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第十四話:ナディヤ商会は貴方の財布でも無い

 ラヴィータ殿下--この世界では戴冠式=即位。喪が明けてから行われる為、まだ殿下--は開口一番こう仰った。

「フローラ・エル・ナディヤ。××王国との戦争に参戦を命じる。それと、戦争資金を出せ。××××万円だ」

「お断りします」

 私は『天級』だから、遠慮無く断った。

 防衛戦争なら兎も角、侵略戦争になんて自分も金も出したくない。

「女を戦場に出すなよ」

 同じく呼び出されたシリウス殿下が軽蔑を態度に表して言った。

「風属性『天級』の戦乙女がいるではないか」

 まさか、その人がいる国を侵略するんじゃないよね?

「あれは、本人の意思……『神の意思』だろうが!」

 どうして、戦場に出ているんだろう? 自国の犠牲者を減らす為? それとも、戦いが好きなのだろうか?

「国の為らしいな。殊勝ではないか。お前達も、国民として我が国の為に戦え」

「戦争理由は?」

 シリウス殿下が尋ねる。

「領土を増やす為だ」

「何の為に?」

「ゾルゾーラ王国の威信の為だ」

 お前の威信の為に大金出せってか?

「威信ね。ハッ。俺やフローラが出たら、俺達の威信になりこそすれ、お前の威信になどなるものか。××王国を見れば解るだろうに。讃えられているのは、戦乙女ばかりだろうが」

 ああ。やっぱり、其処と戦争するのか。

 どうして、わざわざ『天級』が居る所へ侵攻するのか、理解出来ない。

「……解った。ならば、○×王国にしよう。お前達は参戦せずとも良い。だが、ナディヤ商会には××××万円出して貰う」

「嫌です」

「ならば、営業許可証を取り上げるぞ」

「建造中の軍艦は要らないのですか?」

「商会の資金も人材も店舗も、全てデシン商会の物にする」

 デシン商会の会長から幾ら貰ったんですかね?

「……お前、『天級』のフローラからナディヤ商会を取り上げるって事は、ジヴィ教会を敵に回すと言う事だが、解っているのか? 即位出来ないぞ」

 シリウス殿下が呆れた表情で言う。

 戴冠式はジヴィ教の大聖堂で行われ、大司教が王冠を被せるらしいので、ジヴィ教を敵に回せば戴冠式が出来ないし、仮に他所で勝手に行っても自称国王でしかなくて、国内でも誰も認めてくれない。

「そんな事になれば、リディア帝国が嬉々として征服に来るな」

 世界征服したい10歳の皇帝がいるんだったね。

 ところで、脈絡も無く思い出したけど、王妃様のツケ!

「ラヴィータ殿下、戦争資金を要求する前に、王妃殿下のツケを払ってください」

「何だ。つまり、ツケを踏み倒す為の策だったのか? 甲斐性無しが」

「シリウス! 貴様ァ!」

 甲斐性無しと言われて怒ったラヴィータ殿下が、その美しい顔を歪めて怒鳴った。

「戦争なんて馬鹿でも出来る。甲斐性無しじゃないって言うんなら、払って見せろ。浪費しか能が無い女が産んだお前に、父上にも出来なかった事が出来るとは思えんがな」

 確かに、勝てるかどうかは兎も角、始めるだけなら馬鹿でも出来るね。

 でも、王妃様だって王妃なんだから、浪費しか能が無いなんて事は……えーっと、聞いた事は無いけど、多分きっと何かあるんじゃないかな~?

「母上を侮辱するな!」

「なら証明して見せろよ。ツケを払う事でな!」

「……私が、父上より優秀だと言う事を見せてやる! 戦争は止めだ!」

 ラヴィータ殿下が、まんまと乗せられたのか、それとも、『天級』と教会を敵に回す事を避けようと思って乗せられた振りをしたのかそう言ったので、私達は王宮を辞した。



「と言う事だったのよ」

 私は帰ってからモーリさん達に王宮であった事を説明した。

「そんな事を……」

 カルさんは呆れたように呟いた。

「ねえ。もし、本当にナディヤ商会がデシン商会に吸収されるならどうする?」

 私はアラクネさん達に聞いた。

「この国の詳細な地図をリディヤ帝国に売って、帝国で営業しましょう」

 情報部の支配人が答える。地図の作製は此処が担当しているらしい。

「デシン商会に吸収される前に、デシン商会を潰した方が良いかと」

 営業部の支配人が答える。王妃様が後ろ盾だろうから難しいのではないだろうか?

