第六話:友達は選びます
葬儀が始まり、故人の安息の為に祈りが捧げられる。
暖炉はあるが、放火事件と言う事に配慮して点けられていない。……と言う事は、土砂崩れ等で生き埋めになった人の棺は、土葬しないのかな?
コートを脱がなくて良かったのは、この為だったのだろうか?
代わりに、火属性の【ギフト】を持っている人達が温風を起こしている。後でカルさんに聞くと、火を出さずに空気を温める事が出来るのは、上級以上との事。
尚、この大聖堂に墓地は無い。その為か、王侯貴族は屋敷の敷地に納骨堂が在り、そこに埋葬されるらしい。なので、葬儀の後、王都の南西にある墓地まで移動しなければならないのだが、これだけの数の棺を移動させるのは大変ではないだろうか? どれぐらいの時間がかかるのだろう?
聖歌斉唱や聖水によるお清め等が済んだ後に、会葬者の受付が始まった。
「第二王子シリウス殿下の御成ーりー!」
張り上げられたその言葉に、私以外の全員――警備の神聖騎士達を除く――がサッと跪いた。椅子なんて置くスペースは無いので、全員立っていたのだ。
「フローラは良いんだよ」
慌てて彼等に倣って跪こうとした私に、カルさんがそう囁く。
シリウス殿下は、黒い髪の美少年――恐らくビシュヤ王国の第二王子様――と護衛らしき黒いコートを来た数名の男性を従えてやって来た。
「シリウス・エル・ゾルゾーラだ。ゾルゾーラ王家を代表し、ユーアン会長と一族郎党の逝去を悼み、謹んで哀悼の意を表する」
「態々御忙しい中ご参列頂きまして、ありがとうございます」
皆跪いて顔も上げない中で私だけ殿下の相手をしているから、落ち着かない。しかも、シリウス殿下は、同じ人間とは思えない程の美少年である。
「ユーアン会長には、成人してからの返済と言う条件で大金を貸して貰い、感謝している」
「大金を……?」
証文は何処に在るんだろう?
「ああ。護身用に私兵が欲しくてな」
シリウス王子は後方の男性達を振り向いた。10代後半から20代だろうか? 全員男性かと思っていたが一人女性……いや。違うな。腰の位置からして男性だ。一見美少女に見える彼は、シリウス殿下程ではないが可也の美少年だった。
「と言うのは表向きで、糞兄貴の親衛隊にするには勿体無いから奪ってやった」
えー? でも、第一王子の親衛隊なら何れ国王の近衛になるんでしょう? 名誉とか欲しかったんじゃ……? あ、でも、『天級』の方が地位が上だから、シリウス殿下の親衛隊の方が良いのかな?
「シリウス。こんな所でそんな汚い言葉を使うものじゃないよ」
黒髪金目のキラキラした美少年が……ん? キラキラ? ……まさか、これは一目惚れと言う奴だろうか? でも、別にドキドキしてないけど……?
「あんな奴、糞でも上等な表現だが……失礼した。フローラ嬢」
美少年が糞だなんて言わないで欲しい。
「いいえ。それにしても、随分軽蔑していらっしゃるんですね」
「汚兄様をよく知っても軽蔑しないのは、汚妃様ぐらいなものだろう」
脳内翻訳自重しろ。
「シリウス。『天級』なんだから、発言に気を付けて。ラヴィータ殿下を貶したら、君を次期国王へと推す声が増えるよ。君もそれを望んでいるように見えるからね」
「それは困る……」
「どうして、そこまで軽蔑していらっしゃるんですか?」
私が尋ねると、シリウス殿下は遠い目をした。
「子供は知らない方が良い」
一体、何を知ったんですか?! 知りたい様な、知りたくない様な……。
「ラナ・エル・ビシュヤです。同じ『天級』として、深く哀悼の意を表します」
黒髪金目の美少年は、思った通りビシュヤ王国の王子様だった。キラキラしているから、天使か何かの神聖な存在の様な印象だ。
「キラキラして見えるだろう?」
シリウス殿下が確認して来た。私だけにキラキラして見えるのではないようだ。
「ラナは俺と同じ『天属性天級』だ。【ギフト】は同じ級でも強さに差が有ってな。理由は【ギフト】を使い熟しているかどうかなんだが……。『天級』の【ギフト】を使い熟せるようになると、このようにキラキラと後光が差す」
これ、後光なんだ。もっと眩しいイメージだったけど、まあ、神様とかじゃないしなぁ。
「あの……失礼かとは思いますが……暗い所で光りますか?」
「うん。光るよ」
「ラナが発光しているんだから、光るに決まってるだろう」
ラナ殿下は微笑ましげに、シリウス殿下は呆れたように答えた。
「あ、そうですよね。……あれ? じゃあ、私も後光が差すようになる可能性が……?」
私、後光が差す様な立派な人間じゃないんだけど。
「そりゃ、あるな」
よし! 使い熟さない程度に使い方を覚えよう!
