十五度
遅くなりました。m(_ _)m
忙しくなってるので、不定期更新です。
魔法とは空気中に存在する魔気を体内に取り込み循環し力を具現化させる現象を言う。
私の使える魔法は少し強めの風に、自分には何の有り難みもない祝福に、冷や冷やヒンヤリの氷。……要らないな。
しかし一度確認はしなければなるまい。
基本魔法は、ブラザーズの様に学園で学ぶか教師が呼ばれるのだが、取り敢えず私には教科書と専門書で得た知識ぐある。魔法を学ぶ前に一人でやってみたい事があるのだ。
そうっと建物の陰から辺りに人がいないか確認する。
前方よし、右よし、左よし……エンニチや、君は真似しなくても宜しい。
本日のスケジュールはパパさんはお仕事、ダスティさんもパパさんの護衛の為不在、ブラザーズは学園、そして今はお昼を少し過ぎた頃で皆様は休憩中。この時間は訓練場には誰もいないことはリサーチ済み。
ふははは、我ながら完璧だ。
喜びにニマニマする口元を隠し、乾いた赤茶色の地面を歩き、中央に進む。
この訓練場は家の者なら誰もが自由に使用出来る場になっており、その為強力な結界が張ってある。多少の暴発ではビクともしない丈夫な作りになっているのだ。
何故ここに来たのかと?
試してみたいのは魔法が使えるかだ。
本来なら家庭教師なり学園で学ぶのだが、それはもう少し先の話だ。
離乳食どころかヤギ乳を飲んでいた頃から魔法に憧れ、やっと魔法が使える状態になった今、少しだけ使ってみたいと思うのは人間の性だろう。
さて、先ずは風だな。
肩幅に足を開け目を閉じる。
思い描く魔法の具現化はもちろん等星の強さにも依存される。どれだけ凄い魔法を行使しようが元の力がなければ発現するのは不可能だ。そして一番魔法で大切なのはイメージ。対象にどの様な現象を起こしたいのかを的確にイメージするのだ。先ほどとは逆にイメージが出来なければ魔法の発現は不発や暴発、もしくは別の場所に発現したり、別の現象を起こしたりしてしまうのだ。
言い換えるとイメージさえ出来ていれば呪文などは必要ない。
神殿で私の結界を老人が外した時の事が良い例だ。あの時も呪文など無くぽんぽん、で終了していたしな。
一般的には、より具体的にイメージする為に掛け声や呪文、数は少ないが歌を歌う者もいる。
イメージ、イメージ、小さな竜巻。
「プチストーム」
呟いた瞬間、手のひらサイズの小さな竜巻が訓練場内をゆっくり移動し暫くすると風の渦が解けて消える。
ふむふむ、イメージ通りだな。
次は祝福だが……しまった、自分にはかける事が出来ないのだった。どうするかと辺りを見渡すが何もない。これは今度に持ち越しかと、ため息と共に目線を下に落とす。
下にいるエンニチとバッチリ目が合った。
「エンニチ、今からエンニチの動きが速くなるようにするからね」
地面の上でコクコク頷くエンニチに若干の不安が無いわけではないが、他に誰もいないのでしょうがない。
エンニチ、動きが速くな〜れ〜
「倍速」
エンニチが分身の術を会得した。
シュパパパパパッッと何羽ものエンニチが其処彼処に現れては消え現れては消え、その、何と言うか、、むっっちゃ怖かった。
想像してみてほしい。
大人が泣き出す凶悪な目つきのヒヨコが何羽も自分の周りにグルグルと回っている光景を。その恐怖は想像してあまりある。
家族の私がコレなのだ、他人なら気絶している事だろう。
ある意味、恐ろしい最終兵器が完成してしまった。
言い方の違いも力の強弱には関係無し、か。
さて、本日のメインイベント。
それはア○雪ゴッコ。
別に欲しくもなかった氷魔法だが、有るものは有効活用するものだ。
私が氷魔法で真っ先に想像したのがカキ氷とスケートリンク。夢も希望も乙女心も無い現実的思考に、もっと夢のあるものは無いかと考えていた時にふっと浮かんだのが例の映画だ。
私は映画そのものは見ていないが何度もテレビで紹介され、またその場面をネット上で大人も子供も楽しそうに口パクと軽やかな動きで真似をする姿は本当に楽しそうだった。
前世では羞恥心と恋人がいない為に実行出来なかったが、今の私はお子ちゃまだ。欲望に忠実なのは仕方あるまい。
今日は青白に銀の刺繍が入ったシンプルなドレスを纏い、リアンさんにお願いして作ってもらったマントも白を基調としたこれまたシンプルな作りになっているが、わたしのマントはあんなピラピラした防寒の役にも立たないのでは無い。見た目はただのマントだが裏地にはモフモフ素材が縫い込まれていてとても暖かいのだ……このマントの重さでは外しても風で飛ばされるシーンの再現は無理だろう。まぁ、私はこの寒い中マントを外すなどそんな愚行は犯さないがな。
さて、衣装はバッチリだ。後は…ちらっと足元にいる物体を盗み見る。
