表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

第十七話:結婚

「そこまでだ」

 屋敷に油を撒こうとしたティティは、邪魔をされた苛立ちと共に振り返った。

「誰?!」

 目に入ったのは、月の光を浴びて更に美しい美少年シリウス・エル・ゾルゾーラ、辺りを光照らす美少年ラナ・エル・ビシュヤ、そして、隻眼の美少女フローラ・エル・ナディヤ。

「ティティ・メジュフェ。放火の現行犯で逮捕する。三年前の放火事件の犯人もお前だな?」

 『逮捕』の言葉を合図に物陰から現れたのは、ティティが先程石化させた筈の銀獅子騎士団だった。

「石化した筈だわ!」

「『天級』を侮らないでくれるかな?」

 ラナが微笑む。

「石化ぐらい治せるし」

「幻覚を見せる事も可能だ」

 ティティの呼吸が、恐怖に荒くなる。

「やっぱり、貴女が皆を殺した犯人だったのね」

「……何の事かしら? 確かにあたくしは、彼等を石化させて放火しようとしたわ。でも、これが初めてよ」

 フローラの言葉に、ティティは惚けて見せた。

「土属性の悪魔の【ギフト】を持った火属性中級が、そう都合良く他にいるかよ」

「ところで、知っているのかな? 悪魔の【ギフト】のデメリット」

 ラナの問いに、ティティは眉を顰めた。

「デメリット?」

「知らなかったのか? 悪魔の【ギフト】は、使う度に使用者の最も大切な物を奪う」

「金が大事なら貧乏に、命が大事なら死の病に……美貌が大事なら不細工にね」

 ティティは、ハッとして顔を手で覆った。

 確かに、三年前より容色は衰えていた。

「嘘よ。そんな……悪魔の【ギフト】は素晴らしい力よ」

 震える声でそう呟く。

「素晴らしくないから、誰も使わないんだよ」

「……どうして、あたくしだけ」

 ティティは暫くして、恨めしそうに声を絞り出した。

「フローラ! 貴女も不幸になって! あたくしよりも!」

 悪魔の【ギフト】による攻撃を、ラナの【ギフト】が阻む。

「やはり、フローラへの妬みが動機か」

「妬み? 違うわ! あたくしは、フローラと友達に……いいえ! 親友になりたいの! だから、あたくしと同じように、それ以上に、不幸になって欲しいのよ!」

「それが妬みだ」

「違うわ! 同じような境遇が良いだけ!」

「そんな事の為に……!」

 怒りを燃やし始めたフローラをラナが制する。

「気持ちは解るけど、落ち着いて。王都に地震を起こしたら駄目だよ」

「……はい」

「ふふっ! 良いじゃない! 地震を起こせば! フローラも犯罪者になりましょうよ! お揃いだわ!」

「そんなにお揃いが良いなら、片眼を潰して自分を燃やせよ」

 シリウスの言葉に、ティティの笑いが凍る。

「お前は悪魔崇拝者だ。火刑の前に、サービスで片目を潰してやるよ。回復はしてやらんがな。好きな方を選べ。自分で死ぬか・死刑になるか」

「嫌よ! どうして、私がこの若さで死ななければならないの! 世界の損失だわ!」

 突然目眩に襲われて、ティティは倒れ込んだ。

「え? な、何……?」

「言ったよね? 命が大事なら死の病になるって」

「ひ、酷い。フローラ! 一緒に死んで!」

 ティティはフローラを火の【ギフト】で襲った。

「嫌!」

 身体が火に焼かれた事を『思い出して』、フローラは意識を失った。




 夢を見た。



 一人の少女が、泣きじゃくっていた。


 とても、悲痛に。



 それを見て、もしかしてあの時からずっと泣いていたのだろうかと胸が痛んだ。



 両親を求めて一人にしないでと泣き喚く少女に、私は近付いた。


「フローラ」


 私が抱き締めると、フローラは叫ぶのを止めた。


「パパとママの代わりにはなれないけど、寂しい時は、カルさんやシリウス様が一緒に居てくれる。泣きたい時は、私が一緒に泣いてあげる。だから、帰ろう? 誰もいない此処にずっと独りで居ないで」




