表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/19

第十五話:『天級』を侮るなかれ

「フローラ。……様」

 6月のある日、ティティが家に押しかけて来た。

「何のご用でしょう?」

「ラヴィータ殿下とお近付きになりたいの。シリウス殿下に頼んで頂戴」

「それは、どういう目的で?」

「エラさんよりあたくしの方が、殿下に相応しいでしょう?」

 相変わらず自信満々だ。

「ラヴィータ殿下は療養中ですから、無理ですね」

 王妃様が亡くなってから部屋に籠りっきりで、シリウス殿下に代理を頼む事を報告しても、多分、耳に入らない心境で反応が無いらしい。食事は、シリウス殿下が無理矢理食べさせているそうだ。

「まあ! でしたら、是非、お見舞いに行かないと!」

「会わせて貰える訳が無いでしょう?」

「お金を握らせれば何とかなるわ!」

 何とかなったら暗殺しほうだいじゃない。

「でも、どうして今? 去年の内に行動しなかったのは何故?」

「エラさんがちゃんと子供を産めなかったからよ」

 下衆だ。

 つまり、去年は勝ち目が無いと思っていたけど、今ならエラさんが弱い立場になったから勝てると。そう思っているって事ね?

「もし、ラヴィータ殿下にお会い出来ても、その事は口にしない方が良いわ」

 もし本当に、妊娠したのがエラさんじゃなくて王妃様だったら。「ちゃんと産めなかったから」なんて言ったら逆鱗に触れてしまう。

「どうして? 殿下もそう思っているでしょうに」

「思っていないかもしれない」

「考え過ぎよ!」

 ティティは笑って、帰って行った。


「ただいま」

「お帰りなさい」

 シリウス殿下は偶に帰って来る。

「ティティさんが、ラヴィータ殿下の見舞いに行くと言ってましたけど」

「ああ。露骨に袖の下を渡そうとしていたから、暗殺を目論んだ容疑で逮捕しろと言ったら逃げて行った」

 露骨な袖の下……。メジュフェ商会は、遠からず潰れるんじゃないだろうか?

「それより、ラヴィータの問題は何とかなったぞ」

「立ち直ったんですか?」

「ラナが回復魔法を掛けてくれた」

 傷心すら癒すとは……。

「もしかして、ラナ殿下って、生存中の『天級』で一番凄いんですか?」

「ああ。後光が差すのはあいつだけだからな」

「ところで、全部で何人ですか?」

「俺とお前とラナと戦乙女とリディヤ帝国皇帝と××帝国皇后の六人だ」

「もしかしなくても、一国に二人って珍しい?」

「勿論」

 他国に警戒されそうですね。



 翌朝。ナディヤ新聞に目を通すと、××帝国皇帝が離婚して別の女性と再婚した事が報じられていた。

「これって、大丈夫なんですか?」

「××帝国の歴史は知っているか?」

「はい。10年ぐらい前に革命が起きて、王国から帝国になったんですよね?」

 会長の仕事とその勉強をする以外に、普通の勉強も【ギフト】の練習もしているから忙しいんだよ。一応。

 因みに、その国にあったナディヤ商会の支店は、革命前に撤退したままだ。

「そうだ。こういう場合でも、『天級』でなければ君主になれない。なれば、生まれて来る子供の【ギフト】は下級だけになってしまう」

「じゃあ……」

「しかし、革命前からの妻である皇后が『天級』だったからな。大目に見て貰えたらしい」

「子供が継げば良いからですか」

「そうだ。だが、二人に子供は出来なかった。皇后は再婚でな、前夫との間の子はいるんだが」

 二人目不妊かもしれないけど、皇帝が男性不妊症の可能性もあるよね?

「どうして、周りは止めなかったんでしょうね?」

「寧ろ、周りが望んでいたんだ。前々からな」

「え? 国力が低下するのに、何でまた……」

「皇后が浮気症だから」

 ……浮気は良くないけど、国防の方が大事だよね?

「でも、『天級』でしょう? なら、誰と付き合おうが『神の意思』なんじゃ……?」

「そうなんだがな。当の皇帝自身も我慢の限界となり、この結果になった訳だ。しかし」

「しかし?」

「実は皇后は浮気症じゃ無い。二人を離婚させたかった皇帝一族のでっちあげだ」

 相手『天級』だよ!? 名誉棄損して良いの?!

「皇帝の一族は何を考えて……」

「初婚じゃない事と年上だと言う事が、気に入らなかったんだな。それに、下級以外も生まれ続けていたから、離婚させても問題無いと思ったんだろう」

 別の国を建国した訳じゃないからって、皇帝に『天級』の血が入っていない事には違いないのに。

「信仰心が薄いんですね」

「そうだな」

「そう言えば、リディヤ帝国とずっと戦争しているんでしたよね?」

 革命後からずっと戦争中だと習った。

「そうだ。毎回、××帝国が勝利を収めているが、皇后は出陣していない。だから、離婚してもこれからも勝てると思っているんだろう。リディヤの皇帝が『天級』だと知らない筈は無いのにな」

「リディヤ帝国皇帝が出て来ますか?」

「ああ。もう直ぐ11歳だしな」



 この数ヶ月後、リディヤ帝国皇帝が出陣。

 交戦した××帝国軍は僅か数分で壊滅した。

 リディヤ帝国は××帝国を占領すると、革命を主導した者や帝国政府の要人などを『王権を簒奪した罪』で悉く処刑した。勿論、皇帝一家も含まれる。

 しかし、『天級』である元皇后が助けに動く事は無かった。



「戦乙女が処刑された」

「どうやって?!」

 10月のある日。シリウス殿下が教えてくれた衝撃的なニュースは、俄かには信じ難いものだった。

「薬を使って体の自由を奪ったんだろうな」

「『天級』もそういう物には弱いんですね」

「そうでもない。俺やラナやリディヤ帝国皇帝には効かないぞ」

 毒無効?

「……錬度の違いですか?」

「そうだ。フローラも、早く火事ぐらいじゃ死なないようになれよ」

「……努力します。……あの。ラナ殿下って、死ぬんですか?」

 『天級』の【ギフト】を使いこなせるんだから、不老不死とか有り得る。

「当たり前だろう。人間なんだから」

 寿命には勝てないか。

「それにしても、どうして、『天級』を処刑したんですか?」

「悪魔崇拝者だと判明したからだそうだが、実際は、リディヤ帝国との戦争を強硬に主張していたからだろう。『天級』同士が本気で殺しあったら、周りの被害は甚大だ。それに、皇帝より戦乙女の方が弱いからな」

「だからって、『天級』に冤罪かけて殺すなんて、天罰下ったらどうしようとか考えないんですかね?」

「下るかどうか判らない天罰より、リディヤ帝国皇帝の方が現実的な脅威と言う事だろう」

 なるほど。



「××王国の支店を一時的に撤退させようと思うんだけど」

「宜しいかと思います。リディヤ帝国が戦争準備をしているようですからね」

 略奪を懸念して本店の支配人を集めた会議で提案すると、賛成された。

「やっぱり、出兵するのね」

「同じ『天級』として許せないのでしょう。それに、良い口実ですし」

 「正義は我にあり」って事ね。

「そうよね。それにしても、戦乙女はどうしてリディヤ帝国と戦争したかったのかしら? 力の差が判らなかったの?」

「もしかしたら、二十年近く前の戦争が関係しているかもしれません。父親が戦死したらしいですから」

「そう……」



 この数ヵ月後、彼の国はリディヤ帝国によって占領され、戦乙女に悪魔崇拝者の冤罪を着せた者達は尽く処刑された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