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第三話:もう一つの【ギフト】

2015/03/28 社長を支配人に変更。

「ところで、ナディヤ商会の様な商会は、国内に他にもあるんですか?」

 食事を終えた私は暖炉の前の座り心地の良い椅子に腰かけ、アラクネさんに尋ねた。

「ナディヤ商会ほどではありませんが、メジュフェ商会とデシン商会がありますね。尤も、デシン商会は大分傾いておりますが」

「デシン商会が傾いたのは……?」

「うちの所為ではありませんが、逆恨みされていないとは言い切れませんね」

 デシン商会も怪しいのか。

「デシン商会は、扱っている商品の大凡九割が輸入品でして、嵐で船が沈没して積み荷を失い大損害を被る事数回。その所為で顧客の多くが此方に切り替え、王室御用達も取り消されたんです」

「うちはそう言う事は無いの?」

「はい。うちは悪天候の時期に無理はしませんし、【ギフト】で天候の変化を知る事も可能ですから」

 ナディヤ商会は【ギフト】を有効活用しているけど、デシン商会はそうじゃなかったと言う事か。今はどうなんだろう?

「メジュフェ商会は?」

「あそこは評判が悪いですね。従業員を低賃金で扱き使っているとか・粗悪品を高値で売っているとか。……高値と言ってもほんの少しですけどね。例えば、千円相当の物を二千円にしているとか」

 この世界の通貨単位、円なの?! 西洋風なのに、円って! ……まあ、良いか。覚える手間が省けたし。

「倍って、ほんの少しとは言わないと思う」

 そう言えば、従業員を低賃金で扱き使っていると言う事は、メジュフェ商会はブラック企業なのか。

「そうですか? もっと高値で粗悪品を売る商人もいますよ」

「それは商人じゃ無くて詐欺師じゃないの?」

「そうですね。あ……」

 アラクネさんが、何かを思い出したように声を上げた。

「メジュフェ商会と言えば……メジュフェ家の屋敷も四年前に放火されたんです。ナディヤ家と違い、住み込みの使用人が居ませんでしたから、亡くなったのは現会長ティティさんのご両親だけなのですが……。あの事件の犯人も火属性中級でしたね。未だに捕まっていませんが」

 アラクネさんは言い辛そうにそう口にした。

 気を使わなくても、私にはフローラの家族の記憶も火事に遭った記憶も無いから平気なのに。

「同一犯とか?」

「……その可能性はありますね」

「ティティさんは何故助かったの?」

「……火が回る前に目が覚めて逃げる事が出来たからだそうです。無傷だったらしいですね」

 アラクネさんは顔を背けるように、何処か冷たい視線を床に向けてそう答えた。

「何か不審な点でも?」

「……偶然だと思いますが、ティティさんは……」

 アラクネさんは、私に向き直ってこう言った。

「彼女の【ギフト】は、火属性中級なんです」



 そろそろ私が寝る時間だからとアラクネさんは帰ろうとしたが、言い忘れていたかのようにこう言った。

「明日には遠縁のカル様がご到着致します。お嬢様の後見人をお引き受け頂きましたので」

 遠縁……? そっか。親戚じゃないから、新年の集まりには来ていなかったのか。

「どんな人なんですか?」

「はい。先日、18歳になられたばかりの方です」

 若い!

「18歳って、成人は……?」

「18からですね。遠縁にあたる方が他にいらっしゃいませんので」

 後見人って、血縁がいる場合は血縁じゃ無いと駄目なの?

「えっと……じゃあ、カルさんのご両親は……?」

「お母様は産後の肥立ちが悪く……お父様は昨年持病の悪化で亡くなられたそうです」

「そうなんですか……」

 カルさんには失礼だけど、若過ぎて不安……。前世の私の年と変わらないんですけど。あ、でも、しっかりした人という可能性も……。

「仕事はしているんですか?」

「小説家を志していらっしゃるそうです」

 まさか、無職?! 無職でも後見人になれるの?!

「カルさんにはお父様のご遺産が一生遊んで暮らせるほど有るそうですので、ご心配要りませんよ」

 不安が顔に出ていたのか、アラクネさんがそうフォローを入れた。

 カルさんの父親は何の仕事をしていたんだろう?

