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RERL  作者: 松下 模哉
5/10

連鎖

陸斗たちは、レストランを出ると渋谷駅へと向かった。


その間に、黄色い化物に食われたら元も子もない。そのため、周りを厳重に見渡しながら、歩き始めた。


「それにしても、この土間って方、よく頭がキレますね」


と貴史が言った。彼の顔は、明るくそれを見る陸斗も自然と気持ちが明るくなった。


「確かにそうですね。運営側を利用して、一斉メールなんて普通、思いつきませんよ」


二人はこの、土間という人物に会うのが待ち遠しくて仕方がなかった。それは、この人と一緒にいれば、ひとまず安心だろうと思ったからだった。


「あっちには何人いるんでしょうね」


「10人いてくれたら、こちらとしても頼もしいけどね」


駅へと向かう際の、二人の会話は案外弾んだ。


家族の話、それぞれの生い立ち、趣味など。二人は、かなり深くお互いを知った。そのため、二人の間には小さな絆のようなものが芽生えていた。


そのことを自覚した陸斗は、とても驚いた。そして、このゲームが開始される前の、自分を見つめ直すと、とても情けなく感じたのだった。自分を封じ込めて、他との協調関係を拒んでいた以前の自分に、教えてあげたくなった。人というのは温かいと。


自分でも、なんて簡単なんだろうと思ったが、人間というのは案外そんなものかもしれないと、陸斗は感じた。


駅へと向かう途中、幸い黄色い化物は現れず、無事に渋谷駅の東口に着くことができた。会話をしていたからか、陸斗たちは、着くのが思ったより早く感じた。


駅構内に、足を踏み入れた陸斗と貴史は、足早に休憩スペースへと向かうのだった。


貴史は、どうやら渋谷駅は慣れていないらしく、陸斗にただただついていくだけだった。


「悪いね。渋谷駅は迷路みたいでどうしても道を覚えられないんだ」


貴史がそう言って、自分のこめかみ辺りを指で掻いた。


「まあ、わかります。迷宮ですよね」


このような、たわいもない会話をしている間に、約束の場所である、休憩スペースが見えた。


貴史は、真っ先に休憩スペースのドアをあけた。


するとそこには、10人ほどの男女が既に集まっていた。警官の格好をした男、制服を着ている子供、老人、親子、泣いている若い女性、スーツを着た男達。


その十数人が、一斉にこちらに顔を向けた。


「君たちもプレイヤーかな」


最初に言葉を発したのは、いかにも高そうなスーツを着ている男だった。右手につけている腕時計は、いくらぐらいするのだろうか。ただ、見る限り、十万円は優に超えるだろう。


「はい、そうです」


貴史が答えた。


「これで、十二人ですか。思ったよりも、集まりましたね」


警官の格好をした男が言った。そして、話を続ける。


「では、皆さん。わざわざ、ここまで来て頂いて、お手数をおかけしました。

僕は、警視庁捜査一課警部の土間猛です。歳は二十六です。

しかし、警察だからといって、このゲームの全貌を知ってると思わないでください。私も何も知りません。本当に申し訳ない限りです。

それでは、自己紹介の方を皆様それぞれおねがいします。」


陸斗は、拍子抜けした。捜査一課の警部が、こんなゲームに参加したのかと。捜査一課の警部はかなりの地位を持っている。そして、二十六歳という若さにまたもや驚くのだった。そのような人がここにいるなんて。陸斗は驚きを隠せなかった。


次に自己紹介をしたのは、先ほど話した、高貴なスーツを着た男だった。一度、咳払いをしたあと口を開けた。


「えぇ、三十九歳、八重川透です。八重川商業グループを皆さんご存知ですか?そこの、社長をやっております。まぁ、固くならずにいきましょう」


はたまた、陸斗は目を丸くした。八重川商業グループという企業は、現在、時代を担うほどの大企業であり、株も上がり続けているという、今最もキテいる企業なのだ。大企業の社長までこの場にいることを知り、陸斗は何故か変な汗をかき始めた。


そして、続けて皆があいさつし始めた。


「私は、元宮高校一年C組の三山楓、十六歳。なんか、もうよくわかんないけど、本当に宜しくね。死にたくないもん」


スカートを短くした高校の制服を着て、傲慢な態度で、腕を組みながら楓は言い放った。


周りの人が少し、眉間にしわ寄せたのが陸斗にはわかった。


「私は、宮澤薫です。この子は、琴音といいます。足手まといにならないように出来る限りのことはなんでも致します」


次に名乗ったのは、少し涙目の親子だった。丁寧な口調で、自己紹介を薫が終え、薫の背中から、琴音と思われるショートヘアの少女がひょこっと顔を出した。


次に、臆病な口調で話し出したのは、制服を着た男の子だった。


「えぇ、僕は小泉光輝といいます。光り輝くと書いて、みつきって読みます。えぇ、白菊中学校2年です」


光輝は、目を泳がせながら、自己紹介を終えた。彼の膝は見て取れるほど震えているのがわかった。このような世界になってしまったのだ、無理はないだろう。陸斗はつくづくそう思った。


