第十一話:婚約
「フローラ会長。国王陛下より、パーティーの招待状が届きました」
四月のある日、先代会長時代からの会長秘書であるモーリさんが、そう言った。
色々突っ込み所があるなぁ。
「パーティーって、黒い服で行って良いの?」
私は先ず、一番大事な所を尋ねた。
「いいえ。マナー違反です」
そうだと思ったよ。
「喪中の人をパーティーに招待するのって、普通?」
「マナー違反です」
マナー違反を冒してまで、招待したいの?
「平民を招待するなんて、何のパーティー?」
「殿下達の婚約者選びだそうです。国中から未婚の貴族の娘を招待しているようですね」
何でパーティーで選ぶんだろう? 家柄とかで選べば良いのに。
「じゃあ、商会の金目当てかな? 国王からの招待って、断って大丈夫?」
「通常は問題になりますが、会長は『天級』ですので」
ああ。国王と同等かそれ以上だったよね。
「『天級』じゃなかったら、絶対断れないの?」
「そんな事はありません。例えば、感染する様な病にかかっているとか、病状が悪いとかでしたら、断る事が出来ます」
そりゃそうだよね。
「断らずに出席したら、『喪中なのにパーティーに来るなんて非常識』だって、責めるつもりかな?」
「有り得ないとは言えませんが……」
「動機? 王家より人気があるのは気に入らないでしょう?」
「そうでしょうね。では、お断りしますか?」
「そうね……。良いわ。出席します」
そもそも、招待した彼方が非常識なんだし。
「ドレスは如何なさいますか?」
「決まりとか有るの?」
私は、イブニングドレスとかの名称は知っているけど、どんな物を指すのかは知らない。
「夜間の舞踏会ですので、ボールガウンドレス……上から見ますと丸く広がる、ボリュームのあるドレスですね」
「そう。まあ、よく分からないし、アラクネに任せるわ」
「畏まりました。伝えておきます」
「ところで、舞踏会は何時なの?」
「来月です」
来月?!
「随分、急ぐのね」
「……例の事件がありましたので、延期されていたのです」
言い辛そうに、モーリさんはそう答えた。
「それなのに、陛下は私を招待したのね」
そんなにお金に困っているのかな?
「それとも、平民に配慮する気は無いって事かしら?」
延期したのは、縁起が悪いとかそんな感じの理由だろう。
「私には、何とも……」
「まあ、仕方ないか。貴族なんて、そんなものよね」
確か、貴族は平民を同じ人とは思って無かったんだよね?
「では、舞踏会は……?」
「出席します」
「それでは、ダンスの教師を手配致します」
あ、それがあったか!
「必要無いわ。喪中を理由に踊らないから」
「はぁ……」
何しに行くんだと、突っ込みたいでしょうね。
「それに、私は、『天級』の権力を使って、国王が態々喪中の人間を招待した理由を聞きたいだけよ」
「左様でございますか」
そして、時は流れて一月後。
◇シリウス視点◇
第一王子ラヴィータ(と、ついでに、俺、第二王子シリウス)の婚約者選びの舞踏会が間も無く始まる為、貴族令嬢とその母親達が続々と会場である城の広間に集まって来ていた。
国中の独身令嬢が招待されたとは言っても、流石に、年が離れ過ぎている者は招待されていない。
笑顔で国王達に挨拶する女達を、俺は冷めた目で見ていた。
出来レースなのに、ご苦労な事だ。
次期国王である第一王子の婚約者は、既に、二人の平民の娘に絞り込まれている。
一人は、世界各国に支店を持つ為にナディヤ帝国とも呼ばれるナディヤ商会会長フローラ・エル・ナディヤ嬢。
そして、もう一人が……。
「デシン商会会長子女エラ・デシン嬢、ご入場です!」
今入って来たこの少女だ。
ラヴィータと同じ年の16歳。透き通るような白い肌と輝く様な金の髪・空の様な青い目を持つ美しい少女だ。
フローラとエラのどちらかを、ラヴィータに選ばせる事になっている。
フローラを推しているのは国王。ナディヤ商会の財力目当てだ。あわよくば、王妃のツケをなかった事にして貰えるかもしれないと思っているんじゃないだろうか?