「分かりました」

「我々もサポート致しますので、ご安心ください」

「ありがとうございます。宜しくお願いします」



 その夜は中々寝付けなかった。

 将来、あいつを愛して結ばれるのかもしれない事を考えると、恐ろしくて堪らなかった。それに、放火犯の動機が判らないから、狙いが私、或いはナディヤ一族なら、また放火されるかもしれないと思うとそれもまた恐ろしい。

 それでも、明け方には眠りに落ちたようで、日が登った頃に目が覚めた。


「おはようございます。お嬢様」

 既に火が入れられていた暖炉の前で着替えて部屋を出ると、執事と思しき格好の背の高い初老の男性に挨拶をされた。

「おはようございます。貴方は?」

「申し遅れました。私はこの家の旦那様にお仕えしていた執事のローエンです」

「初めまして。これから宜しくお願いします」

 そう言うと、ローエンさんは一瞬悲しげな表情を浮かべた。もしかして、以前に会っていて、私が本当に記憶喪失なのだと実感したからとかだろうか?

「ありがとうございます。それでは、食堂にご案内します」

 何でお礼と思ったが、使用人総入れ替えの可能性でも考えていたのかもしれない。そんな大変そうな事、やるメリットが無いと思うんだけど。

 そう言えば、もし、他の親族の屋敷で使用人が雇われていたら、彼等は職を失う事になるのか……。


 ローエンさんに給仕された朝食を終えると、来客が居る事を告げられた。

「ナディヤ商会警備部支配人のミハイル様が、お嬢様との面会を希望しております」

「どうして?」

「ナディヤ一族本家屋敷の警備失敗によるこの度の事件の責任を取って辞任したいと、辞表の受理を求めての事です」

「……解りました。会いましょう」



 目の前で、アラクネさんと同じぐらいの年頃の男性が土下座しながら謝罪している。

 土下座を生で見たのは初めてなので、私は逃げ腰になっていた。

「顔を上げてください。幾つか質問があります」

「……は、はい」

 ミハイルさんは、青褪めた顔を上げた。

「警備の人選に手抜かりでもあったんですか?」

「いいえ。本部の中級【ギフト】持ち全員で警備に当たらせました。上級は居りませんので……」

 でも、彼等は一人たりとも反撃出来ずに殺されたのだと彼は語った。

「おかしな話ですね。地属性中級とは、そんなにも強いのですか?」

「いいえ。中級でしたら、そこまでの違いは無い筈です」

 だから、情けないのだとミハイルさんは嘆いた。

「彼等は警備を不真面目に行う人達だったんですか?」

「いいえ! そんな者は即解雇します!」

「……では、何故彼等は一人も反撃出来ずに殺されたんでしょう?」

 私の言葉に、ミハイルさんだけではなくローエンさんも考え込んだ。

「まさか……!」

 何かに思い至ったのか、ローエンさんが冷や汗を垂らした。

「本物の……魔女では?」

「悪魔の【ギフト】か!」

 ローエンさんの言葉に、ミハイルさんが戦慄の表情でそう叫んだ。



 悪魔の【ギフト】とは、文字通り悪魔が授けた【ギフト】の事で、本物の悪魔崇拝者が悪魔を召喚して手に入れるものです。

 神に授かった【ギフト】が初級なら、悪魔から授かる【ギフト】も初級になります。但し、その威力は神の【ギフト】を上回ると言われています。

 もし、本当に今回の事件の犯人が本物の魔女ならば、単独犯でもおかしくありません。

 使える属性が増える・威力も高いと言う事を、魅力的に思う人間もいるでしょう。ですが、悪魔から授かった【ギフト】を使うにはデメリットがあります。それがどんなものかまでは、私は聞き及んでいませんが……。本物の悪魔崇拝者には、デメリットなど大した問題では無いのでしょう。

 デメリットが無ければ、魔女になる人間は多かったかもしれませんね。



 ローエンさんが説明してくれた話を聞いて、犯人の狙いは『神の使い』なのか、それとも、ただ殺人がしたいだけなのかと考えたが、答えなど出る筈が無かった。

「しかし、相手が魔女であろうとも、御護り出来なかった事は仕方なかったでは済まされません」

「そうは言っても、新支配人に相応しい人はいるんですか?」

 そう確認すると、ミハイルさんは視線を逸らした。

「いないのなら、辞められては困ります」

 私がそう言うと、ミハイルさんは心苦しそうに辞表を下げた。

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