一度
「セラフィーナ様、あーん。美味しいでしゅか?美味しいかったでしゅか〜。もう一回あーん」
「あー」
あーん、うまうま。
加熱して丁寧に裏ごししたリンゴをお粥に混ぜただけなのにウまっ。生後約6ヶ月頃になり待ちに待った離乳食だ。
訳の分からんヤギ乳はもう要らん。
そしてさっきから赤ちゃん言葉で喋っているのは、私付きのベビーシッターで名前はダスティさん。上腕二頭筋が素晴らしいワイルドな顔つきのおっさんだ。
赤ん坊って殆ど目が見えない。なのでぼんやりとだが漸く顔の認識が出来るまでになり目の前に厳つい顔のおっさんのどアップを見てギャン泣きした。すまん。
この半月、本能の所為かほぼ全ての時間は睡眠だったがそれでも分かる事もある。
どうやらここは地球ではなく異世界だったこと。何故ならこの世界には魔法が存在するのだから。
きっかけは、部屋の中が薄暗くなり夕焼けが差し込む時間帯。
ランプの前に立ったダスティさんか手をかざすと、明るいピンポン球サイズの光が出て、ふわふわと移動しながらランプに移り光が灯った時には開いた口がふさがらなかった。
他にもブラザーズが手に小さな竜巻を出したり、パパさんが手紙らしきものを持ったまま火で消し炭にしたりと様々だ。
魔法は私も使えるのだろうか?今はまだ無理だが今後が楽しみである。
そして我が家、グラージュ家の家族たち。
穏やかバリトンの声はパパさんで名前はハンソン。前にダスティさんが、さいしょうのしごとは、と言ってたので恐らく宰相様。つまり家は貴族だろう。
幼い優しい声は兄のルイス。キラキラ王子様タイプだ。まだ幼い舌足らずの声は二番目の兄でロン。幼いながらもミステリアスな雰囲気を持ってる。
二人とも…私も入れたら三人とも母親が違うらしいので、ルイス兄は金髪でロン兄は父親と同じ黒髪だ。鏡を見ていないので分からんが私は銀髪らしい。三人とも見事に分かれたな。
穏やかイケメンパパさんにブラザーズも絶妙なバランスで配置された顔のパーツ。将来はさぞかしイケメンに育つだろう。私のパーツもそうであってほしい。
母親はアレだ。離婚したようだし男漁りの旅に行って戻らないからアレでも別に問題は無いだろう。
しかし貴族様の家にしては人が少ない。
私が会ったのはパパさんと兄二人、ベビーシッターの四人だ。アレは除外。
貴族はメイドやら執事やらの使用人たちに傅かれているイメージなのだが違うのだろうか?
まぁいい、煩わしいし。
……ぐぅ。
…はっ!?
くそっ、赤ん坊な体が憎い。まだまだ情報収集しなければならないのにパパさんに似たポンポンリズムとナデポの二重攻撃が眠気を誘うのだ。パパさんに似たポンポンスキルを持つルイス兄は将来はいいパパになるだろう。ロン兄の絶妙な力加減のナデポスキルは素晴らしい。……ああ、眠い。
「セーラは眠るのが好きなんだね」
「ルイス坊ちゃん、赤ん坊は寝るのが仕事なんですぜ」
「じゃあ、セーラおしごとちゅう?」
「そうそう、だから静かに寝かせてあげましょうや」
「残念だけど分かったよ。おやすみ、わたしの可愛いお姫様」
「セーラ、いいこいいこ」
優しく頭を撫でてくれる手が嬉しい。
今世でも両親は離婚したが優しい人たちに囲まれてぬくぬくだ。
暖かい、…………眠くなってきた。
…ぐぅ。
◆◆◆◆◆◆◆
「そう言えばダスティ。今日のネズミは何匹捕まえたの?」
「一匹ですぜ。今日は少ない方っすね」
「馬鹿なれんちゅう。このへや僕たちいがい、入れない」
「ロン坊ちゃんの言う通りそれが分からない馬鹿な連中が多すぎて困りますぜ。
兎に角、世界一可愛いセラフィーナ様を狙っている輩はごまんとおりやす。坊ちゃん達も気を付けて下さいよ」
「分かっているけど、セーラの居るこの部屋は王の居住区よりも更に強力な結界に護られているから余程のことが無い限りは大丈夫だよ」
「……王様より護られるんですか」
「「 当然 (だよ)! 」」