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破邪の利剣  作者: 武嶌剛
弐幕 人斬り刃狼
10/12

目的

 外へ逃げ出した人々が、野次馬を巻き込んで大声で騒ぎ合っている。まもなく公儀の役人たちが押し寄せてくることだろう。


「彰介とやら。場所を変えさせてもらうぞ」

「……逃がすと思うか?」


 店の中の狭苦しい空間で、柱や卓袱台を盾にしながら、彰介の斬撃を器用にかわす風火。彼の言う通り、隙をついて戸まで逃げ出すことは難しい。下手に背中を見せれば、たちまちに斬り伏せられてしまうだろう。


 だが、そんなことは風火には関係ない。斬り合いに付き合う必要など、まったくなかった。


「幽州暗恨の念よ、壊せ……!」


 かっ、と輝いた白い光が、爆風を起こして、背後の壁を打ち壊す。ぽっかりと円形の穴が開き、あたりの木材が粉々になって散っていく。店の主は、唖然とした表情で固まっている。……あまり視線は合わさないほうが良いだろう。

 一抹の罪悪感を背負いつつ、風火が身を丸めて路上へ躍り出ると、彼もまた、すぐさま後を追ってきた。


「みごとなものだ。野良破魔士の分際で、霊術まで扱えるとは――」


 彰介が、感嘆したようにつぶやく。

 二人が野外の衆目に晒されると、周囲から、さらにどよめきの声が強まった。

 それ以上の悪目立ちを嫌い、風火は空を見上げると、


「ふっ――」


 息吹と共に跳躍をして、頭上の屋根へと飛び移る。宿場に連なる出店の軒並みは、この上なく好都合だった。似たような高さに並ぶ屋根を次々に踏み抜いて、俊敏に駆け抜けていく。


 宿場の裏のほうへ周り、街道全体を囲んでいる林道を駆け抜けて――


 やがて、風火は足を止めた。

 振り返れば、やはり、彰介の姿がある。

 葉々から漏れる陽の光に照らされて、彼は褒めるように言った。


「じつにすばらしい。脚力、体力も優れている」

「……撒くつもりで走ったのだがな……」


 見れば、彼は汗一つかいておらず、涼し気な表情を浮かべている。

 武霊隊の破魔士ともなれば、むろん、霊力を扱える。長けた者であれば、一日中だって延々と走り続けられる。つまり、常人の尺度で相手をしてはいけないということだ――


 諦めたように嘆息すると、風火は外套をのけて、刀へ手をかけた。


「公儀の認めぬ破魔士は、すべからく排除する。そういうわけだな……」

「いや、選択肢は、もう一つある」

「……わたしに武霊隊に入れ、と?」

「その腕前なら文句はない。加えて、美しい女の隊士ともなれば、まず合格だろうよ。助平な老人どもには受けも良さそうだな……」


 面白がる彰介に、風火は不愉快そうに答えた。


「お断りする。わたしは、そなたら国の組織に加担する気など……微塵にもない」

「まぁそうだろう……。旅鴉は、各地を放浪して無償で妖禍使退治に励む破魔士と聞く……ともなれば、公儀に仇名す意志を持つことは、これ聞くまでもなく明白だったことよ」


 彰介が刃を向けて、構える。

 瞳の輝きが消えて、ただ、真っ黒に沈んでいく。


「そなたの放つ殺気。妖禍使のものより、ずっと鋭い……」

「分かるか? 人斬り刃狼(じんろう)。以前は、そのように恐れられていた」

「罪人の経歴で公儀を名乗れるとは……笑わせる」

「先の人妖大戦のおかげよ。霊力の素養を持ち、ましてや妖禍使とも戦える腕利きなど、数少ない。国は人斬りの手も借りたいほど、かつてなく深刻な人材不足に陥っている。……それゆえに公儀の連中は困っているわけだ。おまえみたいに破魔士の安売りをする存在にな」


 話はそこで終わった。

 斬るか、斬られるか――互いの目的が、そう明白となったからだ。


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