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RERL  作者: 松下 模哉
8/10

再会

一同は耳を疑い、開いた口がふさがらなかった。


「お前本気か?」


土間が声を張り上げて言った。和島は黙って頷き、あくまで真剣な様子だった。


土間は少し考え込んだ後、頭を抱えて答えた。


「少し考えさせてくれ。こればかりは、俺一人で決めることはできない」


陸斗は妥当な答えただろうと思った。そして、彼自身も和島の言葉を聞いて内心、戸惑っている部分があった。損得で考えてみれば、和島は武力、体力が誰よりもずば抜けて高く、情報も取得している。それだけで考えれば断然、仲間にする方が得である。しかし、内面的に考えてみると信頼性に欠けるものがあり、自らの武力、体力を仲間のために使用するかは分からない。極めて困難な選択だった。


「翌朝。翌朝まで待つ。それまでに答えを出せ」


和島はいかにも優位に立った様な表情でこちらを見た。土間は唇を噛み締め、無言で会議室を後にした。それに続き陸斗たちも部屋を抜けた。


時刻は、6時55分。外は薄暗く、日没は間近だ。依然として、光輝、八重川、楓、季里子の姿は見えない。総務部のデスクで各々休憩をとっていた。


「俺は反対だぜ」


沈黙の最中、口を開いたのは峰だった。ネクタイを取って、ワイシャツ姿で右手にコーヒーカップを持っている。そこからは、湯気が見えた。


「僕は仲間にして良いと思いますけどね」


次に古淵が言った。峰は古淵の言葉を聞いて細い目で彼を睨んだ。古淵は縮こまることなく、淡々と話を続けた。


「あの和島って人、普通の人として見ると案外必要な人材かもしれませんよ。土間さんと同じで、この区役所で情報を会得しようと考えたわけですし、パックマンを撃退する力だってある。ただ、暴力団というレッテルが貼られているだけであって冷静に考えると仲間にした方が良いかと思います」


「その暴力団のレッテルがまずいんだろうが」


峰がぶっきらぼうに言い放った。


「確かにその通りです。和島さんが自身の能力を私たちに使用する保証はどこにもありません。はたまた、私たちを裏切り、逆に危険な目に合わせる可能性だって否めません。ですが、和島さんを"一人の人間"として考えるべきなのではないでしょうか」


陸斗は古淵の発言に一切の誤りがないことに気付いた。それよりも、古淵がここまで発言力があったことに驚きを隠せなかった。今までは、峰の後ろについていくだけの平社員のようだったのに対して、今では土間に劣らないほどの的確な発言者だった。


「おい、古淵。お前誰に口聞いてんだよ。俺は上司だぞ、なに指図してんだ」


峰が拳に力を込めているのがわかった。辺りに嫌悪な雰囲気が流れる中、唐突に善次郎が口を開いた。


「峰さん、こんな世界になっては上司も部下も関係ありませんよ。今ここにあなたの会社は存在しない。身分なんて存在し得ないものなんです大道さんも土間さんに先ほどおっしゃっていたでしょう」


峰をなだめるような口調で言った。貴史は善次郎を見たが、すぐに目をそらした。


「善次郎さんの言う通りです。私も未熟なものですから、さっき気付きましたが。今ここで無利益な言い争いをしたってただの時間の無駄です。今は和島を仲間に入れるかについて話し合いましょう」


土間が話を元に戻した。そして、続けて自らの意見を口にした。


「私は反対です。私情を挟んでいるわけではありません。しかし、皆さんを危険に晒したくはないんです」


「私も反対です。あんな人をこの子の近くにいさせたくありません」


薫が琴音の寝顔を見ながら言った。琴音はぐっすりと薫の腕の中で寝ている。


「僕は賛成かな。古淵くんの意見が最もだと思うんだ。あの人の人間性にかけてみようと思う」


貴史がこめかみ部分を指で掻きながら言った。


「私も賛成です。あの人の目から覚悟が見えました」


微笑を浮かべながら善次郎が言った。


残るは陸斗一人だった。皆の目線が陸斗に向く。


「俺は…」


その瞬間、一斉に携帯が鳴った。運営側からだ。


【〈連絡〉

小泉 光輝、八重川 透、岡部 咲枝、 岡部 誠の捕食を確認。

丹波 一郎の爆死を確認。消滅決定。


〜残りプレイヤー〜

土間猛、三山楓、濱田陸斗、城川善次郎、和島剛、大道貴史、藪下季利子、宮澤薫、宮澤琴音、山田奈央、三津谷京平、阿部光太郎、峰駿太、大崎大志、古淵学、小山田知宏、濱田武洋、大内桜子、川崎雅彦、日比野勇弥、小田翔二、古俵亜美、早川進哉、八尾莉紅斗