そして、次に流暢な口調で話し始めたのは、スーツを着た男二人だった。


「俺は、株式会社アイサリンの開発部部長、四十九歳、峰駿太です。それで、こいつが部下の古淵学。あれ、年いくつだっけ」


峰が、古淵という男を指差しながら質問した。


「四十二歳です」


「あぁ、そうだそうだ」


古淵は少し怪訝そうな顔で峰の質問に答えた。


二人が自己紹介を終えると、後ろから咳払いが聞こえた。


「私は、城川善次郎というものです。六十六歳。年寄りなのであまり走れません。今の状況もよくわからない。いざとなれば、私を捨てて皆様お逃げください」


善次郎は、笑顔で言った。すると、


「それはできません。僕は、このゲームを協力して生き残るために、皆様を呼び集めたのです。誰一人消さしはしません」


土間が食い気味に言い放った。一同は、土間の大いなる正義感に圧倒された。


善次郎は、「ありがとう」と微笑みながら頭を下げた。


続けて土間が、壁にもたれかかって泣いてる女性を指しながら言った。


「あの方は、藪下季利子さんです。東京総合病院で看護士をやってるそうですが、今は軽いパニック状態で、会話もまともにできません」


土間がそういったあと、一同は、陸斗と貴史の方を見た。結局、残ったのは、陸斗と貴史の二人だけだった。


二人は申し訳なさそうに、挨拶をして、全員分の挨拶は終わった。


陸斗と貴史は、空いている椅子に腰を掛けた。


皆が、不安や恐怖との葛藤を脳内で繰り広げているのは、手に取れるほどわかる。陸斗自身もそうだからだ。


そんな、不穏な空気の中、最初に口を開けたのは、やはり土間だった。


「まず、今現在の状況の整理でもしましょうか」


少し明るげな口調で土間が言う。


「そんなことやったって、意味ないじゃん。私達、もう死ぬんだよ」


楓が、眉をひそめながら言った。


すると


「お嬢ちゃん。そんなことないさ。俺らで、このゲームの攻略法探そうじゃないか」


八重川が、温かい言葉を楓に投げかけた。楓はその言葉を聞き、うつむきながらも、その顔から眉のしわは消えていた。


「そうです。八重川さんの言う通り。ゲームというものには必ず攻略法があります。それを皆様で見つけましょう」


土間が続いて言った。


陸斗は、その通りだと思った。これまで、引きこもってゲームをやり続けてきたが攻略法がないゲームなんてひとつも見たことがない。


すると、


「どうせ、あの化物、男の平均走行速度でしか走らないんだろ?そんなら、攻略法もなんも一週間くらい余裕で逃げきれるんじゃないか」


峰が得意気に発言した。


陸斗はその発言に違和感を感じた。なにか忘れてるのでは。


陸斗はもう一度メールを見返した。彼は確信し、峰の発言を断ち切った。


「この、メールのゲーム概要に『特性はそれぞれ持つ』ってありますよね。これって、速度とかも関係してくるんじゃないですか?」


峰は、仏頂面でこちらを睨んできた。


「僕の…有り得ないほど速かったです…」


光輝が恐る恐る言った。


「どのくらいだった?」


陸斗が尋ねる。


「多分車の速さくらいはあると思います。でも、その分、真っ直ぐにしか走れていませんでした」


「なるほど、特性がある分、何か欠点があるのか」


すると、さっきまでうつむき泣いていたはずの季利子が唐突に顔をあげ、立ち上がった。その目は、赤く腫れ上がり、涙がまだ少し見えた。


すると、季利子の口から思いがけない言葉が発せられた。


「私を追いかけてきたやつは、人の形をしていました…」


全員、季利子の方を向き唖然とした。


「人の形…」


先程まで静かに黙っていた貴史が言った。


「そんなの、逃げれるはずないじゃないか。騙されて食べられちまう。そんなの御免だな」


峰が、ため息混じりにいった。


季利子は、もう一度座り込み顔を下に向けた。


「それより、こんなところにずっと居座ってて大丈夫なんのですか?あの、化物さんはここまで来ないのですかね」


善次郎が、いつもの微笑みを保ちながら言った。


「その必要はないかと思います。大道さんと、陸斗くんが来たあとドアに鍵を締めましたので」


「でも、ドア壊す可能性だってあるじゃない」


楓が言った。


その一言で皆の顔が曇りがかったように見えた。


少しの間、誰一人話さず、ただただ沈黙が続いた。泣き続けるもの、不安げな顔でうつむくもの、これからの対処法を考えるもの。




陸斗は既に決心していた。一週間この世界で生きようと。必ず生き延びると。



