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砂になった世界で。

終幕男性。

砂になった世界で。シリーズ6弾です。

題名からそうなのですが序幕女性も合わせて読んでいただいた方がわかりやすいと思います。

 ごめんね、ありがとう。

 君がいたから僕は気づけたんだよ。


 僕の大切な人はずっと昔、二人共死んでしまいました。

 元々は妹の事故をきっかけに姉と不老不死を作ろうとしていたのですが、姉は不死が完成する一歩手前で研究所の屋上から身を投げ出し自殺をしました。

 姉の自殺は勢い的なものだったのか遺言書はどこからも見つかりませんでした。

 でも僕はなんとなく理由がわかっていました。

 姉は本当に妹が大好きだったから。

 姉の自殺で一番困ったのは僕ではなく研究所の人たちの方でした。

 不死はもう完成しているようなものなので自分たちでどうにでもなります。困るのは不老の方です。

 不老はまだ初期段階であったため、この研究でリーダーとして働いていた姉がいなくなり開発ペースが格段に下がってしまうと考えたのです。

 すると目は自然に僕の方へ集まってきました。

 だって姉と僕には同じ血が流れているんですからそうなったって不思議ではありませんでした。

 それから僕は姉と同じように研究室に引きこもり研究を続けました。

 どれくらい引きこもっていたのかはわかりませんが、ある日僕は同僚に病院へ行くようにと言われました。

 どこも体調なんて悪くないよ。

 僕はそう言いましたが同僚は静かに首を振り僕に告げました。

「法律で決まった。義務なんだ」

 同僚は何かに怯え、そして焦っているようでした。

 僕は仕方なく研究所からタクシーを拾って病院へ行きました。

 道中、外で歩いてる人やすれ違う車を運転する人の顔はとてもにこやかなでタクシーの運転手のおじいさんまでとても嬉しそうな顔をしていました。

 僕が研究室にこもっている間に、何かあったのかな?

 そんな疑問はすぐに答えへとたどり着きました。

 運転手さんがなんとなくかけていたラジオから『政府が【永遠の命】を発表した』と流れてきたのです。

 僕はラジオにまさかと耳を傾けました。

 内容は明らかに自分たちが作り上げた不死のことでした。

 しかもその不死の薬は永遠の命と称され、人類は皆この薬を体内に取り込むことが決まっていたのです。

「あの、これどういうことなんですか?」

 僕はたまらず運転手に話しかけました。

「え? どういうって流れてた通りだよ。薬の内容とかは私にゃよくわからんかったんだけどね、まぁそれでずっと生きれるなら万々歳だ。お客さんも病院に行くってことはこれから永遠の命を手に入れてくるんでしょ?」

 僕の頬に冷たい汗が流れるのを感じました。

 同僚の様子がおかしかったことも同時に理解しました。

 あの不死はまだ世に出回って良いものではなかったのです。

 不死について何か問題があるわけではありません。

 あの薬を体内に取り込めば確かに不死は手に入ります。

 そう、絶対に、何がどうなっても死なない体になるのです。

 不死になると成長するスピードが格段に落ちます。

 でもただ落ちるだけ、人は成長期が終わり年を重ねると老化していきます。

 老化しきった体はどうなるのか、もちろん死にはしません、ただ治療でもどうにもならない状態にでもなってしまえば、ただ生きるだけになってしまいす。

 言い方は悪いかもしれませんがそれは生きる屍です。

 そしてもう一つの問題は人口。

 不死を手に入れたからと言って生殖活動ができなくなるわけではない。

 子どもはもちろんこれからも生まれ続けるでしょう。

 動けない老人は増え、子どもも増える。

 増える一方で人口の数は決して減ることはなくなります。

 世界のバランスがいつか崩れてしまうのは火を見るより明らかでした。

 この問題は不老を作る過程で解決していく予定だったんです。

 けどこれから不老を作り出して崩壊前に間に合うかどうか、それはできれば考えたくない問題でした。

「お客さん」

 運転手さんが僕に話しかけてきました。

「え、はい」

「ほら、つきましたよ」

 そう言って運転手さんは窓を指差す、そこには確かに僕が指定した病院がありました。

「あっ、すいません」

 僕は慌てて財布を取り出し運転手さんにお金を払って外へ出ました。

「お客さん」

 運転手さんの声に僕は振り返りました。

「何をそんなに考え込んでいるのかは知らんがね、これからはずっと生きてられるんだ。もっと気楽に、のんびりと考えていけばいいさ」

 そう言って運転手のおじいさんは微笑むと去っていきました。

「……」

 少し、おかしいと思いませんか。

 なぜ、不死は永遠の命という形で出されたんでしょう?

 それは誰がしたんでしょう?

 どうして誰も止めないのでしょうか?