暫くして、灰色の髪の少女が男性を従えて、シャナリシャナリといった感じでやって来た。赤い靴で。
「メジュフェ商会会長ティティ様です」
アラクネさんが教えてくれた。
「初めまして、フローラさん。あたくし、可哀相な貴女とお友達になって上げに来ましたのよ♪」
帰れ。
「貴様! 無礼であろう!」
神聖騎士達が気色ばんで声を上げた。
「無礼だなんて。お友達は対等なものでしょう?」
ツリ目を細めてティティは微笑んだ。
「貴様のような……赤い靴を履いて来たような奴が、フローラ様と『お友達』?! 寝言は寝て言え!」
「何がいけないの? あたくしは遺族じゃないんだから良いじゃない。あたくし、赤が好きなの。だから、ほら!」
ティティがコートのボタンを外すと、赤いワンピースが露わになった。
「素敵でしょう、コレ?」
「摘み出せ」
シリウス殿下が命じる。
「キャア! 何をするの!? 放して!」
「お嬢様を放してください!」
ティティは神聖騎士に引き摺り出された。
「不敬罪で処刑に致しましょう」
司教が決定する。
「そこまでしなくて良いわ。一生、赤禁止で」
「破ったら?」
何故か、シリウス殿下が確認して来た。
「一生が終了」
「ははは。良いんじゃないか? 何時まで我慢出来るか見物だな」
「……御心のままに」
司教は不満げに引き下がった。
「そうだ。フローラに、俺の銀獅子騎士団を護衛として付けようと思うんだが」
シリウス殿下の言葉に、護衛達は初耳なのか驚愕の表情を浮かべた。
「こいつ等の【ギフト】は上級だし、俺は自分の身は自分で守れるし」
「恐れながら、殿下」
護衛の一人が、シリウス殿下に話しかける。
「彼には気の荒い女性達が付き纏っています。フローラ様の護衛に就いては、危険を増やす事になります」
彼が顔を向けて示したのは、先程女性に見間違えた人物だった。
失礼とは思うがとても意外だ。それだけモテるならジャニーズ系とかだと思っていたのに。
「気の荒い?」
そこが引っ掛かったので首を傾げる。
「はい。以前、彼と会話をした女性が袋叩きにされ、全治一ヶ月の怪我を負わされました」
「……逮捕しないの?」
「逮捕しましたが、一部に過ぎませんので……」
どれだけいるんだろう?
「我々も、同じ騎士団に属していると言うだけで敵視されておりますし」
「この国ではね」
カルさんが私の耳元で囁く。
「同性と恋人になる事が珍しくないんだ。この国で『親友』と言えば、同性の恋人を指すから気を付けてね」
えー!? ……だから、敵視されたのか。
「シリウスは大丈夫なのか?」
ラナ殿下がシリウス殿下に尋ねた。
「俺に向けられた敵意を感じた事は無いな。『天級』だからだろうな。フローラも大丈夫だろう。流石に、悪魔崇拝者として処刑されたくは無いだろうさ」
「そうだと良いのですが……」
結局、明日から銀獅子騎士が護衛として常時二名付けられる事になった。