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破邪の利剣  作者: 武嶌剛
壱幕 旅鴉
1/12

村の子供

 冷たい風が吹いている。刈り上げの終わった田畑の乾いた土を、枯れ葉がカラカラと転がっていた。

 倭国わこくにおいて、北に位置する地域は一足早く、冬を迎える。


 寒空には、童の騒ぐ声がやけにうるさく響いていた。

 広いあぜ道の真ん中で、かれらは小さな輪になるよう群がって、石や木枝を投げつけている。その中心に座り込む一人の童は、ただされるがままにやられていた。


 通りがかりの剣客は、見るに見かねて、つぶやいた。


「……やめぬか……」


 顔を上げると、童たちは怯えたように身構えた。


 恐れるのも無理はない。剣客が不吉な旅装をしているからだ。袴や脚具はむろん、塗笠や合羽さえも黒ずくめ。まるで、鴉のようである。

 さらにいえば、剣客は女だった。艶やかな黒髪から覗かせている顔立ちの異様な美しさが、童の恐怖をよけいに煽っていた。物の怪の類のように映ったのかもしれない。


 口々に悲鳴をあげながら、かれらは蜘蛛の子を散らすように去っていった。一人の子だけを取り残して――


「……どうして、闘わぬ」


 剣客が問いかける。子は、黙っている。

 まだ齢は十歳にも満たないか。背丈は、女の腰元までもなく、身体は痩せこけている。髪は荒れ、着物は汚れ、臭いも鼻につく。ほとんど餓鬼同然だ。


「……もっと、いじわるされる。だから……」


 子は絶望したように答えた。もう涙も出ないのだろう。うつろな瞳を浮かべて、影に向かって、うつむいているだけだ。


 剣客は、その小さなあごに手を添えると、唇を開かせて、一粒の食べ物を放りこんだ。蜜で練り固めた食料丸である。甘く、疲れが取れる代物だ。


 舌を転がして、子がそれを飲み込むと、剣客はすっと立ち上がった。揺れる黒鞘の刀が、ちゃりっと金属の音を鳴らす。


「わっぱよ、闘えよ。生きたいなら、闘え……」


 剣客は、村の方へと消えて行った。


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