十一度
日間11位……( ゜д゜)
ビックリです。運を使い果たした気分です。
たくさんの方々にブックマークや評価、感想、本当にありがとうございます。
笑った子供も泣き始める、アサシンヒヨコがここまで人気が出たのに正直驚いています。(笑)
皆様にほっこりして頂けるような作品作りを目指していますので、これからも楽しんで頂ければ幸いです。
今日、私は暖かい檻から出て行く。
暖かくて優しくて柔らかいこの場所にずっと居たかったけど、それではダメだから。
たくさん貰った愛情を優しさを少しずつでも返していきたいから。
だから、この檻を出ます。
などと言っても一番の理由は、このままでは私は堕落してしまうという危機感からだがな。
このままではゴロゴロしてぶくぶく太り、怠惰になり、最後はニート一直線。冗談ではない。
見た目は幼児、中身は大人、自立した女性を目指し頑張るのだ。
グラージュ家の名前に恥じないよう、私は真っ当な大和撫子になるのだ。
先ずは前哨戦。
今から屋敷の使用人たちに自己紹介だ。リアンさんが作ってくれたこのドレスは私の戦闘服。このドレスに負けないように。
さあ、行くぞ!
扉を開け、シックなベージュ色の絨毯のふかふかした感触を密かに楽しみながら長い廊下を歩く。
所々に置かれている花瓶には花が生けられ、淡い黄色と青やピンクと緑などバランスの良い配色センスが光り目を楽しませる。
よくテレビで外国のセレブな方々が飾っているような甲冑などは置いていないな。良かった。
前世、田舎にある叔母の家の床の間に仰々しく武者鎧が飾られていたのだが、あまりの迫力に幼い頃ギャン泣きし熱を出した。
それ以来、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、では無いがテレビでもゲームでも鎧を装着する武士や騎士は苦手なのだ。
どうでもいい事を考えながらゆっくりと階段を降りていく。一段一段降りるごとに近づく人の気配。心拍数が上がるのが自分でも分かる。
そして踊場の下。
その先、一階にずらりと片膝をついた使用人の方々が一堂に並んでいた。
ーー凄いな。
燕尾服を着用した老執事を先頭に、ローブ姿の魔法使いっぽい人や、やたらガタイのいい体つきの一団は警備担当だろうか?コックや庭師まで、おそらくグラージュ家で働いている人たちが全員揃っているのだろう。
彼らが目を大きく見開き驚いているのがここからでもよく見える。
まぁ、引きこもりが出てきたら驚くわな。
あまりの人の多さと視線にさらされ、気持ちが萎縮していくのを感じ、再度気合いを入れ直す。
大丈夫!笑え!笑え!
ここからが本番だ!
左右からドレスを人差し指と親指で持ち上げ他の指は綺麗に見えるよう反らす。ドレスの中で左足を少しだけ下げ右足を軸に腰を下げる。この時背筋はピンッと伸ばし下半身の筋力で体重を支えるのだ。ブルブル震えるのはマナー違反。
お貴族様の完璧なお辞儀、成功だ。
嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
よし!次のミッションは子供らしく、でも気品を持って自己紹介だ。
ーー何て思っていたこともあったな。
「セーラ、もうそろそろお茶にしないかい?」
「ほら、セーラの好きなファフル店の新作焼き菓子だよ」
「セーラ、ココア」
「セラフィーナ様には特別にクリームを乗せ、てい……セラフィーナ様ぁ、いい加減機嫌直して下さいぃ〜」
「……………」
け。
わたくし、只今ストライキ中でございます。
あの後ニッコリ笑い続いて自己紹介をする流れの筈が、いきなり私の目と耳を塞いだかと思うと体を抱え上げ、そのままダッシュで馬車に乗り込み出発してしまったのだ。
…一体何なのだ。私の決意をどうしてくれるんだ、馬鹿者どもめ。
そんな訳で、絶賛不貞腐れ中。
必死に話しかける家族たちを無視し、エンニチを胸に抱え誰も見ない様に目を閉じている。
左右にはブラザーズたちが座っているうえ、窓にはカーテンがかかり安全の為とかで外すら見えないので暇だ。先程から甘い物で懐柔作戦を実行しているようだがそんなもの無視だ無視。
ギュッとエンニチを抱きしめ、思い出しては腹が立ちぷっくりと頬を膨らませた。
子供っぽいだと?見た目は幼児、実年齢も3歳だ。子供っぽくて何が悪い。 私は悪く無いのだ。
「セーラ、そんなに強く抱きしめていたらエンニチが苦しいよ」
あ。パパさんの言葉に思わず腕の力を抜き手を離す。ギュッと抱きしめていたが、小さなエンニチが潰れてしまう。飼い主として気を付けなければならないのに、怒りに任せ自分の事ばかり考えていた。
自己嫌悪に陥りながらも、胸に抱えていたエンニチの羽を撫でながら謝罪をする。
「…ご、ごめんね、エンニチ………ところでお父様、コレ、苦しがっています?」
「…気の所為だったようだね」
逆に胸にヒシッ、としがみ付きこちらを見上げつつフルフルと首を横に振っている。降りないのか?いや、降りたくないのか?
……取り敢えず苦しくは無かったようで何よりだ。
そんなこんなで私の怒りも長続きせず、ココアを飲みながらゆったりと神殿へと向かった。
何でも出し入れ出来るロン兄の空間魔法、本当にチートだ。
神殿にたどり着くとパパさんはガウンに付いていたフードを私に被せ、腕に抱き上げながら外に出て歩き始めた。
私も落ちないよう胸にしがみついていたエンニチを再度抱き上げ、フードの隙間からルイス兄とロン兄、一番最後尾をダスティさんが歩いてくるのを確認する。
パパさんの前には道案内なのか、白いローブを纏ったお兄さんが前を歩いている。なんの特徴も無い服装だが唯一、信者の証なのか袖口からチラチラ見えるのは、全体的に白色で周りには朱金色の幾何学模様が入った大きなブレスレットが印象的だ。
フードに隠れて周りが見えなかったが、大勢の人の気配がする場所を通り抜けパパさんは私を抱えたままスンズン神殿の奥へと進んで行く。
私も神殿内を見ながら歩きたいのだが、私が顔を見せると、何でも周りに耐性が無いので神殿中が大惨事になるかも知れないらしい。
耐性とは何だろう?
◆◆◆◆◆◆◆
「危なかったすね」
「ああ、危なかったね」
「セーラを怯えさせてしまうところでした」
「でも、間に合った」
「セラフィーナ様が男性恐怖症、いや人間不信に陥るところだったす」
「…予想はしていましたが、まさかあの執事長までとは思いませんでした」
「あの場に居た全員、か」
「驚いた」
「……俺も驚いたっすよ。そりゃあセラフィーナ様の微笑みは可愛かった、世界一可愛かった、まさに女神、至高の笑みでしたすよ。でも、まさか、、、あの場にいた全員が鼻血を吹き出すなんて想像もつかなかったすよ」
「凄かった」
「噴水のように吹き出しましたね。……正直怖かったです」
「一面血の海、まるで殺人現場」
「咄嗟にセーラの視覚と聴覚を塞いだのは正解だったね。セーラには大人の欲望や事情など知らず恙無く過ごしてほしいものだ」
「そのまま出発してしまいましたが、彼らが生きているといいのですが」
「神殿、大丈夫?」
「……取り敢えずセーラにはフードを被せればいいかな」
「それ、ぜんぜん解決になってないすね」