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第十六話:結婚

◇シリウス視点◇


「ラヴィータ殿下。エラ・デシン嬢との婚約の件ですが……」

 ラナの【ギフト】によって深い悲しみから立ち直ったラヴィータに、宰相達が婚約解消を勧めていた。

「王妃様の後ろ盾が無くなった以上、平民の彼女を王妃になど認められません」

「どうか、お考え直しを」

 しかし、エラは二人の『関係』を知っている。出来るのは、口止めに王妃とするか、殺して口を塞ぐかだろう。口止め料を払って婚約解消するには、大金が必要だ。そんな金があったら、平民の大商会の娘と婚約なんて話にはならない。

「エラは母上が選んだ女性だ。婚約解消する気は無い」

「しかし」

「くどい。婚約解消させたくば、母上を生き返せ」

 宰相達はそれで引き下がったが、エラが暗殺されないか心配だ。まあ、守りはしないが。


「兄上。聞きたい事があるんだが」

 宰相達が去った部屋に入る。

「何だ?」

 ラヴィータは俺を睨んだ。

「回復の【ギフト】を使える『天級』の俺が居るのに、何故、出産前に呼ばなかった?」

「……必要無いと思っていた」

 逸らした顔には、後悔が浮かんでいた。

「高齢出産なのに?」

 そう言うと、驚愕の表情を此方に向けた。

「な、何の事だ?」

「俺は、以前からお前と王妃の『関係』を知っていた」

「覗いたのか?!」

「【ギフト】を使う練習をしていた時にな」

 天属性『天級』は、日光や闇を介して離れた場所の光景を見る事が出来るのだ。

「……悪趣味め!」

「お前等ほどじゃ無い」

「誰が悪趣味だ!」

「悪趣味じゃないなら、明らかにすれば良かったじゃないか」

 そう言うと、ラヴィータは悔しげに引き下がった。

「……父上は?」

「知らなかったんじゃないか?」

 俺の言葉に、嘲笑の様な表情を浮かべる。

「そうだろうな。あいつは、母上にも私にも興味が無かったからな」

 もし、国王がこいつ等に殺されたのならば、動機は、『関係』がばれたからではなく王妃がこいつの子を身籠ったからだろう。

「お陰でバレなくて良かったじゃないか」

 そう言ってやると、ラヴィータは顔を顰めた。

「まさか、父上がお前達に興味が無いから嫌々関係を持ったとでも?」

「それは違う!」

「だろうな。父上がお前達に興味が無くて良かったな」

 言いたい事は言ったので帰ろうと踵を返す。

「母上の死は……天罰か?」

 ラヴィータの問いに、俺は振り向いて答えてやった。

「言っただろう? 万が一の時の為に回復出来る俺を待機させておかなかったお前の落ち度だ」



 ラナの所へ行こうと廊下を歩いていると、エラが庭に立っているのが見えた。

「未来の義姉上。体調が悪いようだが、ラナに回復して貰うか?」

 振り向いたエラの表情は暗かった。目が絶望している。

「いいえ。結構です。お気遣いありがとうございます」

「そうか。……そう言えば、デシン商会では、堕胎薬を扱っているらしいな?」

「さあ? 知りません」

 エラはソッポを向いて答えた。

「出血が酷いとか」

「それが何か?」

「……継母達と不仲だろう?」

 そう言ってやると、エラは安堵したように此方を向いた。

「婚約成立以来、会っておりませんわ。……死産は、ただの偶然です」

「そうか」



 ラナが滞在している屋敷を訪れる。

「やっぱり、彼女で間違いないよ」

 ラナに頼んで、あの女を【ギフト】で見極めて貰っていたのだ。

「だろうな。しかし、動機は何なんだ?」

 ソファに座ったラナの隣に座って腰を抱く。

「俺の【ギフト】でも、心の内までは分からないよ」

 ラナは、腰に回した俺の手を外しながら答えた。

「最近つれないな」

「姦通する気は無いって言っているよね?」

 近付けた顔を押し退けて、ラナは苦笑した。

「話を戻すけど、もしかしたら動くかもしれない」

「何時だ?」

「それは……」



◇フローラ視点◇


「と言う訳で、結婚しよう」

「どういう訳?!」

 帰って来るなりそう言ったシリウス殿下に、私は驚いて突っ込んだ。

「結婚にはまだ早いと思うけど」

 12歳で結婚するのはね……。王侯貴族の政略結婚なら未だしも。

「ああ。だが、何年も待ってられない」

 そ、そんなに私としたいの?! やっぱり、『私』を殺したあいつなの?!

「で、でも、カルさんが何と言うか……」

「カルを呼べ」


「なるほどね。そう言う事なら、良いよ」

 呼ばれて話を聞いたカルさんは、許可を出した。

「そんなに、冒険者になりたいの……」

 魔物が居る『遺跡(ダンジョン)』に挑む人達を冒険者と言うそうだ。『遺跡』は誰が何の目的で造ったのか未だに不明だとか。魔物は掃討してもまた現れるらしいし。

「あ、それと、フローラに言っておく事がある」

「何でしょう?」

「実は、俺とラナは『親友』なんだ」

 親友……この国で、同性の恋人を表す言葉だったね。

「そうですか」

 キスシーンを想像してみる。……美形同士絵になるなぁ。

「良いですよ。これからもどうぞ」

「……本当に良いのか?」

「ええ。でも女性には手を出さないでくださいね」

 うちの財産目当てに命狙われたら嫌だし。

「解った」



 翌日から、王妃様の喪が明けてからの結婚式に向けて準備が進められた。

 披露宴は盛大なものにするらしいが、ラヴィータ殿下達のものより盛大になったら不味いんじゃないだろうか?

「エラさんは、何色のドレスを着るんだろうね?」

 ドレスのデザインについて話し合っていると、カルさんがそう呟いた。

「白じゃないんですか?」

「この国では、再婚等で明らかに処女じゃない場合は、白は着ないんだよ」

 エラさんは、初婚なのに。しかも、もし、妊娠したのは王妃なんじゃないかとの想像が事実だったなら、処女なのにね。

「初婚なんだから、白を着せて上げても良いと思いますけど」

「エラさんが白を着たら、死産を無かったものと思い込んでいる。つまり、心を病んでいると思われて離婚か幽閉されるよ」

「そうなるんですか……」

「エラさんのドレスは、デシン商会が主に輸入している国では赤や青が一般的ですので、そのどちらかの色になると思いますよ」

 アラクネさんの説明に、私はどちらだろうと考えた。

「青の方が似合いそうだし、青かな?」

「そうかもしれませんね」



 月日は流れ、結婚披露宴前夜。

 ナディヤ家を警備していた者達が、石化させられた。

「ふふっ。他愛ないわ」

 月明かりに照らされたのは、赤いウエディングドレスを身に着けた少女。

 ティティ・メジュフェであった。

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