決着
彰介という男は、肉体だけに限らず、その精神までもが屈強な剣客であった。
ばっさりと斬られた傷口の断面から溢れる血――彼は、その肉片を霊術で焼き払うと、意識を残したまま出血を止めてみせた。むろん、激痛である。斬り合いの最中にも汗一つかかなかった顔面が、一面びっしょりと濡れていた。
「医者へ診せねば――」
「……かまわん。この程度……」
肩を貸そうとする風火を嫌い、彼はよろりと自力で立ち上がった。
「しかし――」
「よこせ」
風火から破魔刀を受け取ると、鞘に入れて、それを杖代わりのようにして、ふらつく姿勢をなんとか維持した。
「おぬしのそれは……。いったい、なんなのだ……?」
彼が、忌々しいものを見るように、視線を落とす。
地面には、黒い破魔刀と、彼の失った腕が転がっている。いや、正しくは、腕だったものか――無惨な傷跡であった。全体的に黒ずんで腐食しており、また、何匹もの獣に乱暴に食い散らかされたように、ぼろぼろにちぎれていて、ほとんど原形をとどめていない。それが人間の腕だったと言われても、信じることは難しいだろう。
風火が、傍らに落ちた破魔刀を拾い、黒い刀身を掲げてみせる。彼女が持つ分には、異変はなにも起こらない。ただ、金属で鍛えられた刃が、そこにあるだけだ。
「……わたしにもわからぬ。ゆえに、旅をしておる」
「さきほどの話にあった霊力者とやらは、このせいで死んだというわけか」
「ああ……」
「なるほど。その力、妖禍使のモノとほぼ同じ。いや、それよりもおぞましいモノに思えた……」
「やはり、そう感じるか……」
「……なにか秘密があるのかもしれんな……」
背中を向けて、おぼつかない足取りで宿場の方へ戻ろうとする彰介に、風火が声をかける。
「わたしを斬らなくて良いのか」
「嫌味のつもりか……?」
「いや、そなたの腕前ならば片腕でもと……」
「……いずれ、斬る。だが、それより今は知るべきことがある。それまで、おぬしの命、泳がしておく。……拙者はな」
彰介がそう姿を消すと、風火は穴の空いた塗傘をかぶり、破れた外套を纏って、その逆の方角へ去っていった。
これが風火にとって、武霊隊ないしは人斬り刃狼との、初めての接触であった。