対して、エラを推しているのが王妃だ。エラは王妃の遠縁の娘らしい。
国王は知らないだろうが、ラヴィータがどちらを選ぶかは、解りきっている。
あいつが、自分の愛する『女』の意見を受け入れない筈が無い。
妻と息子の『関係』に、国王は気付いていないようだ。喪中の人間を舞踏会に招待する様な鈍い人間だから、当然だろう。
それは兎も角、エラが身に着けている煌びやかな金色のドレスだが、デシン商会製ではないようだ。彼処は、他国で流行っているデザインが売りだから、そうでないあのドレスは、恐らく王妃が用意させた物だろう。
デシン商会に作らせなかったのは、エラが継母達と折り合いが悪い事と関係があるのかもしれない。
その継母達も、招待されてこの場にいる。継母の実家が貴族だからだろうか? 或いは、エラがラヴィータの婚約者に選ばれるのを、彼女を虐めているらしい二人に見せ付ける為か?
エラの継母とその実子は、顔に驚愕と恐怖を浮かべていた。
そこへ、会場を凍り付かせる言葉が響いた。
「ナディヤ商会会長フローラ・エル・ナディヤ様の、おなーりー!」
一瞬で異常なほど静まり返った会場に気付いた国王達が、遅れて口を閉ざした。
此処にいる者の中に、ナディヤ一族放火殺人事件を知らない人間はいないだろう。
喪中の人間が何故来たのか? 招待されたからに決まっている。
招待したのは誰なのか? 主催者の国王夫妻だ。
そして、何故、『天級』のフローラは断らなかったのか?
恐らく、そんな事を考えている事だろう。
カル・ナディヤにエスコートされて会場に入って来たフローラは、当然の事ながら黒いボールガウンを見に着けていた。圧倒的な高級感を伴って。
結った髪を飾るのは、黒いバラの生花。あそこまで黒いバラは見た事が無い。【ギフト】で改良したのか? 花言葉は「憎しみ・恨み」だった筈だが、知っているのだろうか?
耳を飾るイヤリングは、ブラックパール。首を飾るネックレスは、黒水晶。
レースの黒手袋に、ドレスで見えないが靴等も黒だろう。
そして、火傷が残る左目部分を隠す黒の眼帯に、ナディヤ家の紋章が金色の糸で刺繍されていた。
高価なアクセサリーをゴテゴテと身に着けている訳でもなく、ドレスに宝石を散りばめている訳でも無いのに、この高級感は何が醸し出しているのか?
デザインか? 布か? それとも、色か?
「喪服の色のドレスで来るとは、不躾な!」
王妃が怒鳴り付けた。
「全くだ! 私の婚約者選びの舞踏会だと言うのに、縁起でもない!」
ラヴィータも同様だ。
「お久しぶりです。シリウス殿下」
しかし、カルの手を離して近付いて来たフローラは、二人を――ついでに国王も――無視して俺に話しかけた。
この国の貴族社会において、身分が下の者が上の者に先に声をかける事は基本的に禁じられている。が、フローラは『天級』なので、問題無い。
また、『天級』はある意味国王より上なので、国王より先に『天級』の俺に挨拶しても、問題無い。
「久しぶりだな。フローラ嬢。この度の我が父の非礼、誠に申し訳ない」
喪中なのに招待した事を詫びておく。
「殿下はお気になさらず。どうしても、今日この場でなければならない重大なお話があるのでしょうから」
追い込んだ!?
喪中の『天級』をわざわざこの場に呼び出しておいて『重要な話なんてありません』などと言ったら、この場に少なからず存在するジヴィ教会に身内が居る者達から教会に話が行く。
しかも、王妃が、黒いドレスを着て来た事を非難している。『喪に服している事が気に入らないから招待した』と思われても仕方ないだろう。
「国王陛下。王妃殿下」
フローラは、二人に顔を向けるとこう言った。
「シリウス殿下を私の婿にくださるのですよね? ありがとうございます。お受け致しますわ」
当初予定していた話が書き辛くて進まなかったので、カットしました。