 不老不死というのは昔から永遠の課題、作っていた僕が言うのはなんですが疑われて当然の代物です。

 病院の中に入ると僕は受付を済まして、待合席に腰を下ろしました。

 病院内に人は多く目的はみんな僕と同じようでした。

 テレビは一つあったけど子どもたちに占領され画面にニュースが流れる気配はありません、雑誌なんかもすでに他の人に読まれていて僕は何か情報を手に入れる方法はないかと考えていたのですが、携帯も持っていませんでしたし、研究やらの疲れが出たのかいつの間にか深い眠りについていました……。


「い……おい……おいって、起きろよ」

「ん……」

 僕が顔を上げるとそこには見慣れた研究所の室内だった。

「時間だ、行くぞ」

 同僚が時計を確認しながら言う。

 そうか、もうそんな時間か。

 僕は体を起し研究室へ同僚と向かう。

 とてもなつかしい夢を見ていた気がする。

 そう、永遠の命を手に入れる少し前の……。どうせならもっと楽しかった頃を夢で見たかったけどな。

 あの頃は僕も同僚もこんなやせ細ってはいなかっただろう。

「ねぇ」

 僕は僕の前を歩く同僚に話しかける。

「なんでみんなが永遠の命を手に入れることに賛成したか、覚えてる?」

「……そんなもん、政府のせいに決まってんだろ」

「……」

 そうだ。

 僕は足を止め外を窓から眺める。

 かわり果てた僕の世界。

「おい、どうかしたのか?」

 同僚が僕に呼びかける。

「ごめん。ちょっと”アレ”のために考えたいことがあるんだ。先に言っててくれるかな?」

「ああ、”兵器(アレ)”のことか。考え事なら研究室でやりゃいいのに」

「ううん、ここで考えたいんだ」

「そっか、じゃあみんなにも伝えとくよ」

「うん、ありがとう」

 僕が例を言うと同僚は姿を消した。

 僕は再び窓から外を眺める。

 今日の天気は何なんだろう?

 曇りなのかな、あつい雲が空を埋め尽くしている、でも僕が知っているはずの曇りはもっと灰色であんなに汚れた赤色なんかじゃなかったはずだ。

 もしかして戦争で使っている薬物とかの影響かな。

 ……政府が決して嘘をついていたわけじゃなかった。

 でも不死の問題点を公表していたわけでもなかった。

 都合が悪いことは全て隠し、僕らの口を塞ぎ、他の研究者たちにサンプルが渡る前に法律で薬の投与を義務化し、自分たちの失った信頼とプライドをなんとか取り戻そうとしていた。

 その結果がこれだ。

 戦争の理由は様々だった。

 永遠の命を手に入れた欲に溺れた者。

 永遠の命を手に入れた貧しい人々の反逆。

 永遠の命を手に入れた家族を守らんとする者。

 永遠の命を手に入れた自暴自棄になった者。

 そして本来なら死んでしまうほどの傷を負った仲間の復讐をしようとする者。

 全てが悪循環でお互い引くことができなくなっていた。

 もし永遠の命なんてものがなければこの戦争はここまでひどくならなかったなんて事実は一目瞭然で、今更不老が完成したところでこの地獄が消えるなんてありえないのというのは明らかだった。

 だから僕らは不老を作るのを諦め、ある兵器を作る計画を立てていた。

 その兵器は僕らを、永遠の命を持った人を対象とし、その人を砂に変える。

 痛みも苦しみもなく。

 ただ砂になって消える。

 この希望が消えてしまった世界から自分も消えることができる。

 でも無差別にそんなことをしてしまうのは大昔に使われた核兵器とおんなじだ。

 だから僕は昔みんな提案した。

 兵器は永遠の命を持つ者を対照に砂に変えることができる。

 しかもこの世に、生きることへの希望を捨てた者のみに限定する。

 研究メンバーのみんな困った顔をしていたけど、なんとか協力してもらうことができた。

 その案を提案してから約2100年ぐらいかな兵器の開発は予想していたよりは順調に進み、あともう踏ん張りっていうところだ。

 ……。

 僕は首を横に振る。

 余計なことは今は考えないでおこう。

 僕はみんなが待つ、研究室に向かった。


 どれくらい昔だったのかな。

 僕はどれくらいの時を生きたのかな。

 いろんな物を見てきたね。

 いろんな人に会ってきたね。

 覚えてる?

 ねぇ、ちゃんとみんなのことを。

 ――僕は覚えてる?


 僕は一人、研究室の鍵を持って部屋から出る。

 兵器は完成した。

 打ち上げは明日の予定だ。

 政府は発射と同時に電波情報で国民に兵器について伝えるらしい。

 だから兵器の存在を今知っているのは研究に関わった人間と政府のごく一部の人間だけだった。

 僕以外のみんなは研究に疲れぐっすりと休んでいる。いや、休んでなんていないのかも。

 とにかくみんな個人の部屋にいた。

 僕は少し、用事があって。

 研究室の鍵を開けて中に入る。

 中は研究機材やプリントが散乱していて、とても綺麗と言える状態ではなかった。

 僕は兵器が置いてある奥まで進み足を止める。

 兵器はすでに発射台に設置され、いつでも発射できるようにされていた。

 兵器は原型がない。

 無色透明で発射されると空気に混ざり世界中に広がる。

 僕は少し振り返って研究室を見る。

 永遠の命も兵器も、ここで作られた。

 全部ここで始まって、ここで終わる。

 勝手に始めて、勝手に終わる。

 これは僕らが始めたことだから僕らが終わらせなくてはいけなかった。

 そうだよね? 姉さん。

 僕の役目は、これでよかったんだよね?

