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最悪だ。


公園内にある木の根にしがみつきながら自分の状況をそう思う。

右手で押さえている脇腹からは血が溢れ出し服にベットリ張り付いて気持ち悪い。

先日の給料日に奮発して買った三千円のストッキングは倒れた時にでも伝線したのか所々破けて見るも無残だ。

残業続きの帰り道、近道にと公園を通ったのが運の尽き。出会い頭に通り魔にナイフで脇腹をグッサリ、だ。

そう言えば最近通り魔のニュースが流れてたっけ。まぁ今更だけど。



このまま死ぬのか。

仕事が引き継げないのが唯一心残りだ。

私が死んだら誰か泣くか。

浅い関係の会社の同僚たちに、何年も疎遠になっている友人たち。

一人暮らしだし兄弟はいないし私が社会人になる前に離婚した両親はそれぞれの相手のところだろう。

ふむ、誰も泣かないな。


…寒くなってきたな。

この時間人通りも少ないから見つかるのは明日の朝だろう。自分の運の無さに笑うしかない。


…あ、雪だ。

どうりで寒い筈だ。

ヒラヒラゆっくり舞い降りてくる綿雪はすぐに溶け、儚く綺麗だった。


目が霞んできた。

……寒い。


もし、今度生まれ変われるのならば暖かい家族が欲しい。

いつも側にいてくれるなら家族でも恋人でも友人でもいい。

寒い時には暖めてくれて、死ぬ時は手を握っていてくれる人がいてくれたら。



涙がポロリ、と一粒だけ溢れた。


そして私は死んだ。









暖かい。

毛布?暖かいものに包まれている。

ぬくぬくで気持ちいい。

誰かが私を大事に抱き上げているんだ。




「ジョセフィーヌ、会うことはないだろうが気を付けて」

「貴方には長女を産んだだけ有難いと思ってよ。

まぁ、契約は契約だったけど貴方いい男だったわよ。あたしを繋ぎ止める男なんか世界中探してもいないけど。そうそうお金は今月中にあたしの口座に振り込んでね。

ふふふ、世界中の良い男があたしを待っているから早く出発しなくちゃ。ルイスもロンも二度と会えないけどじゃあね」


…………一体何の会話だ?


誰かが私の頭上で会話してるぞ。

男性の声は穏やかで渋いバリトンの声だ。女性は少し甲高く素敵な声だとは思うが高慢さが滲み出ている。


「はい、セラフィーナの世話はわたしたちが見ますからさっさと行って下さいね」

「かあさま、まだいる?はやくいえでない?」


次に私の下から聞こえてきたのは男性の声に似た幼い柔らかい声ともっと幼い舌足らずの可愛らしい声だが、二人とも内容は辛辣だ。

おいおい、コイツら母親に出て行けと言ってるぞ。


どんな奴らかと見ようとして気付いた。

ぼんやり霞んでいて見えない。

病院ではなさそうだが、、手……ちっちゃい?

体が起き上がれない。え?え?え?

指も動かず精々手をにぎにぎ握れる程度。足も小さい?頭は重いな。……小さくて頭が重くて首も目も体の自由がきかなくて、、これはもしかして赤ちゃんか?

私的にはバタバタしてるつもりだが、実際はあまり動いていないのだろう。それでも動き辛い手足を何とか気合いで動かしていると、頭上からあの穏やかなバリトンの声が聞こえてくる。


「眠いのかい?セラフィーナ」



セラフィーナって誰だ?


「よしよし、眠るといい」


言葉と同時に体がゆらゆらと揺らされる。

………い、いかん眠くなってきた。


ゆらゆら。ポンポン、ゆらゆら。ポンポン


くっ、なんて眠気を誘うポンポンリズムだ。

…………分かった、諦めよう。


……どうやら私は生まれ変わったようだ。



…ぐぅ。






◆◆◆◆◆◆◆





「……お姫様は寝たようだね」

「可愛いい!父上わたしも抱きたいです」

「ぼくも、だく」

「首に気をつけて落とさない様そうっと抱くんだよ。…そうそう上手だね」

「ぼくたちの、おひめさまだ」

「可愛いいセラフィーナ、わたし達が守ってあげるからね」



「ちょっと!あたしが出て行くのよ!あんた達見送りはどうしたのよ!!」


「「「 まだ居たの(か)? 」」」


「なんですって〜〜〜〜っっ!!キィー!」




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