そして現在、時刻は午後7時を過ぎました。すぐに夕食を郵送いたします。少々、お待ちください。


それでは引き続き楽しいゲームライフをお楽しみ下さい。

運営より】


「うそだろ…」


陸斗は自分の目頭が熱くなっていくのがわかった。


「光輝くん…八重川さん…」


土間がため息混じりに言った。辺りからは、しゃくり泣く声が聞こえた。


「でも、楓ちゃんと薮下さんは生きてる…早く見つけないと…」


貴史は洋服の裾で、涙を拭きながら言った。確かに、貴史の言う通りだ。捕食された人間はもう戻っては来れない。 生存を確認できた人達だっているのだ。陸斗は今にも溢れだしそうな涙を拭った。


視界が鮮明に見えるようになると、突如目の前に現れたのは黄色い球体だった。デスクの上に乗っている。


陸斗は腰を抜かして椅子から転げ落ちた。


「うそだろ!」


土間も陸斗が椅子から落ちる音で気が付き、すかさず拳銃を構えた。


しかし、黄色い球体は動こうとはせずに、ただ両者一歩も動かぬ状況が30秒ほど続いた。


陸斗のごくりという唾を飲む音が聞こえるほどの沈黙だった。すると、突然黄色い球体から、コンピューターで作成されたであろう、音声が聞こえてきた。


「午後7時を過ぎました。夕食の時間です」


すると、黄色い球体は透過していき、次第に消えていった。そして、そこに残っていたのは、出来立てだと思われるカレーが人数分用意されていた。


「カ、カレー?」


スパイスの効いた匂いが鼻を通り抜ける。すると、会議室から徐ろに和島たちが出てきた。


「もうそんな時間か。何だお前ら。食べないのか?」


和島が不思議そうな顔をして、デスクのカレーを手に取った。


「見るからに危ないだろそのカレー」


貴史が言った。


「大丈夫だろ。食料はこちらで提供するってルールに書いてあんだから。こんなとこで毒もって、俺ら殺しても運営側としちゃ、なんの得にもならねえしな」


皆は、和島の言葉に納得したかのような様子で、それぞれカレーを手に取った。


「土間さんは食べないんですか?」


デスクに腰をかけている土間に、陸斗が尋ねた。何か考え事をしているようだ。そんな陸斗の言葉も上の空で、ずっと外の街灯を見ていた。


「土間さん?」


陸斗がもう一度呼ぶ。土間はその呼び声に気づいたかのように目を開いて、陸斗の方を向いた。


「あ、後で食べるよ。そこに置いといてくれ」


土間の声からは精が感じられなかった。何を考えているのだろう。陸斗は疑問を抱きながら、土間の分のカレーをデスクに置いた。



時刻は午後7時47分。全ての食器が綺麗にたいらげられていた。土間の食器も綺麗になっている。


「区役所に入ってもうすぐ3時間が経ちます。一旦ここを出ましょう。ルール違反になってしまいますので」


先程の土間とは全くの別人のようで、視線は真っ直ぐを向いていた。土間が不意に見せる、あの不安げな表情の裏には何が隠れているのだろうか。陸斗は単刀直入に聞いてみたかったが、その言葉は喉の奥で止めておいた。


「これって、一瞬だけでも外に出たらリセットされるんですかね」


貴史が尋ねる。


「私もよくわかりませんが、今回はある程度の時間、外に出てみましょう。楓さんや季里子さんのこともありますしね」


土間が窓から外を見ながら言った。


「和島さんたちはどうするんだろう」


陸斗が会議室のドアを見ながら不安げに言った。


土間はその言葉を聞くと、目を細めて陸斗と同じ方向を向いた。


「ああ、あの人たちは先程静かに外に出ていきましたよ。私たちが見ていない間にね」


善次郎が椅子の背もたれに寄りかかりながら、小さな笑みを浮かべて言った。


土間は少し表情を変えたが、すぐに平静を装った。


「それなら話は早い。行きましょう」


そう言って陸斗たちは、階段を使って一階ロビーへと向かった。


一階ロビーは依然として異臭が漂っている。この異臭も和島が何かしら知っているのだろうか。陸斗は怪訝した表情でそう考えていた。


ひとまず、自動ドアを抜け建物から外に出てきた。渋谷ということもあり、外は昼のように明るかった。店などの電気が付けられているのだ。どうやら、店の大半が自動で電気が付く仕組みになっているらしい。