「会長令嬢がラヴィータ殿下の婚約者ですから、それは難しいでしょう。帝国に渡って、兵器を売りましょう」

 工業部の支配人が答える。死の商人になるのは嫌だなぁ。

「そうですね。帝国から、殿下達の醜聞を大陸に広めましょう」

 報道部の支配人が答える。あの人達一応将来の義家族なんですけど。

「うちだけでなく他の商会も逃げるよねぇ」

 カルさんが楽しげに呟いた。

「どうして?」

「だって、自分達の商会も取り上げられてデシン商会に吸収されるかもって思うじゃない?」

「あー。思いますよね」

 狙いがナディヤ商会だけだったとは限らないし、うちだけだったとしても今後信用出来ないって事か。

「そう言えば、デシン商会現会長って、商才無いよね? ナディヤ商会の資金とか得ても直ぐ傾けそう」

 数回の船の沈没による損害でデシン商会傾けたんだっけ? 商才が有れば回避出来たのかな?

「人材も得るんですから、それは無いんじゃ……」

「そうかな? 余計な人事異動で人材の持ち腐れにしそうだと思うんだよね」

 流石にそれは、勝手なイメージでは?

「ああ。確か、会長に就任して直ぐの人事異動の後でしたね。一度目の沈没は」

 そう言ったのは、この場の最年長の人事部の支配人だ。

「それは、関係有ると思いたくなるわね。ところで、ラヴィータ殿下は、王妃様のツケを払う為に何をすると思う?」

「増税じゃない?」

 カルさんは、ラヴィータ殿下がするならそれ以外に無いでしょうと言いたげな表情だった。

「でも、増税が出来るなら、うちに戦争資金出させる必要無いと思うけど」

「増税するより早いからだと思うよ」

「なるほど」

 直後、王族の死を知らせる鐘の音が鳴り響いた。



「王妃が病死だとさ」

 家に帰ると、居間に居たシリウス殿下が信じてなさげにそう言った。

「確か、エラさんの出産予定日でしたよね? そちらはどうなったんですか?」

「死産」

 エラさんが死産した日に王妃様が病死ねえ? 絶対に無い訳じゃないけど、怪しいよね。

「王妃様は何の病気で?」

「さあね。ショック死だと言っていたが」

「どちらが先なんですか?」

「死産だと知ったショックで亡くなったとか言ってたが、そこまでショックを受けるかねえ?」

 年を取ってからの待望の孫なら解るけど、王妃様三十代だし……。ショックは受けても死ぬほどじゃ無いと思うけどね。

「王妃様の性格的に無いですか」

「無いな」

「心臓は?」

「普通だろ。弱いだなんて聞いた事は無い」

 死因を聞いて来た時も、誰も「王妃様は心臓が弱かった」とは言わなかったんだね。

「それでだな。葬儀費用貸して貰いたいとさ。済まないが、義理の息子として俺からも頼む」

「……そんなにお金無いんですか?」

「父上の葬儀から一年も経って無いからな」

「あー。……ところで、死産だった御子様の葬儀費用も必要ですよね?」

「そっちは国葬じゃ無いから、費用は何とかなるだろう」



 それから、数日後。

 シリウス殿下が王宮に呼び出された。

「暫く向こうに泊る」

 帰宅した殿下は、何か嫌な事でもあったのか渋面だった。

「何かあったんですか?」

「ラヴィータが嘆き悲しんで使いものにならない。俺が代理で取り仕切る事になった」

「後追い自殺しないですよね?」

「それは困るな。見張らせておこう」

 エラさんとの仲はどうなるのだろうか? 王妃様の意向での婚約だったから、王妃様が亡くなった事で解消されてもおかしくない。

「それで、どうするんですか? 異国風にするんですか?」

「する訳が無い。王妃はそれを望んでいたかも知れんが、俺が叶えてやる義理は無い。ラヴィータが泣き臥しているのが悪い」



 葬儀当日。

 ラヴィータ殿下は、恥も外聞も無く棺に取り縋って泣き喚いた。

 その為、シリウス殿下の即位を望む声は一層大きくなったのだった。

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