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第二話:神の感情は神のみぞ知る

2014/11/12 主人公の前世の年齢を一歳引き下げ。

2015/03/28 店長を支配人に変更。

 シリウス王子が部屋を出てから暫くして、寝室の扉がノックされた。

「お嬢様。ナディヤ商会本店内服飾店支配人アラクネ様をお連れしました。面会をご希望です」

 恐らくメイドであろう女性の声に、一瞬、お嬢様とは誰の事かと考えて、私の事だと気付く。

「どうぞ」

「失礼致します。代表として、女性の私が参りました」

 金髪碧眼の女性がスーツケースを片手に入室して、頭を下げた。年の頃は40代前半だろうか? その後ろで、彼女より少し若そうなメイドが一礼して控えている。

 多分、子供とは言え女性の寝室だから、女性支配人が来たのだろう。

「この度は……」

 アラクネさんは、泣くのを堪えるかのように声を詰まらせた。目が充血している。

「……どうも……」

 こういう場合、どう返答するんだろう?

「お嬢様だけでも助かって……良うございました」

 でも、私はフローラじゃないんだよね。……申し訳無いなぁ。

「シリウス殿下のお陰です」

 私がそう言うと、アラクネさんは頷いた。


「あの、着替えをお持ちしました」

 アラクネさんはスーツケースを開け、中から下着や寝間着や黒い服を取り出した。どうやら、この世界も喪服の色は黒のようだ。メイドがクローゼットを開けて――クローゼットは空のようだった。私が意識を失っている間に片付けたのだろうか?――それ等を仕舞う。

「ゾルゾーラ王国では、親、或いは、子を亡くした場合、一年間喪服で過ごす仕来たりがあります」

「そうなんですか。解りました」

 道理で、黒い服ばかりだと思った。

「葬儀は、ご遺族の移動時間と葬儀の準備を考慮して来週末となりました。平民と言う身分では異例ですが、大聖堂での合同葬儀です」

「それは、どうして……?」

「説明すると長くなりますが、会長の出生に関わる話です」



 会長のお母様はロアンナ様と仰いまして、ジヴィ教の教皇でした。

 ですが、ジヴィ教では、『教皇・枢機卿・司教・司祭は男性のみ』と定められています。これは、神が女神である為、女性が敬われる地位に就くと嫉妬による怒りを買うと言い伝えられているからです。ですから、女王も存在しません。

 ところが、ロアンナ様は、男装されて教皇の座に上り詰めたのです。教会で権力を得たかった訳ではなく、当時は、神学校が唯一高度な学問を学べる場でしたから、それが目的だったそうなのですが……。

 そのロアンナ様の恋人が、前会長の異母弟です。……庶子ですが。

 それで、ロアンナ様が異例の若さで教皇に就任して間も無く、二人の間に子供が出来ました。女性だとばれたのは、公衆の面前で産気づいたからなのです。

 二人は、『神を欺いた罪』で教会に処刑されました。

 教会は、会長の命を取る事はありませんでしたが、会長を引き取ったナディヤ一族、及び、ナディヤ商会に圧力をかけて来たそうです。具体的に言いますと、王侯貴族に呼び掛けての不買運動です。

 ですが、ナディヤ商会は伊達に豪商ではありませんので、先に音を上げたのは教会側でした。

 その理由の一つが教皇領に建設中の大聖堂で、ナディヤ商会が建築を請け負っていたのですが、不買運動が始まったので直ぐに手を引いたんですけれど、後釜が決まらなかったそうなんです。技術的な問題で。

 更に納期の問題も有り、一度解体して立て直すなんて事になれば絶対に間に合わないと教会関係者は青くなったそうですよ。……ええ。初代教皇の没後千年の年に完成するようにと。

 それで、教会が矛を収め・頭を下げる事で、不買運動は終息しました。勿論、和解金も頂いたそうですよ。



「ここまでは、ご理解頂けましたか?」

「はい。当時の教会のお偉いさん達は馬鹿だったんですね」

 多分、完成後に代金を支払うんだろうし、それを払わないなら完成させてくれる訳無いじゃない。ねぇ? ……まさか、聖堂なんだからタダでも造ってくれると思っていたとか?

「お嬢様……そんな事、人前で言わないでくださいね。お嬢様は『天級』なんですから」

 え? 何で? 『天級』の言葉は『神の言葉』だとでも?

