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RERL  作者: 松下 模哉
10/10

創造

「この書類を見てくれ」


そういうと和島は、手に持っていたA5サイズの茶封筒から、いくつかの書類を取り出した。すると、その紙を皆に渡し、説明を始めた。


「このゲームについての説明と、この世界についての説明がそこに記載してある」


どうやら、和島が書類をコピーしていたようだ。そこには見覚えのある、このゲームのルールなどが綴られていた。


「どうやら、このゲームの主催者はオリエント社という企業らしい。手元の資料によると、このゲームを開催するにあたって渋谷区を使用したいという許可証がそれだ」


「オリエント社ってどんな会社なんだ?」


貴史が和島に問いかけた。和島はすこし困った様子で書類に目をやった。


「そこまでは、この紙切れじゃわからない。だが、ゲームの真の内容、仕組みがここに記されている。もちろん、俺らがここにいる理由もだ」


俺は首筋を汗が流れ落ちるのを感じた。


「手元の資料の2枚目を見てくれ。それは、このゲームの目的、仕組みが書かれているものだ」


そこにはこう書かれていた。


【今回、私たちが開発に成功した『パラレルメイク』の権利を私たちは、国に譲歩したいと思っています。総理と直接お会いし、後ほどその用途は話し合うつもりですが、もしも総理が信じられないというのならば、この『パラレルメイク』を立証するためにこの渋谷区をお借りしたい所存です。


『パラレルメイク』

この世に無数に存在するとされてきたが、それが本当か立証されていないパラレルワールドを人為的に創造すること。そして、そこに生存する人間を置き、世界の設定を変えて、新しい世界を作り出す。】


「パラレルワールド…?じゃあ、この世界って…」


俺は困惑した。そんなことが現実的に有り得るのか、ありもしないパラレルワールドを人為的に作り出せるのか。数多くの疑問が頭の中に、浮かんでは消えていった。


「いいや、ここはどうやら、パラレルワールドではないらしい。それについては、この後述べられている」


和島は至って冷静な口調で言った。この事実を知った上で冷静にいられるとは信じ難かった。


「それなら、総理は信じなかったってこと?だから、このゲームが実行されたの?」


楓は不安げな表情をしている。今にも綺麗な瞳から涙がこぼれ落ちそうだった。


「まぁ、そういうことになるだろうな」


「この許可証、区長の印鑑が押されてない。ってことは、区長は許可しなかったのか。じゃあ、なんで渋谷区が使われているんだ?」


土間は混乱するように頭を掻きむしった。こんなにも非現実的な資料を唐突に見せられ、今すぐ信じろというのも容易ではない。


「疑問があるのはわかるが、次の3枚目を見てくれ。これは、俺らがこの世界に来た時の日についてだ。俺らがこの世界に来たのは2015年6月13日。どうやら、この日が鍵になっていたらしい」


和島の額から汗が流れた。手元の資料には、この日について、 びっしりと文字が綴られていた。


【2015年6月13日。この日、核放射線の突発的大量放出が一時的にこの地球上で起こる。それによって、体調不良者、激しい傷みを訴える者、最悪、死に至る者さえも現れるだろう。また、その異常現象により、時空を揺るがす"時空の穴"が発生し、地球を包み込む。

"時空の穴"とは光速度で移動できる時間も空間もない電磁エネルギー場で構成されている。この宇宙は万物が同じであるが、少しずつ異なるパラレルワールドから出来ていて、"時空の穴"はその間の往来を可能にする天然のパラレルワールドへの入口である。その"時空の穴"に地球が覆われてしまった場合、全人類が別のパラレルワールドの全人類と入れ替わる。

