死後も現世でゾンビやってます ―ハイスペックな俺と湯けむり温泉は危険がいっぱい!?―
是非、本編の方もよろしくお願いします
読んでくれると嬉しいです
もし。もしもの話だが。幼女な魔女や、超絶エロボディな巫女や、ツンしかない否すでに病んでいるとさえ言える幼馴染を持った普通じゃない高校生男子がいるとしよう。
彼は、生きていけるか?
答えは否だ。
何故か? まず最初に幼馴染に刺される。次に、巫女に刺される。最後に、魔女に燃やされる。
だがしかし、彼は生きている。なぜ、そんなことが言えるかって?
その普通じゃない高校生男子は、何を隠そう俺だからだよ。
「お、お、大当たり!!!!!!」
町内のくじ引き、大声を張らして、甲高いベルを鳴らし華やかなクラッカーとともに言い渡される大当たりという一言。
それを大喜びする幼女な魔女、クロエを尻目に、俺は呆れていた。
これはもう、確率操作とかしているのではないだろうか、ということさえ思わせる目の前のクロエの強運っぷりに言葉さえ出なかった。
「恭介! 大当たりだって、大当たり!」
「あ、ああ、すごい……んじゃないか?」
「もっと喜びなさいよ! これでみんなで温泉行けるね!」
そう、大当たり。その賞品はなんと豪華温泉旅行券。しかも、六人様という破格な賞品だった。
バットしかし、ここで考えて欲しい。
俺の親は他県で仕事をしていて家にいない。
唯一家にいるのは前の前の幼女、クロエと病んでる幼馴染、綺羅。巫女で後輩の真理亜と自身を剣と名乗る薙だ。
なぜ、こんなに女の子に囲まれているかって? そこはほら、本編見てよ。
とにもかくにも、自動的にそんな奴らと一緒に温泉にご招待だ。つまり――
「俺、命どれくらい持つんだろう……」
俺はそんな弱々しい声を虚空に投げつけ、勝ち取った(?)賞品を手に家に帰った。
そんなこんなで俺は今、バスに揺られている。
現在、世の中はゴールデンウィーク一色だ。まあ、日本だけなんだけどな。
目的は……言わずともわかるだろう。温泉だ。
「温泉だぁ!」
「うんうん。クロエさんの日頃の行いがいいから神様も認めてくれたんですね」
「わーい。久々の旅行!」
「恭介様、お茶はいかがですか?」
温泉というもの自体が初めてなクロエはバスの窓から身を乗り出して見えてきたばかりの目的地を眺めて大喜び。
真理亜もそれなりに嬉しそうに、いやかなり嬉しそうにクロエの頭をナデナデしている。
綺羅は……温泉が楽しみなのではなく、ただ単に旅行というものが楽しそうだった。
薙は、俺にお茶を汲み手渡してくるあたり俺のそばにいられるのがいいのだろうか?
何はともあれ、俺たちは無事に温泉につきそうだ。ただ一つの誤算を除けば。
「んでだ。なんでお前がここにいる? フレイ」
フレイと呼ばれた青年はニヤニヤと嬉しそうに笑いながら俺の問いに答える。
「嫌だなぁ! 無料で温泉に来てるんだもの、断る理由が見当たらないよ!!」
「いや、呼んだ覚えがないんだけど……」
「もちろん、呼ばれてないけど、来てみました!」
「……お前バカだろ? じゃなきゃ馬鹿だろ?」
終始ニヤニヤを絶やさないのはフレア・フレイ。俺と同じクラス、同い年で同じ境遇を持つ……イケメンだ。
こいつはプロメテウスという炎の神を相棒に持ち、天上の業火を操る戦闘狂だ。正直関わりたくない。
そもそも、イケメンというだけで関わりたくないというのに……マジでイケメン死ぬ法律とかできないわけ? 政府一体何を考えているんだ!!
……いや、何を考えているのは俺のほうか。
「予約しておいた御門恭介ですけど……」
「あ、はい。御門恭介様ですね。こちらがお部屋の鍵とパンフレットです。今、お部屋に案内させてもらいます」
「はい」
俺はフロントの人の説明を聞いて、部屋まで案内してもらった。
部屋は案外広く、そして何よりも外の景色が素晴らしいものだった。
秋頃に来れば綺麗な紅葉で覆い尽くされ、その間を縫うように太陽の光を反射しながら川が流れるという景色が見られたのだろうが、生憎今日は春真っ盛り。秋ではなく、春だ。
しかし、それはそれで野の花花が咲き乱れ、やはり素晴らしい景色だった。
「ねえねえ、恭介! 温泉行こ! 温泉!」
「おい馬鹿。着いてすぐに温泉なんか行けるか。もう少し休ませろよ」
「いいじゃないですか。温泉で疲れを癒したってバチは当たりませんよ?」
「むぅ……まあ、真理亜が言うなら……」
「じゃあ、恭ちゃんは私と混浴ね♪」
「おい待てゴラ。なんで混浴? ねえ、なんで混浴? 嬉しいじゃねぇか!!」
綺羅が俺の腕を引っ張って混浴へとテッツゴーしようとすると、
「恭介様、私も行っていいでしょうか?」
薙が俺の腕を引っ張る。
幼女らしい可愛らしい顔で、しかもその顔で大人びたことを言っているものだからちょっと背伸びしてみました感バリバリな愛らしい薙を見て、俺の思考回路が吹っ飛んだ。
もう、この子可愛い!!