そんな中突然、全員の携帯が振動し始め、メールの受信音が流れた。


突然のことだったので、一同は面を食らったように驚いた。


それぞれが、自分の携帯を開きメール内容見た。また、運営側からなのだろうと、皆呆れ顔だった。


それは意に違わず、運営側からのメールだった。しかし、その内容は想像を絶するものだった。


【〈連絡〉


"駒田 俊太郎"の捕食を確認。消滅決定。


〜残りプレイヤー~

土間猛、八重川透、三山楓、濱田陸斗、城川善次郎、和島剛、大道貴史、藪下季利子、宮澤薫、宮澤琴音、小泉光輝、丹波一郎、山田奈央、三津谷京平、阿部光太郎、岡部咲枝、岡部誠、峰駿太、大崎大志、古淵学、小山田知宏、濱田武洋、大内桜子、川崎雅彦、日比野勇弥、小田翔二、古俵亜美、早川進哉、八尾莉紅斗


楽しいゲームライフを引き続きお楽しみください。


運営より】


「捕食…」


琴音のことで頭がいっぱいだったため、今まで話さなかった薫が、最初に口を開いた。体が震えながらも自身の左腕で琴音を抱いていた。琴音はなんのことかもわからず、大きな目で薫を見つめていた。


皆の顔も、見たことのないほどの強ばりを見せていた。


「人が死んだ」


「ついにか…」


「いやだ!私死なない!まだ死にたくないもん!」


貴史、八重川、楓と続けて言った。


一同、我を失ってるように見えた。一人一人が別々の心情を持ち、別々の言葉が辺りを飛び交っていた。


それもそうだろう。初めて、このゲームで人が死んだのだ。全員、より一層『死』への現実味がおび、恐怖も増幅していることだろう。


しかし、その時、陸斗は別のことで驚愕し、全身が小刻みに震えていた。傍から見ると、人が死んだことからくる、身震かと捉えられるが、それは全くの別物だった。


「残りプレイヤーに…」


陸斗が震える唇で言葉を発した。土間がそれに応えた。


「どうした?陸斗くん」


「残りプレイヤーに、父親の名前がある…」


陸斗が、そういうと一同は凍りついたかのように静かになった。


「しかし、同姓同名の方っていう可能性も否めないよ。濱田武洋さんなんていっぱいいるさ」


善次郎が、陸斗を安心させるかのように肩に手を置きながら言った。


すると、椅子に腰をかけていた貴史が、何かに気づいたかのように、頭を抱え込んでいた手を元に戻した。しかし、彼は何も語らず、黙って善次郎と陸斗を見つめていた。


「そうだといいんですけどね…」


陸斗は絶望の果てに立たされたかのように暗い声で応えた。


するとまたもや、全員の携帯が鳴り始めた。陸斗は、どうしてもこの音に慣れず、毎回驚いてしまうのだった。


すると、


「やめてくれ…。もうやめてくれ!!」


さっきまでおどおどしていた、光輝が気狂いしたかのように、絶叫し始めた。


無理もないだろう。そう思いながらも、全員光輝と同じ思いを持っているのだった。


それぞれ、自分の携帯に目をやった。


【引き続き申し訳ございません。今現在、パックマンはステージ上に40体います。しかし、それだと少し少ないような気がしました。ですので、増やすことにします。安心してください。その分ハンデも作ります。

~ゲーム概要の追加~

・毎時十時間ごとにパックマンを5体新たに投入する


・室内で引きこもるのは最長3時間。ただし、非活動時間に関しては活動時間まで室内待機は可とする


・パックマンが基本活動するのは午前六時~午後十二時まで。しかし、その間は睡眠しているだけであり、物音などすると目を覚まして活動を始める


今回新たに三つほど追加いたしました。まだまだ随時追加していきます。


では、楽しいゲームライフをお楽しみください。


運営より】


土間がメールを見て言った。


「最長三時間!?

我々がここに入ったのは確か、午前十時三十分ほど。そして、今は午前十二時四十三分。危ないところだった。あと、四十七分ほどある」


「どうするよ。いつここをでる?」


八重川が問う。


「そうですね。皆さん、いつでも出れる準備をしておいてください。これからが、本番です」


土間が真剣な眼差しで皆を見渡した。


「これからが、本番か…」


陸斗が声を潰してつぶやいた。


そして、全員が外出する準備をし始めた。それぞれが、別々の思いを抱えながらこの世界にいる。これからが本番。陸斗の脳内にこの言葉がぐるぐると回り続けていた。










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