問題はこのエンニチだ。流石に人前?で歌うには羞恥心がある。ベストはこの場所から離れてもらえれば一番いいが、せめて見ないでほしい。
「エンニチ、少しだけ用事があるからあっちの方で一人で……エ、エンニチ!?あの別に嫌いとかでは無いから!あり得ないから!大好きだから!だ、だからその目はやめてくれ!!」
言葉を紡ぐたびに表情は変わらないのに、真っ黒な瞳にだんだんと暗くてドロドロと重たいものが侵食してきて……下手なホラー映画より怖かった。まだ私の手がプルプル震えている。ヒヨコが絶望の表情をするなど初めて知ったぞ。
「あー、じゃあ目を閉じて……そうか嫌か」
ブンブン首を振り拒絶するエンニチ。
「エンニチ、少しだけでいいから。明日のオヤツ半分あげるから、何、あーん付き?分かったから…おい早いな」
バッチリと目を固く閉じた現金なエンニチに若干引きつつも、当初の予定を実行するべくマントを靡かせ、、いやきっちりと巻きつけ鍛錬場に体を向けた。
流石にあのどデカイ城を作るつもりは無い。
イメージは犬小屋サイズのお城だ。
一人暗い吹雪の中
〜♫〜♫〜♫
お、パリパリと小さな城が出来てきた
〜♫〜♫
氷のお城を作って
〜♫〜♫〜♫〜♫
最後は階段を登って
〜♫〜♫
すっごい高そうな巨大なシャンデリアも作ってたなぁ
吹雪の中、あんな薄着でよく動けたものだ。私なら…
「…セーラ…」
をや?
ふんふん〜と鼻歌交じりでヒロインになりきっていた私の背後から、珍しく呆然としたパパさんの声がかけられた。
……見られた?いや、それよりも何故パパさんが居るんだ。仕事中の筈だぞ。
ギギギギ、と軋んだ音を立て後ろを振り返ると、パパさんやダスティさん、執事長さんに使用人の皆様方が一堂に勢ぞろいしていた。
何の羞恥プレイだ。
思わず両手で顔を覆う。顔が火照っていくのが分かる。今の私は真っ赤な顔をしているだろう。
暫く顔を覆っていたが、揶揄する声どころか物音一つしない。指の隙間からそうっと覗き見ると、皆様方の視線が私の後ろ、しかも高い位置で固定されている。
はて?犬小屋サイズの氷の城を見ているのならばもっと低い位置の筈だが。
後ろを振り向くとお城があった。
城。
原寸大の城。
訓練場にはみ出る寸前のどデカイ氷の城がででんっ!と目の前に存在していた。
端が結界にぶつかり静電気に似たパチパチとした音を立てている。
屋敷の高さをゆうに超えている氷で作られた城は光でキラキラ青白く反射し、中は透き通った水晶にも似ていた。
その壮大さと優雅さは目を惹きつけてやま無いほどだ。
…………はっ。
暫く口を開け、ポカンとしていたが我に返って慌て始める。
待て待て待て待て!私は犬小屋サイズで作っていた筈だぞ。何故だ?最初は上手くいっていたのに……。
もしかして映画の場面を思い出しながら振り付けをしていたのが原因か?
大きな階段を駆け上がるシーン?勿論思い出しながら歌ってた。
おや?思いっきりイメージしていたな、私。
…………。
まだ呆然としている大人たちに向けて、にっこりと、満面の笑みを浮かべた。
「セラフィーナ、氷のお城を作ったの。すごい?」
てへ☆
生まれて初めてパパさんに怒られた。
◆◆◆◆◆◆◆
「しっかし凄かったすね〜、まるでお伽話に出てくるような綺麗な城だったす。流石はセラフィーナ様」
「そうだね。あの優雅な建築様式と細部まで再現したセーラの力量は眼を見張るものがある。
あの魔力と強度、0等星が歴史に名を残すのも頷ける」
「せっかくセラフィーナ様が作ったのにさっさと壊せなんて、旦那様の人非人」
「仕方がないだろう。流石にあれは目立ち過ぎだ。まさか両手を打ち鳴らしただけで消えるとは思っていなかったがね」
「そういや金髪の、確かれんきんじゅつしとか言ってたけど何すかね?」
「お話中申し訳ございません旦那様、遅くなりました。記憶オーブです。
途中からですが、氷の城を作り始めてからのセラフィーナお嬢様の行動の一部始終が記憶されております。……つきましては旦那様ご相談が、」
「分かっているよ、この屋敷内のみ使用人に閲覧を許可しよう。但し、この映像が外部に漏れる事があれば…」
「承知いたしました。
しかし万が一にもありませんのでご安心ください。
このセラフィーナお嬢様の愛くるしい姿を見る事が出来ない絶望は、拷問や薬より効き目があるでしょう」
「…例えが怖い。……おお、可愛いっす!!何ですかマジ可愛い!ルイス坊ちゃんやロン坊ちゃんにも早く見せてやりたいすよ」
「セーラには歌の才能もあるね。いやセーラが一番だ。誰がなんと言おうとも一番だ」
「…ところでエンニチ様なのですが、お声をお掛けしても目を閉じられて、ずっとあのままなのですが」