しかし、その"時空の穴"を使って我々が人為的に創り上げたパラレルワールドに人類を強制的に連れていくことができる。

これを使って6月13日にある実験を行いたいと思っている。】


「悪いが、こればかりは、俺も良く分かってない。俺のこのちっぽけな脳じゃ、理解不能だ」


和島は、両手を挙げてお手挙げというようなポーズをした。すると、土間が徐に立ち上がり、どこからか3つのペンケースを持ってきた。


「つまりこういうことじゃないですかね」


土間がそういうと、一同は土間を見つめて彼の説明に耳を傾けた。


「これが、私達が暮らしていた世界。これを仮に世界Aとします。そして、こっちが無数にあるとされるパラレルワールド。つまり、私達がその日、行くはずだった世界です。これを仮に世界Bとします。この二つの世界にペンが入っている。これは、私達、全人類とでもしましょう。この、世界A、Bにそれぞれ別世界の私達が生存しています」


そういうと、土間は二つのペンケースにペンを一本ずつ入れた。


「本当ならば、この世界Aの私達と、もうひとつの世界B私達がその日に、入れ替わるはずだったのかと思われます」


土間は二つのペンケースに入っているペンを別々に入れ替える素振りをした。


「しかし、オリエント社の技術により、世界Bと入れ替わるのではなく、このオリエント社が新たに創りあげたパラレルワールド、世界Cと入れ替わることになったのです」


土間は、もうひとつの何も入っていないペンケースを世界Cとして、説明を続けた。


「そうして、この元の世界である世界Aの全人類は人が存在しない世界Cと入れ替わることにより、この元の世界Aは人が存在しない世界になったというわけではないでしょうか」


そう言って、土間は世界Aのペンケースに入っているペンを、世界Cに見立てたペンケースに入れた。


「なるほどな」


和島も納得した様子で、腕を組んでいた。


「じゃあ、この俺らがいる世界が元の世界Aなら、なんで俺らは残されてんだ?」


峰が頭を抱えて言った。峰が言ったことは確かに一番の疑問である。どうやって、ここに残ったのだろうか。俺も考えたが何も浮かばなかった。


「それは、これが関係してると思うんだ」


そういうと、和島は着ているスカジャンのポケットから、見覚えのある歪なバッジを取り出した。


「あ!それ!」


皆が一斉に叫んだ。


俺もそれを持っている。そのことは鮮明に覚えていた。人酔いをして、店に入ろうとした時に、スーツ姿の年寄りに貰ったやつだ。


「私も持ってるよ!」


「俺もだ」


そう言って、皆はポケットから同じような歪なバッジを取り出した。


「やっぱり持ってたか。小山田も大俵も持っていたから何か関係しているんじゃねえかって思ってんだ」


「このバッジが放射線どうこうに影響を与えてるのか?」


貴史がバッジを見つめながら言った。


「あくまで、予想だけどな。だが、これが、俺らプレイヤーの共通点の一つなのは確かだ」


和島はその歪なバッジを高く上げて見上げた。すると、そのバッジは太陽の光を浴びてキラキラと怪しく輝いた。


「こんなのが、あるからいけねえんだ!こんなの捨ててやる!」


峰は気が動転したかのように自分が持っていた歪なバッジを大きく振り下ろし、地面に叩き付けようとした。


「やめろ!」


和島が大きく怒鳴った。峰は動揺したかのように、その場にゆっくりと座り込んでしまった。


「な、なんだよ」


「お前らがここに来る前、丹波一郎ってやつがいてな。そいつもバッジを投げ捨てた。そしたら、バッジが地面に叩かれて砕けた瞬間、丹波の体は一瞬にして爆発したんだ。入口前でお前らも気づいたと思うが、生臭い匂いはその丹波の死体の匂いだ」


和島は拳を強く握り締めた。


「八重川さんと光輝たちの死亡連絡の際に、確かに一人"爆死"って書いてあったような」


貴史は、携帯を見返しながら言った。それを確認すると、皆にそれを見せてきた。確かにそこには"爆死"と綴られていた。


「あの匂い、人の血の匂いだったなんて。なんか、急に具合悪くなってきた」


楓が口元を抑えながら苦しそうにいった。無理もない。ただの一般人は人の死体の匂いを嗅ぐ機会など到底ないのだ。


いろいろ話したが、もちろん、これだけでは分からない事が山程ある。俺の頭の中で数多くの疑念が未だにさまよっては消えていった。


そんな、俺の不満げな表情を汲み取ってか、土間が口を開いた。


「この書類だけじゃわからないことはたくさんあるでしょう。パラレルワールドをどうやって作るのか、俺らを追っているパックマンはなんなのか、許可されていないのにゲームを開始したのはなぜか、なぜ私達が選ばれたのか。

