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二十度

手に持っていた羽を風が巻き上げ空高く運ぶ。

青空に吸い込まれていく桜色の羽の行方を目で追っていると、風の檻の外側から近付いてきたのはまだ少年だ。

縦ロールと同じくらいの年齢だろうか?

深緑色の髪はあちこちツンツン跳ね、腕に嵌めているのは緻密な細工が施された金の腕輪。好奇心に満ちキラキラしている大きな金の瞳。



おや?先ほどまでお膝の上に乗せられていた、とある人物に瓜二つ。


とある人物とはレブス=シルダ=サミローダ。つまり国王陛下。この少年が成長すれば陛下とそっくりになるんだろうなぁ、と言うぐらい似ている。

DNAって凄い。誰の子かなど一目瞭然だ。

少年は私と目が合うと、破顔した。



「おーっ!スッゲー、精霊なんて初めて見たぜ。おいお前!俺はこの国の第一王子ジグベルト=シルダ=サミローダだ。

俺がお前を捕まえたんだから、今日から俺がご主人様だぞ!」


誰がご主人様やねん。





あまりの理不尽さに睨み付けるが、風が幕となり視界があまりよろしくない。


鬱陶しいな。

そう呟いた瞬間、胸元のネックレスが僅かに光り、風の檻がゆるゆると解けて消える。

あら、便利。エンニチがネックレスに触ったのと何か関係があるのだろうか?あの子何でもありだな。

例えエンニチが、魔法が使えたり本当は喋れたり実は正体は魔王だったとカミングアウトされても驚かない自信がある。

驚いたのは少年、ジグベルト坊ちゃんだ。


「な、何でだ!?完璧に閉じ込めた筈なのに。うわっすっげー、俺の魔法を解除するなんて流石は精霊だな!」

「違います。人間です」

「またまたぁ、フードで隠してるけど辺りに散らばってるのはお前の羽だろ?精霊って冗談も言えるんだな。

なあなあ、ちょっとだけ触ってもいいだろ。何たって俺はお前のご主人様だからな!あ、お前は名前あるのか?」

「落ち着いてください。羽は地面に落ちていた拾い物ですから。それに誰が誰のご主人様ですか、訴えますよ。第一私の名前はお前ではなく、」

「わー。綺麗な髪だなぁ。母上や姉上よりもツヤツヤサラサラだ。それにいい匂い…花の香りがする」



人の話を聞け。

このスルースキル。まさしく縦ロールとの血の繋がりを感じる。

落ち着きなく周囲をぐるぐる回ったかと思えば、急にペタペタと髪やら顔やらを触りまくりながら、柔らかい、サラサラだ、綺麗だ、と感嘆の声を上げ楽しそうだ。


私も褒められて悪い気はしない。

…ふっ、ふふふふふ。幼児の柔肌はもちもちスベスベだからな!羨ましいかろう!

転生して何が嬉しいかって、化粧品要らずのプルプルツヤツヤお肌だ。

顔?鏡はあまり見ないから分からない。それでなくとも自分の顔に違和感を感じているのだから。まぁ、今では違和感もだいぶ薄れている。


それは兎も角、自慢の乙女の柔肌を触りまくる不心得者だが、まぁ小さな子供の夢を壊すのもなんだ。少し鬱陶しいが、このまま精霊役を演じてもいいか。

しかし私の寛大な心を裏切り、調子に乗ったジグベルト坊ちゃんは大罪を犯した。

なんと今度は精霊の衣だー!と私の羽織っているマントを剥いだのだ。



ぷち。

ゴンッッ!!


「痛っってえぇ!!何すんだよ!頭痛えじゃねえか!」

「……煩い」

「ヒィッ!」



子供のする事だ。

例え精霊と感違いされようが、人の話を遮られようが、髪をひっぱり顔をペタペタ触られようが笑って許してやろう。


しかし!


私から暖かマントを取ったのは万死に値する。

痛みよりも恐怖に引きつらせているジグベルト坊ちゃんからマントを奪い返しニッコリと笑う。おや?乙女の笑顔を見て真っ青になるとは失礼な。


鉄は熱いうちに打て。

教育は早いうちにするべきだ。





前世、OL時代。

あれは丁度入社から2年目の頃だったか。

まだ重要な仕事は任せてもらえないものの、資料作りや顧客との電話連絡など漸くサポートがスムーズに出来てきた頃。

後輩いっこしたに新人営業マンが入社してきたのは。

仕立てのいいスーツを着こなし金持ちオーラを纏う新人。何処ぞの英才教育でも受けているかと期待した、が。

英語どころか日本語も怪しく、仕事は何度教えても覚えない。コピーや会議の資料作りなど裏方の仕事を嫌がる。私用電話にネットは当たり前。会社にかかる電話に出ない。果ては今時の若者らしく5時になると同時に退社する始末だ。私の中での奴のあだ名はバカボンボン。

