今更ながら私メタボじゃないよね?と不安になる乙女セラフィーナである。





ーーチャプン


「極楽極楽〜♫」


食後の入浴。

薔薇の花弁が浮かべられ仄かな香り漂う大きな浴場には、トルコタイルの様な細かな模様や壁に彫られた神話を再現した彫刻など、まさにセレブリティーな風呂には似合わない『ババンバ、バンバンバン〜♫』とジジくさい鼻歌が反響していた。

しかし、まったりと浸かるセラフィーナは幼児だが中身は大人なので問題は無い。

彼女は今、先ほどのカロリー消費の為に、半身浴の真っ最中である。

因みにセラフィーナは五歳なので浴場は混浴禁止だ。

五歳になると同時に、もう大人の女性なので一緒にお風呂に入りません、宣言をした時の家族の阿鼻叫喚は言うまでもない。



一羽だけ難を逃れ我関せずと、今日もセラフィーナと共に風呂に入るエンニチは、ぷ〜かぷ〜か気持ち良さげにお湯に浮かんでいる。

その姿は色は違えど、お湯に浮かぶアヒルのオモチャの様に愛らしい様な気がする、が。

以前、偶然を装った侵入者ダスティを発見した時はその愛らしい?姿を一転させた。

敵を発見した瞬間、某空の城のアニメに出て来るホバークラフトの如く、ドバババババッ!!と凄まじい音と水飛沫を立てながら水面を走り、そのままの勢いでスポーンと風呂の外に飛び出すと、クルクル空中で回転し、高速の◯◯旋風脚で敵を撃退ケーオーしたのである。

セラフィーナ曰く。

この世界に異種格闘技戦があれば間違いなく優勝するだろうと。


まったりとした入浴を終え、ふわふわタオルで体を拭いながらお腹をムニッとつまむ。少しだけ痩せたかもしれないと喜ぶセラフィーナだが、気の所為である。





就寝の為、セミダブルによじ登り一息つき、急いで体が温かい内に布団に入る。電気カーペットが恋しい。低温やけどに注意しなければならないが、電気カーペットの上に布団を敷けば寝る時にはホカホカになっているのだ。

しかしベットの質の良さは前世とは天と地ほどの差がある。

しっとりと肌に吸い付くような極上の生地シーツ。落ち着いたクリーム色の布団は、北の地にしか生息しない鳥の羽毛を使用しており、巣の中で卵を保護する為の一番柔らかい羽毛をふんだんに使っておりセラフィーナのお気に入りだ。

枕には安眠効果があるネロリやカモミール等をブレンドしたポプリを忍ばせている。

快適な睡眠には妥協は許されないのだ。


ポンポンと枕を叩き枕に頭を乗せるとハーブの匂いが僅かに香る。今夜も安眠出来そうだ。温かい布団に包まれると、懐に入ったエンニチがモゾモゾと定位置を探し止まる。

小さな温もりを感じながら、徐々に重くなる瞼を閉じた。




おやすみなさい。


明日もいい1日でありますように。









次から本編に戻ります。

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