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破邪の利剣  作者: 武嶌剛
弐幕 人斬り刃狼
9/12

街道の茶屋

 牧歌的な街道には、いくつもの宿場が設けてあり、人々は、そこで長旅の足をそれぞれに休めることができる。むろん、宿場ごとに人気は異なり、各地の名産が集まるような名所とされる地域には、おのずと人々も惹き寄せられる。


 女剣客は、茶屋に腰を落ち着けながら、わずかばかりに感嘆していた。ひっきりなしに人々がごった返す、ここ中森の宿場の盛況っぷりに――


「失礼」


 席が空いたかと思えば、すぐに客で埋まる。たかだか団子一つでコレなのだから、他の店もずいぶんと儲かっていることだろう。

 隣に座った男は、茶と団子を頼むと、その間の暇潰しのようにして、話しかけてきた。


「めずらしいの。女子の剣客なぞ……」


 物珍しそうな視線である。そういう好奇の眼は、いつものことであった。


「今は町娘も剣術道場に通うと聞く。じきに普通のことになりまする」

「なるほどですな……。しかし、おぬしのような暗い恰好までは、町娘も好みますまい」


 黒ずくめの身なりを咎められて、女剣客は不機嫌そうに口を尖らせた。 


「……野暮であると、いいたいか?」

「いや、そのようなことではなく――」


 含むように笑って、男はこう続けた。


「噂に聞く旅鴉とは……もしや、おぬしではないかと思ってな」


 女剣客がばっと振り向く。

 それは美しいガラスのような男であった。細く綺麗な顔つきに、透き通るような白い肌。身体は大きく、全体的にまずまずの筋肉がついている。

 おそらくは武芸者であろう。着崩した袴の腰元に、一本の刀を据えており、静かな物腰なのだが、その瞳の奥には鋭利な輝きを秘めていて、まるで獲物を狩る獣のように、どこか野性味を帯びている。


「……そなた、何者だ?」


 そう問いかけたところで、店の者によって茶と団子が届けられた。

 男は、串をほおばって茶をすすると、このように名乗った。


公儀(こうぎ)武霊隊(ぶれいたい)が一人、名を彰介(しょうすけ)と申す」

「武霊隊……」


 ぴくりと、女剣客が反応を示す。

 この倭国において、その組織の名を知らない者はいない。悪人を取り締まるのが役人であれば、破魔士は妖禍使を討伐する。その破魔士だけで構成される、公儀お抱えの特殊精鋭部隊、それが武霊隊であった。

 よく見れば、男の刀剣の鞘には、霊龍を模した、金の紋様が施されている。それは倭国を統治する(みかど)一族の家紋であり、彼らに忠誠を誓う公儀の象徴だ。


「気づいておったのだろう。拙者が隣町から、おぬしのことを尾けておったこと――」

「……気配だけは、な」


 なにしろ、あたりの街道には人が多い。その者を特定することは、いくら腕のたつ者とて、至難の業であろう。


「旅鴉よ。おまえの名はなんという?」


 少し迷ったようにしてから、女剣客は答えた。


「……かざひ」

「名前まで珍しい。どう書く……?」

「吹く風に、燃える火。それで風火かざひと記す」

「風に火。ふむ。怒らせたら、じつに恐ろしそうではないか……」


 団子をたいらげて、茶を啜り――空っぽになった皿を確認すると、風火はあらためて尋ねた。


「それで、用件はなにか?」

「ふふ、笑わせるでない。よほどの阿呆でなければ、もう察しくらいはついておろう……」

「まあ、な……」


 風火にはとっくに分かっていた。相手が武霊隊ともなれば、その目的が穏やかな用件ではないことを――


 にぎわう茶店の密室で、鍔の音がぴんと鳴る。

 それが合図のようなものだった。


 椅子から跳躍する風火、その虚空を彰介の刀が斬り払う。

 突然にきらめく白刃の凶行に、たちまち人々は悲鳴をあげた。


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