正直な人ですね!結婚しましょう!
「あ」
僕は持っていた斧を池に落としてしまう。
ついてない…。
ちっ、と舌打ちをしつつ家に帰って新しいものを買いにいこうと思い池に背を向けるとボコボコという音が池から聞こえる。
「あなたがおとしたのはっ!?」
振り返ると湖の真ん中にTシャツを着ている髪がボサボサの人が立っていたような気がしたが気のせいだったようだ。
「そ、そこの木こりさん。
お、お待ちなさい」
振り返ると女神のように神々しい人がいた。
美しく気品に溢れた佇まい。
女神というにふさわしい服装。
長時間水の中にいたとは思えない、いい香りがした。
「あ、あなたがおとしたのは金の斧ですか?それとも銀の斧?」
テンプレのような言葉。
本当にこんな湖でおとぎ話のような女神にあえるなんて僕はラッキーだ。
「いえいえ、普通の斧です」
「あなたは正直な人ですね!
結婚しましょう!!」
「!?」
僕が唖然としていると顔を真っ赤にしながらまた言う。
ちょっとかわいいと思ったのは秘密だ。
「一目惚れです!結婚しましょう!」
「おかしいでしょ!?斧はどうした!?」
「結婚式は何時にします?明日?」
「急だな、おい!
てか結婚する前提!?」
女神はこちらの突っ込みを聞いて気がついたように言った。
「はっ!す、すいません。
感情が高まってしまうとつい…」
「い、いや解ってもらえればいいんです」
「お付き合いからですよね!
結婚を前提にお付き合いして下さい」
「あ、それなら…って違う!斧はどうした斧は?」
「結婚式は明日にしましょう」
「お付き合いすることにしても結局明日結婚かよ!」
「子供は男の子と女の子一人ずつにしましょう」
「決定!?こっちは結婚すると言ってないどころか付き合うって言ってないのに子供の話!?」
美しく気品に溢れた佇まいとはなんだったのか。
そんなことを考えた過去の自分を小一時間問い詰めたくなってきた。
「昨夜はお楽しみでしたね!」
「まだあって一日もたってない!」
「ぐへ、ぐへへ」
「せめて言葉に!」
「お料理できないけど養ってください!」
「堂々のニート宣言!?」
「いざ、愛の巣へ!」
「もう無理ですあなたには付き合いきれません実家に帰らせてもらいます!」
もう正直この人に付き合いきれない。
やらなきゃならないことがたくさんあるんだ。
僕は湖に背を向けて家に向かって脱兎のごとく走り出す。
湖が見えなくなると、走る速度も落ちる。
ガサガサと森を歩く音だけが響く。
今考えると、結婚するとか言わなければ彼女はいい人だったかもしれない。
彼女いない歴=年齢の僕をあんなに好きだと言ってくれる人はもう現れないだろう。
それに、突っ込んでいるときは楽しかったのだ。
今度森にいったときには謝ろうと思った。
会えるかはわからないけれど。
赤く輝く夕日に誓った。
このときの僕はまだ知らない。
家に帰ってお風呂に入ろうとしたときにまさかお風呂から女神が現れ、「ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」と言われその誓いがくずれさることを。
「こっちは全裸なんだからもっと恥じらえっ!!」
ムシャクシャしてやった。
後悔はしていない。