区役所を出てすぐに何かの大きな音が聞こえた。パックマンだ。陸斗たちは、路地裏に入って身を隠した。


「こんな狭い通路で見つかったら、全員一網打尽だぜ」


峰が不平をこぼした。


「今隠れられるのは、ここら辺しかいないんだからしょうがないだろ」


貴史が呆れたように言い放った。パックマンは、陸斗たちの存在に気づいていない。大きな音を立てながら、彼らの前を横切っていった。


皆は安堵し、顔の強ばりが消えた。土間が路地裏から顔を出して、辺りを見渡す。彼はこちらを向いて、手招きをした。それに続いて陸斗たちも路地裏から出た。


「なんで、電気はついてるんでしょうね。人がいないのに、電気も水も火も使える」


貴史が「大洞明」という飲み屋の看板を見ていった。その店は、赤いライトを使っていて、一際目立っていた。


「そう考えてみると、おかしな点なんていくつだって上げられるぜ。人が消えた瞬間あっちこっちで事故が起こってもおかしくないのに煙一つ上がってない。それに、食料だって誰が作ってんだろうな」


峰が言った。それを聞いた陸斗は人が消えた瞬間のことを思い出していた。確かにあの時、ドライバーが居なくなった車が暴走してあちらこちらで爆発していたはずだ。彼はあの時のことを鮮明に覚えていた。


「じゃあ、あれはどうなったんだ…」


陸斗が呟いた。


「なにかあったんですか?」


土間が尋ねてきた。陸斗はあの時見たことをそのまま話した。土間はその話を頷きながら聞いていた。


「何者かによって修正されたってことか…」


古淵が考え込むように言う。貴史がなんのためにそんなことをするのか、尋ねた。


「ゲームに支障が出ないため?」


古淵が自信なさげな表情で応えた。


「どうして、運営側はそんなことまでしてこのゲームを遂行させたいんだろう。俺たちはそれに利用されてるってわけですね」


陸斗が頭を抱えたように言った。なんで、自分達がこんな目に。彼は改めて悔やんだ。



時刻は午後9時。外に出てから1時間半ほどが経過していた。その間、パックマンを見かけたのは二回ほどだった。


「そろそろ帰りましょう。楓さんや季里子さんはもう少し待った方が良さそうですね」


土間が俯きながら言った。連絡をとろうにもあの土間の一斉送信の件から、運営側が手を回してメールをさせないようにしている。


依然として、運営側の目的、人物などはわからないまま、区役所に戻った。


先程いた、4階の総務部署まで行った。長い廊下を進むと、何者かの足跡が地面に張り付いているのがわかった。


「これは?」


善次郎が、しゃがみ込み足跡を指で拭き取った。


「土みたいだね。足跡が小さい。きっと女性だろうか」


「なんか、善次郎さん探偵みたいですね」


陸斗が笑いながら言った。


「昔少しかじっててね。もう、忘れちまったけど」


善次郎が、照れたように頭を掻いた。


総務部署につくと、ソファに座る二人の影が見えた。


「みなさん…?」


その影から声がした。女性の声だ。土間が急いで電気をつけ、二人の顔を確認した。


「楓さん…季里子さん…」


土間は膝から崩れ落ち、安心したのか、静かに泣き始めた。他の皆も安堵の表情を浮かべている。薫は琴音を抱えながら、楓と季里子に強く抱擁した。その目には涙が伺える。


「これで全員揃いましたね。あと三時間以上建物内にいても心配ありません。ここで夜を越しましょう。」


土間が涙を拭きながら言う。全員一斉に頷いた。



ゲーム終了まであと10分。時刻は11時50分。皆、各々の方法でくつろいでいた。貴史は、一日の疲れを癒すかのようにぐっすりと寝ていた。


すると、何者かが走ってくる音が聞こえた。一同は体を起こして辺りを見渡す。そこには、顔が青白くなった和島の顔が見えた。息も荒く、目の焦点があっていない。そこには、同じような状態の小山田の姿もあった。しかし、古俵の姿はなかった。


「逃げろ!逃げてくれ!建物内にあいつらが来る!」


和島が叫ぶ。


「どういうことだ?なぜ、建物内に入ってこれる?」


「誰が、建物内に入れないと言った!奴らは普通に入ってくる!現に、今もここに向かって来てんだ!」


陸斗は状況が掴めず、ただただ唖然とするばかりだった。

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