 フローラが意識を取り戻した時には、全てが終わっていた。

「漸く、気が付いたか」

 安堵した顔で彼女を覗き込むのは、シリウスとラナとカル。

「シリウス様」

「……ん? 感じが変わったか?」

「思い出したんです。全部」

「そうか」

「良かったね」

 カルはフローラの頭を撫でた。

「お父さんとお母さんの事、思い出せて良かったね」

「うん。カルお兄さん」

「左目、治しておいたよ。犯人捕まったら治す約束だったからね」

「ラナ様。ありがとうございます」

 フローラが頭を上げると、シリウスがバツが悪そうに口を開いた。

「ティティ・メジュフェは、公開処刑された。メジュフェ商会は、廃業。俺達の結婚式は、延期した。……済まなかったな。あの女が火属性だと知っていたのに」

「……気になさらないでください。お陰で思い出せたんですから」

「しかし、恐ろしい思いをさせた」

「シリウス様、その辺で……。フローラがどう慰めたら良いか困っていますよ」

「そんなつもりでは……。俺に気を使わなくて良いんだぞ?」

「でも、お婿様だし」

 ふと、フローラはある事を思い出した。

「そう言えば、ラヴィータ様の即位式と結婚式は終わったんですか?」

 途端にカル達の表情が暗くなる。

「即位式は、無事に終わったんだけどね……」

 言い難そうにカルが話し始めた。

「結婚式は……エラさんが亡くなったから」

 フローラは目を見開いた。

「亡くなったって……殺されたの?」

「式場の大聖堂の屋根に飾られていたシンボルが落下したんだよ。落下原因は不明」

「お陰で、ラヴィータが俺に譲位すると言い出して大変だった」

「父君が亡くなって、母君と御子息が亡くなって、今度は婚約者だからね。シリウスを王位に即けたい神の警告と恐れ戦いても、仕方ないよ」

 ラナが苦笑する。

「エラは兎も角、他は自業自得だろうが」

「そうかもね」

「……エラさん、可哀相」

 義姉になる筈だった人が死んだからか、フローラが悲しげに呟く。

「フローラは優しいね」

 カルが頭を撫でて言った。

「前王妃の血縁に美少女として生まれたのが、運の尽きだったよな」

「どうしようもなかったんだね」

「お二人の【ギフト】で助けられなかったんですか?」

 フローラの疑問に、シリウスとカルは顔を見合わせた。

「俺達は中に居たからな」

「即死だったし」

「そうだったんですか」

 その時、扉がノックされた。

「失礼致します。オートミールの(ポリッジ)をお持ちしました」

「入りなさい」

 メイドが入室すると、シリウス達は立ち上がった。

「じゃあ、俺達はこれで」

「お大事に」



 一年後、延期されていたフローラとシリウスの結婚式と披露宴が行われた。

「お綺麗です、会長」

 アラクネは感極まって泣きながら、フローラに声を掛けた。

「ありがとう、アラクネ」

 フローラは、シリウスが前世の自分を殺した女だとは、もう疑っていない。例え生まれ変わっても、あれがシリウス殿下の様になるとは思えないと思ったからだ。

「そろそろだよ」

「はい」

 カルに声を掛けられ、アラクネ達が控室を出て行く。

「結婚おめでとう。これで、肩の荷が下りるよ」

「お世話になりました。次はお兄さんの番ですね」

「ははっ。良い人に巡り合えると良いんだけどね」

 カルは四年ほどナディヤ商会で働いたが、恋人が居た事は無い。フローラに遠慮していたのかもしれない。

「さて、それじゃあ、行こうか?」

「はい」


 フローラはカルと腕を組み、式場に入った。

 通路の先には、婿となるシリウスが待っている。十八歳となり男らしくなってはいるが、相変わらず絵画のように美しい。

 ひょっとして、全て夢だろうかとフローラは思う。

 死に際に見ている夢なのではないかと。

 しかし、フローラは直ぐに自嘲した。

 カルの体温・服の肌触り・絨毯を踏む感触……全てちゃんと現実感があるから。

 カルと歩む道は間も無く終わり、この先の未来は、シリウスと共に歩んで行くのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