村の子供
冷たい風が吹いている。刈り上げの終わった田畑の乾いた土を、枯れ葉がカラカラと転がっていた。
倭国において、北に位置する地域は一足早く、冬を迎える。
寒空には、童の騒ぐ声がやけにうるさく響いていた。
広いあぜ道の真ん中で、かれらは小さな輪になるよう群がって、石や木枝を投げつけている。その中心に座り込む一人の童は、ただされるがままにやられていた。
通りがかりの剣客は、見るに見かねて、つぶやいた。
「……やめぬか……」
顔を上げると、童たちは怯えたように身構えた。
恐れるのも無理はない。剣客が不吉な旅装をしているからだ。袴や脚具はむろん、塗笠や合羽さえも黒ずくめ。まるで、鴉のようである。
さらにいえば、剣客は女だった。艶やかな黒髪から覗かせている顔立ちの異様な美しさが、童の恐怖をよけいに煽っていた。物の怪の類のように映ったのかもしれない。
口々に悲鳴をあげながら、かれらは蜘蛛の子を散らすように去っていった。一人の子だけを取り残して――
「……どうして、闘わぬ」
剣客が問いかける。子は、黙っている。
まだ齢は十歳にも満たないか。背丈は、女の腰元までもなく、身体は痩せこけている。髪は荒れ、着物は汚れ、臭いも鼻につく。ほとんど餓鬼同然だ。
「……もっと、いじわるされる。だから……」
子は絶望したように答えた。もう涙も出ないのだろう。うつろな瞳を浮かべて、影に向かって、うつむいているだけだ。
剣客は、その小さなあごに手を添えると、唇を開かせて、一粒の食べ物を放りこんだ。蜜で練り固めた食料丸である。甘く、疲れが取れる代物だ。
舌を転がして、子がそれを飲み込むと、剣客はすっと立ち上がった。揺れる黒鞘の刀が、ちゃりっと金属の音を鳴らす。
「わっぱよ、闘えよ。生きたいなら、闘え……」
剣客は、村の方へと消えて行った。