 そう、僕の役目はこれで終わり。

 役目というかこれ以上僕にできることは残っていないんだ。

「……」

 僕は兵器が入った入れ物に触ってみる。

 温かみなんてあるはずもなく、冷たい。

 ……もし、君があの時死んでいなければ今頃はどんなふうに成長していたんだろう。

 もうそんな想像も、生きていた頃の姿でさえ思い出せなくなった。

 あの頃は生きていた人。

 今も生きている人。

 あの頃にだって自分は確かに存在していたはずなのになのにうまく思い出せない。

 まるでどこかに置き去りにしてしまったみたいに。

 確かに生きていたはずなのに。

 僕は頬少し上に持ち上げる。

 あぁ、昔はもっとうまく笑えていたはずなのになぁ。

 姉さんはどんなふうに笑っていたっけ。

 あの子はどうやって笑っていたんだっけ。

 思い出せない。

 でもいいんだ、僕が思い出せなくっても。

 だって僕の人生はもうすぐ終わるんだから。

 最後まで君には迷惑をかけちゃうね。

 ねぇ、僕の勝手なバカバカしい話を少し聞いてくれないかな。

 頭の中ぐちゃぐちゃで、きっとわけのわからないことを言うと思うんだけど。

 僕はね、君をどこか自分の妹と重ねていたんだ。

 もう思い出せやしないのにおかしな話でしょ?

 妹はね多分交通事故で死んでしまったんだ。

 もっとやりたいこといっぱいあったんだろうに、死んでしまったんだよ。

 全ての希望を奪われてしまったんだよ。

 だから僕と僕の姉さんはもうそんなことがこの世に起きないように不老不死を作ろうとしたんだ。

 でも、それもこんな結果に終わって、(兵器)を作ることになってしまった。

 君に僕たちの後始末をさせることになってしまった。

 ごめんね。

 こんなはずじゃなかったんだ。

 もっと希望に溢れた世界を願っていたんだ。

 君がここから出されて、君がこの世界を見ればどう思うんだろう?

 残念に思うかな。

 迷惑に思うかな。

 こんな形で見せてごめん。

 君が大好きだった世界を守れなくてごめん。

 君一人にこんな役割を押し付けてしまってごめん。

 ただ一つ言わせてくれないかな。

 僕は君に笑っていて欲しい。

 ねぇ、さっき僕、君を妹と重ねていたって言ったでしょ?

 なんでって思うよね、多分。

 妹はね、笑っていたんだ。

 笑って、みんなに笑顔を広げていった。

 君を作ったのも、君にこんな役割を押し付けてしまったのも僕だけど、君には妹のように笑っていて欲しい。

 妹が生きられなかった分を生きて欲しい。

 わがままだけど。

 こんなの本当に押し付けでしかないんだけど。

 それでも君には笑っていて欲しい。

 僕はね、最初みんなに無差別に人を砂に変えていっちゃ核兵器とおんなじだって言って『生きることへの希望を捨てた人を砂に変える』って条件にしたんだけど、あれ、やっぱり嘘だ。

 僕はきっとまだ信じていたかったんだ。

 この世に不死があってよかったと思ってくれる人がいるって。

 まだこんな世界でも希望はあるんだって。

 そう思ってくれる人がいるって信じて、自分を救おうとしていたんだね。

 君を自分自身を救うための道具にしていたんだね。

 でもね、君を作っていくうちに僕は考えたんだ。

 人が砂に変わるのは全ての希望をなくしてしまったからじゃない。

 次の希望を持つためなんだ。

 次の未来は幸せになろうと思うためなんだ。

 ご都合主義だって思うと思う。

 僕だってそう思うんだもの。

 でもそう思わさせてくれたのは君の存在があったから。

 君は希望なんだ。

 僕らの。未来の。

 この世にはきっともうない希望なんだ。

 僕は兵器が入った入れ物にもたれて座り込む。

 どうしても最後に君に言っておきたかったんだ。

 今更後悔してもしょうがない。

 今更懺悔したって意味はない。

 今更過去に戻りたいとも思わない。

 だから前を向いて行くんだ。

 その方法が例えこんな悲しくてダメな方法でも。

 希望に向かって進まなきゃ。

 僕は目を閉じる。


 ――気づかせてくれて、ありがとう。

ここまでご覧いただきありがとうございます。

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