私は二週間我慢した、いや待った。

こちらの教え方も良くないかも知れない。覚え易いようパソコンで一枚一枚クレームの対応の仕方、資料作りの要点などを纏めたものを渡したが、見ている様子は全くない。

そして三週間目の夕方、退社する新人の腕を掴み些か強引に会議室に引き摺り込んだ。


俺はちまちました仕事は似合わない。敏腕営業マンに俺はなる!とほざいた新人に、裏方の仕事も出来ない奴が何をほざいている、え?掛け金の計算方法知らないのぉ?、事務員舐めんな。お前の仕事だけボイコットしてやるぞ、あらあらそんな事も知らないの?入社して何週間?あらぁもう二週間経ったのにコレ?、貴方が作成した資料を顧客が見ずに放置されたらどう思うか等、奴の反論を次々に潰していく。


結論から言えば奴の高い鼻をバッキバキにへし折った。



そしてその後、何故か入社二年目の私に新人教育と言う大役と、《メンタルクラッシャー》《新人潰し》の嫌な二つ名が付いてきたのだ。

後日、何とあの馬鹿ボンボンは会長の甥っ子だと知った。だから上司も注意しなかったのか。誰か教えてほしかった。

数年後、宣言どおりとまではいかずとも、それなりの営業マンになったバカボンボンと、酒の席でよくこの出来事が話題になって笑い話になるのだが、当時はよくクビにならなかったものだ。





そして現在、目の前には膝を抱えてメソメソ泣いているジグベルト坊ちゃんの姿。

またやってしまった。


失態に痛むこめかみを押さえる。

……マズい、やらかした。第一王女に続き第一王子、つまり次期国王のプライドやら何やらをパッキパキに折ってしまった。

下手したら首と胴体がさようなら、ではなかろうか?

何故こうも王族が絡んでくる。

しかしこのまま泣かせるわけにはいかない。

何か誤魔化せる物は…隠しポケットをゴソゴソ探り…あ、あった。

目的の物を手にジグベルト坊ちゃんに近付き、問答無用で口の中に放り込んだ。


「……甘い」


フニャリとした顔を見てホッとする。

そうだろうそうだろう。ダスティさんお手製のべっこう飴だからな。

この世界、お菓子は色々あれど飴はケーキなどの飾り付けの一つとしての位置付けにいる。

なので、のど飴も無ければ空腹を満たす為に個別に包装して携帯する概念がないのだ。

べっこう飴の材料は砂糖と水だけで作れる簡単お手軽なオヤツだ。小腹が空いた時用に一つ一つ包んであちこちのポケットに忍ばせており、屋敷の皆様にも大変好評を頂いている。

前世知識も偶には役に立つものだ。



「…あ、もうない…」

あっという間に口の中で小さくなりカリカリと音を立て消えた飴にしょんぼりしつつ、上目遣いでこちらの方を伺う。

偉そう、、いやヤンチャそうなお子様だ。普段なら多分「美味いな!俺は王子だぞ、もっとよこせ!」とでも言いそうな感じだが、先ほどの調教…躾、でもなく、教育の成果が出ているようで大変よろしい。

達成感に内心うんうんと頷き、ポケットの中の飴を全てジグベルト坊ちゃんに手渡す。


「……え、…くれるのか?…本当にお前女か?」


何故そんなに驚いた顔をする。

ルツもジグベルト坊ちゃんも何気に失礼だな。私の顔はそんなに飢えているように見えるのだろうか?

多少ムッとしながらジグベルト坊ちゃんを見ると、小さな手に溢れんばかりの琥珀色の飴にびっくりしながらも余程嬉しいのか、にへらっと笑みを浮かべている。年相応で可愛いな。


「全部あげます。でも食べ過ぎたらいけませんよ。虫歯になってしまいます」

「うん!父上や母上よりも怖いと思ったけど、お前本当はいい奴なんだな!」



よし!飴と鞭作戦成功。


しかし乙女レディに向かって両親より怖い、はいただけない。





◆◆◆◆◆◆◆





「ご歓談中失礼致します。陛下、ジグベルト様が脱走致しました」

「ああ?いつもの事だろうが……いつも、の…」

『何故だろうな?あやつがセーラに出会っている気がしてならぬわ』

「逃走先は中庭が多いですので、高確率でセーラと会うでしょうね」

「…あーっ!!くそッ!何だってこう、次から次へと」

「陛下がセーラに会いたいなどとおっしゃられなければ、この様な事態にはならなかったかと」

『そうだな。身の程知らずにもセーラを呼びつけた上、会いたいなど百年早いわ』

「俺、王様!国で一番偉いからな!?」

『訂正しろ。一番偉いのは我だ』






あれ?話が殆んど進んでない。(o_o)

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