俺は是非もなく首を縦にふろうとすると、素晴らしいの一言の踵落としが俺の頭に激突する。
「フゲッ!」
「せ、先輩はハレンチです! 馬鹿です! 死んじゃえばいいんです!」
「死んだよ! 今死んだよ! もれなく俺の頭がパッカーンしたよ!?」
死んだ。それは間違いない。なら、なぜ俺が死んでいないか。簡単だ。俺が、不死性、超回復を持ったゾンビだからだ。
俺は、タナトスという頭のネジが何個も吹き飛んでいるであろう神様に、死んで消えそうになっているところを助けられた。
いや、この体に変えられた挙句、おもちゃにされているというのが正しいか。
現に、
「いやぁ! 君は愛されてるねぇ!!」
「……どこから湧いてきたんだよ、お前」
「ん? そこから?」
「お前らって、ホント何でもアリなんだな」
「あははははは! それは面白いね! 神様に無しなんてないよ?」
目の前に突如現れた宙を浮く少年こそがタナトスだ。
聞いてもらった通り、こいつは馬鹿だ。筋金入りのアホだ。ゆえに、神様だ。
「早く温泉行こうよ!」
「あー、わかったわかった。けど、混浴はダメだからな? 行きたいけど、死にたくないからダメだぞ? わかったか?」
「むー。わかったぁ……」
クロエは不満の声を上げながら渋々了承したようだ。
え? 何? そんなに一緒に入りたいの? しょうがない。真理亜がいない時にこっそりおウチで入りましょうか、クロエさん!
俺は心の中でそんな決意を固め、何も知らないであろうクロエに熱い眼差しをおくった。
「あー。至福だぁ。感無量だぁ。こんな落ち着けることがほかにあるだろうかぁ」
「そうだね~」
「ホンット。お前さえいなければ最高だったわー。マジで、なんで付いてきたわけ?」
俺は温泉に浸かりながら、綺麗な景色を眺め、至福に浸っていた。
唯一、隣でくつろいでいるフレイさえいなければ、極楽だった。マジでそう思う。
「しかも、貸切なんて最高だね~」
「あっれ~? 聞いてなかったのかなぁ? お前さえいなければ最高だって言ったよね~?」
「あー。極楽だ~」
「殺してあげましょうか、おバカさん♪」
なんで。なんでだ。なんで、温泉なんてところに来てまでこんなムカムカしなくちゃいけないんだ! しかも、当の本人は全く自覚ないし!
俺は深い溜息を吐いてから、再び至福に浸った。
その頃、女子。
「わー! 真理亜ちゃんっておっぱい大きいねぇ!」
「ふぇ!? そ、そうですか?」
「むー。アタシ、おっぱいない……」
「く、クロエさんはまだ小さいから……え? あ、あの薙さん? なんで、そんな手つきで私の胸に――ぁ……」
真理亜は薙の躊躇なきテクニックにより、小さく声を漏らす。
それを見て、綺羅、クロエはにやりと不気味な笑みを浮かべ……
「え? ちょ! 皆さん!? か、貸切だからって、こんな朝早くから――ぁんっ」
「いやぁ~。真理亜ちゃん、可愛い声で鳴くね~」
「ホントホント。なんだか、体も火照っちゃって。もしかしてマゾなの?」
「だ、だから、皆さん、何言って――あ、そこは、ダメ……ぁん、ぁぁん」
真理亜は一生懸命声を抑えるが、それが綺羅たちの手つきを進行させているとはわからないだろう。だから、真理亜はそのあとも全身ありとあらゆる箇所を搾り取るかのように揉まれた。
「ふぅ……楽しかった」
「ホントにね~」
「私もつい、真理亜様で遊んでしまいました」
悪魔三人の手から離れた真理亜は……
「もう……お嫁に行けません」
意気消沈していた。
二度目の風呂も無事に終え、豪華な晩御飯にもあり付き、あとは寝るだけという状況下で、再び事件は起きた。
牽制し合う女子四人、それに挟まれる俺、笑って見守るタナトスとフレイ。
「綺羅さんとクロエさんはいつも先輩に抱きついているでしょう? 今日くらいいいじゃないですか!」
「そうです。いつもいつもずるいですよ?」
「そうでもないもん! いつもは恭介が抱きつくんだもん!」
「そうだよ! それに、真理亜ちゃんだってちゃっかり恭ちゃんの腕を抱き枕みたいにしてるじゃん!」
「あ~。どうでもいいけど、寝ない?」
俺を取り合っているはずの四人に提案すると、なぜか殺すぞと言わんばかりの視線が帰ってくる。
おかしい! 俺を取り合ってるんじゃないの!? それとも、俺の隣に寝たくないとか!? 泣くぞ? マジで泣くからな?