「ロアンナ様の孫が『天級』だと知った教会は、上を下への大騒ぎになったそうですよ。『天級』は『神の使い』ですから、『神への反逆者』の血筋には産まれないと考えられているからです。つまり、お嬢様の存在が、『神が女教皇ロアンナを認めていた証拠』。そのお嬢様が教会を批判すれば、それは……」

「『神の怒りは教会に向いている』って事になるんですね。まあ、仕方ないんじゃないですか? 当時の教会のお偉いさん達が、『我等の神は男装をしただけで騙された無能』って言ったんですから」

 『欺こうとした』じゃなくて『欺いた』だもんねぇ。

「お嬢様……」

「安心して下さい。向こうが喧嘩を売って来ない限り言いませんから」

 私は真顔でそう言った。



 と、ともかくですね、今回ナディヤ一族の葬儀を大聖堂で行う事になったのは、後ろめたさと……『教会は放火の黒幕ではない』とアピールする為と思われます。

 それと、使用人達の葬儀も大聖堂で行う事になったのは、『天級』であるお嬢様を命がけで逃がした男の忠義に報いる為なのですが、問題は彼が誰なのか判らない事です。使用人だと言う事は、身に着けていた服の焼け残った部分から使用人用の制服だと判ったので間違い無いのですが。

 それで、もういっその事、メイドも纏めて全員大聖堂で行おうと決まったのです。



「なるほど。解りました。ありがとうございます」

「いえ、そんな……。あの、お嬢様。お嬢様は新会長となるのですし、『天級』でもあるのですから、私共に敬語は不要です」

「えっ……と、でも、まだ会長としての仕事とか何も解りませんし、何も出来ない内から偉そうにするのは……」

「お嬢様は『偉そう』なのでは無く、『偉い』のです」

 そんな事言われても、中身は17年間庶民だったんだから。そんな行き成り偉い人の態度なんてとれないよ。

「……解りました。その内そうします」


 その後は、お粥のような物なのかオートミールと言う料理を食べながら――お粥食べたいと思いながら――、ナディヤ商会について説明を受けた。

 想像していた通りに扱っている商品は多岐に渡り、『高品質・高価格・好接客』が特徴らしい。尚、この世界、低価格で高品質な物は無いそうだ。

 更に、ロアンナ様……御祖母様の事件を切っ掛けに学校の運営を始めたらしい。

 他にも、衛生に力を入れているとか・病院も運営しているとか、乳児院・孤児院・救貧院・養老院・障害者支援施設等まであるとか聞いた。

 後は、ナディヤ家は王家より金持ちだとか、王妃様が宝飾品の付けを億単位で滞納しているだとかの話も聞いたが、アラクネさんは王妃様が事件の黒幕だと疑っているのだろうか? ナディヤ一族が絶えてもナディヤ商会は存続するだろうし、付けは無かった事にはならないのに。

 あ、でも、王妃様に限定しなければ、確かに疑わしい。ナディヤ商会は国家より福祉に力を入れているようだから、国民人気は王家より上だろう。目障りでない筈が無い。それに、『天級』を殺害しても咎められない『天級』が王族に居るのだから。

 犯人は『中級』だと言っていたが、シリウス王子が犯人ならばそれは嘘だろう。


「シリウス王子が犯人と言う可能性は有りますか?」

「お嬢様……! 有り得ません。シリウス殿下はご家族と不仲ですし、将来平民になると仰っていますから、ナディヤ一族が王家より人気があろうとどうでも良い筈です」

 アラクネさんはきっぱりと否定した。

「不仲って……?」

「殿下のお母様は側室で、王妃様の虐めに耐え兼ねてはかなくなられたのです。陛下は、その後にシリウス殿下が『天級』と判明するまで見向きもしなかったそうです。王妃様の御子である第一王子ラヴィータ様からは、敵視されています。『天級』のシリアス殿下こそが次期国王となるべきだと考えている貴族が多いからです」

 なるほど。それで仲良かったら凄いよねぇ。

「それなら、信用しても大丈夫なのかな……?」

 でも、あいつだったら? ストーカーが家族を殺すケースだってあるし……。

 何か、判別する方法は無いんだろうか?

ロアンナのモデルは、女教皇ヨハンナです。

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