第十二話:婚約2
舞踏会の会場である王宮の入り口に辿り着くと、ティティとその従者が門番と揉めていた。
「招待状が無くったって良いじゃない!」
良い訳が無い。
「好い加減にしないと、牢に入れるぞ!」
お仕事大変ですね。
ティティのドレスは、ボールガウンではなくAラインだった。
「メジュフェ商会の従業員の技術じゃ、ボールガウンは難しいんだ」
カルさんが説明してくれる。
「彼処も昔はね、素材は安いけれど、一人前の技術を持った職人を使っていたらしいんだけれど、今では素人しか使っていない」
「それでよく潰れませんね」
「そうだね。まあ、素人を使い始めたのは彼女の代からだし……。彼女、ナディヤ商会の商品に似た物を作らせているんだよ」
「え?」
「技術的な問題で、そっくりではないんだけど」
パチもんを売ってるなんて!
「それって、法的にどうなんですか?」
「この国の法律だと、間違える位そっくりじゃないと罪にはならないよ」
「あら! フローラ! ……様」
渋々帰ろうと踵を返したティティが、私達に気付いて寄って来た。
「丁度良かったわ! あたくし達お友達よね? あたくしを入れるよう頼んで頂戴!」
友達になった覚えは無い。
「招待状は?」
「届かなかったのよ。誰かの陰謀だわ!」
否定は出来ないわね。だって、私がその誰かでも招待を妨害したいし。
近くで見ると凄く安っぽいわ。貧乏貴族でも、これより良いドレスを用意すると思う。
多額の慰謝料を払わせたから、お金が無いのかしら?
ところで、頭に乗せている船の模型は何?
「今年の流行りなんだよ。ファッションリーダーは、王妃様」
私の視線の先に気付いたらしいカルさんが、説明してくれた。
王妃様の趣味か……。もし、第一王子と婚約したら、私も船の模型を頭に飾らないといけないのかな?
「ちょっと! 聞いているの!」
聞いてませんでした。
「ところで、君に、教会の見張りが付いたのは知っている?」
カルさんが、唐突にそんな事を言い出した。
「は?」
「ナディヤ家の葬儀の時、『天級』に対して不敬を働いただろう? だから、再び不敬を働くんじゃないかと疑ってね。フローラが、『次は止めない』と言った訳だし」
それは、不敬を働くのを期待していると言う意味ですか? そんなに処刑したいの? 怖い。
ティティは怯えたように辺りを見渡し、そそくさと立ち去った。
会場に足を踏み入れると、場違いな私の登場に会場は静まり返った。
招待主の国王夫妻に挨拶しようと思ったけれど、先に挨拶していたらしい少女に気付き、シリウス殿下に挨拶する事にした。
シリウス殿下は『天級』だし、国王様より先に挨拶しても多分問題無いだろう。
「喪服の色のドレスで来るとは、不躾な!」
「全くだ! 私の婚約者選びの舞踏会だと言うのに、縁起でもない!」
怒鳴りつけて来たのは、王妃と第一王子だろう。やっぱり、そのつもりでの招待だったのか。
無視してシリウス殿下に声をかける。
「お久しぶりです。シリウス殿下」
「久しぶりだな。フローラ嬢。この度の我が父の非礼、誠に申し訳ない」
「殿下はお気になさらず。どうしても、今日この場でなければならない重大なお話があるのでしょうから」
『天級』の私が喪中なのに断らずに招待に応じたのは、国王陛下の都合に合わせて上げたからですと、周りの貴族達に『私は非常識じゃありませんよ』アピールしておく。
そう言えば、この空気の中、私より先に挨拶中の少女が挨拶を続けられるとは思えない。先に私が挨拶をしてしまった方が良いだろう。
「国王陛下。王妃殿下」
私は、彼等に顔だけ向けて声をかけた。
「シリウス殿下を私の婿にくださるのですよね? ありがとうございます。お受け致しますわ」
王家には入りたくないので婿に貰います。『神の意思』だから良いですよね?
「良かったですわね~、貴方。シリウスの縁談が纏まって」
王妃様は、これで邪魔者が居なくなると思ったようで、喜んで話に乗って来た。
どうやら、うちの金目当てなのは、国王様だけのようだ。
「父上。ありがとうございます」
平民になりたいシリウス殿下も、この機を逃さない。
シリウス殿下を狙っていた女性達・シリウス殿下を次期国王にと望んでいた人達で、辺りは騒がしくなった。
「それでは、私は喪中ですので、これで……」
「送って行こう」
王様は、何も言わずに苦々しい顔で此方を見ていただけだった。
それから、一ヶ月の六月。
ラヴィータ殿下とエラ・デシンさんとの婚約が発表され、彼女の継母と姉が追放された数日後。
王都に、国王陛下の崩御を知らせる鐘の音が鳴り響いた。




