心の弱み
家がなく、親もなく、友もなく――
村の中でただ一人、子は忌み嫌われて、孤独だった。
飯も、服も、学も、ろくに与えられず、野犬のように侮蔑される日々。
意味のない気まぐれの暴言と暴力が、執拗に、粘質に、ひたすらに、延々と、続く。
なにをするにも、なにもできない。
ほとんど絶望の淵に立たされて、それでも子は、ほんの一縷の望みをようやく胸に抱いた。
たった一つの約束、破魔士との誓い――
だが、それすらも村人は凌辱した。
「――きさまのような餓鬼を破魔士が迎えるはずなかろう――」
髪を掴まれ、殴打され、希望までもが打ち壊される。
(どうして……どうして……)
子にはまったく理解できなかった。
心がわからない。触れ合う人間が、どこにもいないからだ。
(……たすけて……)
もう、子には、なんの力も残っていない。
――――。
どこともしれない暗闇の中、その声は聞こえた。
「タケル」
子がうっすらと目を見開く。
「……だれ……?」
黒い瘴気が、塊になって、そこに浮かびあがった。
見れば、人の形を模している。女であろうか。髪が長く、しなやかな輪郭を成している。
金縛りにあったように子の身体は動かず、そのドロドロとした手はゆっくりと近づいてきた。
「許サナイ……コンナ目ニ……」
なまぬるい液体のような感覚を肌に感じると、声は、頭の中に直接、そして優しく、響いてきた。
「私ガ、助ケテ、アゲル」
「……たすけて、くれるの……?」
「……」
「……」
心地の良い感覚。子は、そうして考えることをやめた。