考えれば考えるほど疑問は深まります。ですから、今は考えないでください。難しいお願いなのは承知の上です。ですが、今はこのゲームに従って、ゲームクリアをする他ありません。その疑問を解決するのはその後にしましょう」


皆は土間の意見に頷いた。ある程度のことは、理解ができたのも確かだ。かなり現実とはかけ離れているものの、それが今現在、実際に起こっているのだ。俺は改めて気を引き締めるつもりで、自分の頬を軽く叩いた。



【午前10時を過ぎました。特別自由時間はこれにて終了とさせていただきます。有意義な時間は過ごせましたでしょうか。

これから、午後12時までゲーム再開です。

そして、その前に残念ながら命を落とした人達の連絡です。


〈連絡〉

古俵 亜美の捕食を確認。

小山田 知宏の射殺を確認。

川崎 雅彦の刺殺を確認。消滅決定。


〜残りプレイヤー〜

土間猛、三山楓、濱田陸斗、城川善次郎、和島剛、大道貴史、藪下季里子、宮澤薫、宮澤琴音、山田奈央、三津谷京平、阿部光太郎、峰駿太、大崎大志、古淵学、濱田武洋、大内桜子、日比野勇弥、小田翔二、早川進哉、八尾莉紅斗


それではスタート】


午前10時に時計の針が合わさった途端、このメールが送られてきた。これからがこのデスゲーム二日目の始まりだ。


「え、刺殺?誰かが殺したってこと?」


楓が携帯を見ながらそういった。確かに簡単に言えばそういうことになるだろう。


「この状況下で殺人が起きるなんて。まぁ、小山田もだけど」


貴史は窓の外を見ていた。


「まぁ、他のプレイヤーも気が動転しているのかもしれませんね。プレイヤー同士にも気を付けないと」


俺自身だって気が動転していないのが不思議なくらいなのだ。すると、土間はおもむろに立ち上がり、口を開いた。


「今日から行動を4つのグループに分け、仕事を分担していきたいと思っています」


土間の服装はまた綺麗な濃紺の警察服に変わっていた。


「グループ?仕事ってなんだ?」


峰がコーヒーを飲みながら言った。デスクの上には砂糖の袋が3袋捨ててある。


「私達、11人で4つのグループに分けたいと思っています。1つ目の仕事は、この建物で体を休めること。2つ目の仕事は、この建物の入口前でパックマンを見張ること。3つ目の仕事は、拳銃や銃弾などの武器の調達。そして最後の4つ目の仕事は、オリエント社がある建物を見つけ出すこと。この4つの仕事をできるだけ順繰りに回していきたいと考えています。この仕事を3時間ごとに回すことで、合理的にルールに則って活動できます」


「おいおい、待ってくれ。それぞれの仕事の内容はわかったけど、武器の調達って僕たちもやるのか?あんたら、警察とかヤクザは慣れてるかもしれないが、僕ら一般人はそう簡単に扱えるものじゃないですよ」


貴史がソファに腰をすえて言った。


「確かにそうですね。その仕事は私と和島のどっちかとくっついたチームが行うことにしましょう」


土間の意見に皆は頷いた。


チーム分けは紙切れのくじ引きで行われた。


その結果、Aチーム土間、藪下、古淵、Bチーム濱田、三山、Cチーム和島、峰、Dチーム大道、城川、宮澤親子というチーム編成となった。仕事割りは、Aチームがオリエント社を探し、Bチームが建物の見張り、Cチームが武器の調達、Dチームが休憩となった。


「それでは皆さん、誰一人欠けることなく、この1日を終えましょう」


土間の言葉に皆は深く頷いた。



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