「とにかく! 今日は私が先輩の隣で寝ますからね!」
「何言ってるの? 真理亜は胸が大きすぎて邪魔よ。ここは胸がないアタシが――」
「いやいや、クロエちゃんよりも少しは胸がある私が行くべきだよね!」
「反論します。恭介様はあなた方のようにうるさい人とは寝たがりませんよ?」
「いいから寝よ!? ほら、隣部屋の人とかにも迷惑だからさ!」
「「「「何言ってるの!? 人生の中で一番重要な項目の話してるんだけど!!」」」」
「……さいですか」
四人の今にも戦争を始めかねない威圧に圧倒され、俺は引き下がってしまった。
地震雷火事親父。あれはうそだ。
本当は、地震雷火事女子だ。この世で一番怖いのは、親父ではなく、女子。それも、母親ではなく、親しい女子小学生から、女子高生だ。
あれは怖い。マジで怖い。男子の天敵だ。
「ねえ、タナトス」
「何かな?」
「君って、いつもこんな楽しい中にいるの?」
「ああ、そうだよ。すっごく楽しいね。この中は」
「羨ましいなぁ」
「お前ら、少し手伝ったらどうだ? それとも一生寝てるか? ああ?」
タナトスとフレイを睨みつけて、俺は深くため息を着く。
その後、女子四人の戦争は四時間にも及ぶ激しいものとなり、結局最後は四人とも疲れ果てたのか俺に抱きつく形で終了した。
つまり、いつもと一緒ということだ。
そう、いつもと一緒。それに至るのに、四時間……どうしようもないな、おい。
鳥の声。川の音。風で揺れ掠れる木々の葉たち。様々な音の中、俺は重い瞼を開く。
全身が重い。風邪ではない。四人の女子に抱きつかれているからだ。
ハーレム? いやいや、いいものじゃないぞこれは。なにせ、普通じゃない女子たちだらけなのだから。まあ、見た目可愛い分、結局最高なのだが。
俺は四人を引き剥がすように上体を起こし、近くにあるケータイで時計を見る。
十一時。休みだからといって、こんな時間に起きては健全とは言い難いだろう。
俺はふぁっとあくびをして、見てはいけないものを見てしまった。
「……色々と聞きたいけど、ひとつだけ聞いていいか? なんで、お前らいんの?」
「ガハハ! おいおい。なんでとはなんつぅ物言いだよ! 俺様をおいて旅行とは主様もひどいな!」
「そういうことじゃ。まあ、そう焦ることもないじゃろ?」
「そうそう。恭介さんはそのまま真理亜の抱き枕になっててくださいよ」
起きて早々に、俺は眠りたくなった。
眠って、次起きたらこいつら消えててくれないかなぁ、とか思っている俺がいた。
仁王立ちする態度がでかい、ついでにテンションも高いのは、龍神カンナカムイこと、雷電。
お茶を飲みながら、まったりとしているのは真理亜の婆さん。通称神崎の婆さん。
そして、お茶菓子のみに手を出しているのは、真理亜の幼馴染で、親友の間宮薫。
言うまでもないが、こいつらは呼んでいない。つまり、こいつらはいてはいけないのだ。
ならなぜ、ここにいるか。
「なぜここにわしらが居るという顔をしておるのぅ? 簡単じゃ。真理亜の不注意でこの場所を聞き出しておってのぅ。薫も行ってみたいというので来てみたのじゃよ」
「えへへ。恭介さんに会いたくなっちゃいました♪」
「薫。お前の冗談は冗談に聞こえないからな? どうせ、真理亜の恥ずかしがってる顔でも見に来たんだろ?」
「あ、バレました? まあ、そんな顔は見れませんでしたけど、この可愛い寝顔が見れたのは嬉しいですよ~」
「まあ、なんじゃ。ここで会ったのも何かの縁じゃ。一緒に楽しもうじゃないか」
「一方的に会いに来たのが縁で済ませられるかよ。ったく。旅行も安心していけないのかよ」
俺は肩を落とし、朝から肩が重いという風に肩を叩く。
すると、
「恭ちゃん……」
「恭介ぇ」
「せん、ぱい」
「恭介……様」
何も知らない四人は、俺の名前を寝言で言っているのを聞いて、諦めた。
まあ、今回はこいつらの可愛さに免じて許すか。
俺はため息を着いて、四人の頬を順番に撫でる。
「んー。さて、連休も始まったばかりだしな。気楽に行こうか」
俺は一つ伸びをすると、吐き出すようにそういった。
そう、今日も明日も明後日も、ゴールデンウィークで休み。
なら、こんなメンツでも楽しめるだろう。そんな安易な考えで、俺は休みを貪る準備をして、まずは四人が起きるのを待つのだった。