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十二度

「セーラ、着いたよ」


パパさんの優しい声と共にフードを外された。どうやら少し眠っていたらしい。

くわぁ、と欠伸をし、目を擦りながらパパさんの腕から床に降ろされる。


ーーブルッ。


さ、寒いな。

ぬくぬくパパさんの腕から降りた途端にヒンヤリとした空気が体を冷やす。

ぐるりと見渡してみると、部屋の内部は全体的に青みがかった石で作られたドーム状になっており、特別な石なのか魔法でも掛けられているのか、石自体がボンヤリと発光し部屋を照らしている。

中心部には同じ石で作られた祭壇が設けられ、ドッチボールサイズの丸い水晶玉が鎮座していた。アレで属性を調べるのだろうか?

天井には翼を広げた白い鳥を中心として、一回り小さい赤と黒い鳥が左右に配置されている。多分守護鳥様と御子様らをデザインしたものだろう。

質素で飾り気のない部屋だが、天井のステンドグラスの魅力と存在感を鮮やかに引き出している。


壁側には十人ほどの同じ服装の神官が立ち、彼らの前には一人の老人がいた。

一見同じ服装だが質の良い生地で仕立てているローブと右手にはブレスレット、左手には二本の棒が下から上になる程に太くなり、まるで二匹のヘビが絡み合ったデザインの錫杖を持っている。

お顔は某魔法学校の校長の様にふさふさしたお髭と丸メガネ。笑いジワが印象的なご老人だ。


どなた?


コテン、と首を傾げた。


辺りからガフッと空気が抜けたような音がしたが、ダスティさんがいつの間にか前に立っていたのでなんの音かは分からなかった。後でなんの音か聞いてみよう。

老人はつかつかとダスティさんの横をすり抜け私の前に立つと姿勢を正した。


「お、お嬢ちゃんがセラフィーナちゃんかい?ワシの事はお爺ちゃんと呼んでおくれ。

いえ、呼んでくださいお願いします」


真顔が怖いわ!


「お爺ちゃん、?」


変わった老人ではあるものの、服装や立ち位置から見たところ神殿内でも上の方だと思うのだが、フレンドリーにお爺ちゃん呼びしてもいいのだろうかとまたもコテン、と首を傾げた。


「…ハンソン、なんじゃこの可愛らしい生き物は?さっきからコテンコテンと愛らしい仕草でワシらのハートを鷲掴みにしておるぞ。

おい、コレ欲しいから置いていけ」

「……殺すぞ…死に損ないのジジィが」


ーーん?

何かもの凄く物騒なセリフが聞こえた気がしたが…きっと気の所為だな。


「ひょえっ!?じ、冗談じゃよ、冗談!…お前年寄りは敬わんかい。

ささ、セラフィーナちゃんや。お爺ちゃんのところに来ておくれ。今からこのお爺ちゃんが!セラフィーナちゃんが魔法を使えるようにするからの」


ウザいがお年寄りは大切にしなければなるまい。


「セラフィーナ=グラージュ3歳です!お爺ちゃん、よろしくお願いします」

「……可愛い過ぎてツライのぅ」



気は進まないものの渋々老人に近づく。

近づくとますます笑い皺が目立ち、性格は分からないが人好きする顔だと思う。

下から顔を見上げていると、左手に持つ錫杖が目に入る。

二匹のヘビが絡まり合ったような錫杖は、ラピスラズリの様に綺麗な色をしているが、よく見れば二本は同じ色ではなく若干色の濃淡があった。

持ち手の上部には鮮やかな朱金色の模様、、いや文字だ。文字が彫られている……グバゼルドダルク?



「おや?セラフィーナちゃんはこれが気になるのかな?

ふふふ、これはのぅ神殿で一番偉い人だけが持てる錫杖じゃ。お爺ちゃんは凄かろう?

