警告
赤い夕暮れの輝きが、浮かぶ雲の合間を滲ませて、地上に長い影を落とす。
屋敷の門の前に、人影は二つ。ちょうど役目を終えた女剣客が別れを告げて、村の主に見送られているところだった。
「この御恩、けっして、忘れませぬ。年の明けて今頃の季節。また、おいでくだせぇ。そん時には、せめてものご馳走を……」
「礼はいらぬと申している。わたしのできることは、アヤカシを斬るだけ……。これより先、作物を育て、村を実らすは、御仁たちの力にしかできぬことよ……」
「ええ、ええ……。」
老人が、腰を低く、頭を深々と垂れて、礼をする。
視線を落とせば、彼もずいぶんと痩せていた。着物から覗く腹は、肉がそげて、あばらが浮いている。きっと、村全体がそのように飢えているのだ。
ゆえに、あぶれる者がいる――
女剣客は、塗傘のふちを目深に構えると、
「……ひとつ、気をつけよ。苦しき時なればこそ、皆で一丸となって乗り越えねばならん――。アヤカシは、人の心の弱みにつけこむもの。また現れんとも限らぬ……」
そう、釘を刺すように忠告した。
「はぁ……。それはたしかに、おそろしいこと……ですがな、村のモンは家族みたいなもんでして……大丈夫、かと……」
「……あの子もか?」
そう切り出すと、ぎくりとしたように老人が動揺した。
ふっと、ため息を吐いて、背を向けると、女剣客は最後にこう言い残した。
「よいか。人が円満でいればアヤカシは基本的に寄りつかん。くれぐれも、隙を作られるなよ……」