第十三話:ナディヤ商会は貴女達の財布じゃない
「この度は、ご愁傷様で……」
国王様が崩御した事を知った私は、婚約以来うちに住んでいるシリウス殿下にそう言った。
「ああ。……しかし、本当に病死なのか怪しいもんだ」
「え?」
病死じゃなかったら、殺人? 誰が? 何故?
「殺すような人に心当たりでもあるんですか?」
「ラヴィータ達」
嫌いだから疑っているだけなんじゃ……。
「放っておいても、いずれ王様になれるのに?」
「ばれて殺したのかもしれない。あの二人は……男女の関係だからな」
『男女の関係』? え?
「き、近親相姦ですか?! まさか。何かの間違いでは?」
顔を知っている人が近親相姦関係に有るって、信じたくない。
「ばっちり目撃した」
それは、お気の毒に……。14歳やそこらで身内の、しかも、近親相姦なんて見たらショックだよね。
「そうですか。それがばれたなら、動機になるでしょうね。でも、本当に病死かも……」
「確かにな」
国王の葬儀は、友好国から王族やその名代が参列して行われた。
ラナ殿下もビシュヤ王国の王族だから、参列したそうだ。
ナディヤ商会は王室御用達だけど、今回は何も注文が無かった……となる予定(向こうの)だったが、全てをデシン商会で賄うのは無理だったらしい。花とか宿とか食事とか。
「ラヴィータは、異国の棺・異国の喪服・異国産の花に、異国産の食材を使った異国風の料理・異国風の宿……にしたかったらしい」
「何考えているんですか?」
婚約者の実家を贔屓するにしてもやり過ぎだと思う。棺や喪服を輸入する必要性が解らない。輸送費で高くつくのに。
「知らん」
もしかして、国産をダサいとか思っているのだろうか?
「そもそも、異国風の宿なんてありましたっけ?」
「さあ? 探せばあるんじゃないか? 港町辺りに」
港町に在っても意味は無いけどね。葬儀は王都なんだから。
「あれ? でも、異国風の料理なら出来たんじゃ……?」
「料理を提供するには、料理人が必要だろう?」
「……そうですね」
王宮の料理人には作れないのか。なら、異国に行って料理人を雇ってくれば良かったのに。あ、日程の問題で無理だったのかな?
「ところで、この赤い果物は水っぽくて甘くて美味いな。何と言う果物だ?」
「スイカです」
この世界のスイカは甘く無かったから、地属性『天級』の【ギフト】を使って品種改良したのだ。
「へぇ」
シリウス殿下は、どうやら、スイカ自体初めて食べたらしい。
「一玉三万で売っています」
正直高過ぎると思うけど。
「この味・この大きさで三万は安いんじゃないか?」
「ありがとうございます」
よく売れています。
「エラが妊娠したそうだ」
九月のある日、帰宅したシリウス殿下がそう言った。
「妊娠? それは……おめでとうございます?」
婚前交渉か。相手はラヴィータ殿下で間違いないんですよね?
「全く、醜聞だ。急いで式を挙げようにも、喪中だからな」
「あれ? でも、実の母親と出来ている人が、他の女と婚前交渉なんてしますかね?」
昔のヨーロッパって、処女の印--つまり、破瓜の血--が付いたシーツを皆に見せるんじゃなかったっけ? それなのに、婚約者と婚前交渉なんてするのかな?
「まさか……」
嫌な想像に私達は沈黙した。
ラヴィータ殿下の子を妊娠したのは王妃様の方で、それをエラさんが産んだ事にしようとしたとか……。
「エラが本当に妊娠している事を祈るぜ」
私も全く同意だった。
犯人が見付かる事は無く、季節は巡り冬になった。
私は今、隣国の支店に視察に来ていた。
「お待ちください、フローラ様」
視察が終わり馬車に乗ろうとした時、女性に声をかけられたので振り向くと、数人の貴族らしき装いの女性達が立っていた。
「何でしょう?」
秘書のモーリさんが尋ねる。
「私達、ナディヤ商会の会長にお願いがございまして」
「お願い?」
「はい。××国をご存知ですよね? 彼の国の為に、食料支援をして頂きたいのです」
××国? ……ああ、不貞の子を王にした所為で荒廃した国ね。
「ナディヤ商会で食肉用の家畜の飼育を止めて、その餌代に回していた金額で支援して頂ければと」
「動物を食べる為に飼育するなんて野蛮ですわ。即刻止めるべきです。そして、食料援助をすればナディヤ商会の評判が上がりますわ」
はぁ……。
「肉食を野蛮だと禁じたいなら、この国の陛下に訴えたら?」
「出来ませんわ! そんな事!」
えー。『天級』には言えるのに?
「肉を食べるのが野蛮なら、毛皮を剥ぐのも野蛮よね? そのコート脱ぎなさい」
「そんな! 寒くて無理です!」
野蛮な事は即刻止めるべきって言ってなかった?
「畜産農家への補填は?」
「それはナディヤ商会がどうにかする事ですわ」
「そうですか。では、お断りします」
「どうして!?」
どうしてって、メリット無いし。
「会長はお忙しいのです。貴女方の夢物語に付き合っている暇は無いのですよ」
モーリさんが、馬車に乗るよう私を促しながら言った。
「夢物語だなどと侮辱ですわ! 私達は真剣なのです!」
「真剣? じゃあ、貴女達は幾ら支援しているの?」
すると、彼女達は恥ずかしげもなく答えた。
「していませんわ! 私達がする事ではありませんもの!」
「『天級』に無礼を働いているのは、貴様らかー!」
あーあ。神聖騎士が来ちゃった。
「良いのよ。精神病院に連れて行ってあげて」
「はっ! 仰せのままに!」
「放しなさい! 私達は無礼な事なんて何も言っておりませんわ!」
「野蛮って言ったよね? 『天級』は肉を食べないとでも思ってた?」
私の指摘に、言った本人が顔を青褪めさせた。
「お、お許しください! わ、私は、そんなつもりでは!」
「許すわよ。だって、『貴女達は精神病でしょう?』」
ごめんね。他の庇い方思い付かないの。
彼女達は理解したのか、大人しく連行された。
「リディア帝国に頼めば良かったのに」
「見返りにこの国も併呑されたでしょう」
「ああ。そうなるの」
それは兎も角、頼んだのが寄付だったならしても良かったのに。肉売るなとか、他の商会の回し者じゃないのかと疑いたくなるわ。
帰国して雪解けの季節を迎えた頃、ラヴィータ殿下から呼び出された。
「何の用かしら?」
「戦争したいんだとさ」
シリウス殿下が教えてくれた。
「何故?」
「さあ? 国を広げて歴史に名を遺したいんじゃないか?」