しかもこれは面倒な仕事を他の奴らに押し付ける事が出来る魔法の杖なんじゃぞ」


使うごとに尊敬と信頼を失う付属付きだがな。


グバゼルドダルクって何処かで聞いた事があるな……あ、世界の創世神様の名前だ。

主神グバゼルドダルク。

創世記では確か主神のグバゼルドダルクと悪神のグバゼルドバスクが争い辛うじて主神が勝利するも力尽き、世界の守護を眷属に託し深い眠りについたと言われていたが。


「絵本で悪神と書かれていたグバゼルドバスクは弟神様だったのですね」

「セ、セラフィーナちゃん。いったい何処でそんな話を聞いたんじゃ?」

「え?この杖に、

【我、グバゼルドダルクは弟神グバゼルドバスクと共に眠らん。我らの眠りを妨げることなかれ】って……あれ?」



「「「「「……………………」」」」」



な、なんだ?どうしたこの沈黙は。


「……聖女様…」


壁際に立っていた神官の一人が呟いたと同時に、周囲の目が異様な熱を帯び始めた。

せ、聖女様だと?どこだ何処にいるんだ…わたしか?おいおい文字を読んだぐらいで……もしやこの文字は普通には読めないやつとか?弟神の事実は隠されていたとか……マズイやらかした。自動翻訳機能がいらんところで発動した。


神官たちの目が怖い。

あの時の通り魔にも似た、私自身ではなく物を見るような目にゾッとし、わたしは咄嗟に目の前にいた老人の服の袖を掴んだ。


ーー考えろ、このピンチをどう切り抜けるか。


ウルウルと老人を見上げてみた。



「…お爺ちゃん。セラフィーナは魔法が使えないの?みんながセラフィーナをじっと見てるの。…ダメな子なの?」

「ーーっ!?違うぞセラフィーナちゃんや!

お爺ちゃんがモタモタしていた所為じゃからな。セラフィーナちゃんはきっと、もんっの凄っい魔法が使えるからな。

ほれ、お前たちもシャッキリせんか、馬鹿もんが!可哀想にこんな可愛い子が怯えとるじゃないか!罰としてお前たちは外で草むしりでもしてこい」

「だ、大神官様それはあんまりですー」

「横暴です、私たちも立ち会いたいです!」

「喧しい、はよ行かんかい」



パパさんが言っていた。権力は正しく使うものだと。



権力おこさまのとっけんは正しく使うものだ。






◆◆◆◆◆◆◆






(少し前、目的地までの出来事)


「…おや?セーラは寝てしまったね」

「あ、本当ですね。ふふ、可愛らしいなぁ。祭壇まではもう少し距離がありますし、それまで寝かせてあげましょう」

「朝から緊張していた。仕方ない」

「…旦那様、次の曲がり角で団体さんが待ち構えていますぜ」


「おお、宰相様ではございませんか。お久しぶりですね。

おや?その腕にいるのはもしや」

「グラージュ家の至宝と呼ばれている姫ではございませんか」

「何と今日は儀式の日でしたか」

「一時期、聖女様とお噂されていた方ですね」

「我々は運が良い。宰相様是非とも一目、そのご尊顔、、ひえぇえぇっっ!?」

「すみませんすみませんすみません」

「わ、わたくしには老い先短い両親がー!どうか命だけはご勘弁をー!!」

「わたし用事を思い出しましたー、失礼致しますー!」

「お、お母ちゃーーん」



「……昔見た物語で、お偉いさんが海岸沿いの岸壁から両手を開くと、海がこうガバァッと真っ二つになったシーンがあったのを思い出したすよ」

「エンニチ、凄い」

「一睨みしただけで、彼らを恐怖に陥れましたね」

「やれやれ、やっと静かになった。エンニチ様ありがとうございます。相変わらず素晴らしい睨みでした」

「……………(イラッ)」




あれ?

…属性判明まで進むはずだったのにお爺ちゃんに邪魔されました。

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