表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

「……あたりましたか」

「ええ、どうやら」


 窓枠から身を降ろして、有沢刑事はにやりと笑ってみせた。

「射撃には少々自信がありましてね。こないだも、逃げる相手の足を撃ち抜いて……」

「それはそれは……なのに、どうして一昨日は取り逃がしたんです?」

 有沢は答えなかった。代わりに低く唸ると、白布を巻いた肩を抑えて俯いた。

「大丈夫ですか……」

 乃麻が、一歩前に出る。その白く細い手を、有沢は強引に掴んだ。

「……あら」


「ふふふ……一昨日ですか? 別に取り逃しちゃあいませんよ……。しっかりと、足を撃ち抜いて……白い首を、ぎゅっとねえ、」

 乃麻は冷たい目で、有沢の顔を見ている。

「あの少年は分かっていない……やはり銃は駄目だ……手で殺さないと、分かりやしないんですよ……あの女どもも、そしてあんたも……」

「……悪趣味、ね」

「余裕ぶってるんじゃねえぞ……あれか、頼もしいボディガード君が来るのを待ってるのか?」

「ええ」

「無駄だって……あいつは今頃ピストル魔に撃たれて、冷たいアスファルトがお友達……なんだ、その目は! ガキが……また俺を見下すのかァ!?」

 骨太の手が乃麻の細い首にかかる。


「くっ……」


「ほら、どうだァ……」

「ふふ、情けない……」

「なんだと?」

「手を離しなさい、負け犬……三回まわってワンと言えば、許してやらないでもないわ……」

 乃麻が、鼻で嘲笑わらう。

「く、く、くそがッ!」

「……まあでもどちらにしろ、もう遅いけれど」

「んだとォ!?」


「止めろ」


 突然響いた声。

 開け放たれた窓、風に舞うカーテン、腰のステッキに手をかけて立つ、黒衣の少年。

「な……!」

「お嬢さまから手を離せ。下郎」

「て、てめえ、鞭野に殺されたんじゃ……!?」

「生憎、あれくらいのことでは死ねないからだなんでね」

 凍りつくような冷たい声とともに、千明はさっと前髪を払う。白い額に、幽かな焦げ跡。

「な、何言ってやがるんだ、」

 混乱しながらも有沢は乃麻を振り払い、拳銃を構える。

「死ね、ガキ……」


 次の瞬間、しろがねの一閃が音もなく、有沢の両の手首から先を切り落としていた。


「あ……?」


「万能科學刀・『神斬蟲カミキリムシ』」


 千明の手には、抜き払われた細身の刃。

「う、う、うあああああッ!?」

「失せろ」

 恐慌状態に陥る有沢の顔面に、深々とハイキックが極まる――有沢は悲鳴を上げて、壁に叩きつけられた。


 ふう――とため息をついた次の瞬間、一転してパニックを起こしたのは、今度は千明の方であった。

「うわー! だ、だだだだ大丈夫ですか、お嬢さま!?」

「大丈夫じゃないわ、こんなに赤く……」

 髪をたくし上げて覗いた白い首に、有沢の手形が残る。

「ああ、ど、ど、どうしよう、え、えーと、病院、」

「放っておけば消えるわよ」

「で、でででも、万が一痕にでもなったら……」


「ひ……あ……て、て、てが……」

 有沢は泡を吹きつつ、床でのた打ち回っている。

「……この外道、どうしますか」

「ちょっと待ちなさい……来たわ」


 乃麻の言葉を合図にしたように、どやどやと部屋に人が入ってくる――いずれも、乃麻と同じ年頃の女生徒たちだ。

「あ、こいつだわ!」

「間違いないわ、私の首を絞めたのもこいつよ!」

「この人殺し!」

「人殺しよ!」

「ひ、ひぃいいいい!?」

 有沢の顔から生気が消える。

「お嬢さま、彼女たちは……?」

「私が呼んだの。今回の事件の被害者の皆さまよ」

「お、お前ら、死んだはずじゃ、いや、殺したはずじゃ?! 俺が!?」

「死なないのよ」

 乃麻は首をさすりつつ、微笑んだ。

「し、死なないって、どういう……」

「千明」

「はい」

 千明は女生徒の中の一人につかつかと近寄ると、背後からその頭を掴み、思い切り引っ張った。

「失礼」


 すぽっ。


「な、何するのよ!?」

 首が、取れた。


「ぎ、ぎゃああああああ!?」

「……首取れてるわよ」

「あんた……ロボットだったの?」

「そ、そんなわけないでしょ?」

「こ、これはどういう……」

「刑事さん、あなた自分自身の手首御覧なさい」


 有沢は蒼白な顔で、視線を手首に落とす。その切り口からは血も肉も骨も漏れず、代わりに鉄骨と、火花を散らす無数のコードが露わになっていた。

「ひ、ひぃ……?!」


「要するに、この島の皆さんは全員ロボットなんですよ、あなた含め」

「お嬢さん方、ご苦労さま。帰っていいわよ」

 首を元に戻された少女たちは、狐につままれたような顔をして部屋を出て行く。

「だから、死なないの。直せば、直るのよ」

「じゃ、じゃあ……」

「ええ、あなたの殺人は不問よ」

 有沢の顔に、混乱の中にも安堵が浮かぶ。

「でも、」

「へ?」


「あなただけには教えてあげるわ。私、人間なの。正真正銘の」


「は……?」

「千明」

「はい」

「やっておしまい」

 千明はステッキ――いや、ステッキに仕込んだ、鋼をも断つ殺人剣「神斬蟲」に手をかける。

「ひ、ひぃっ!!」

「大丈夫、後でちゃんと直してあげますから。あ、逃げようとすればそれだけ痛くなりますよ? まあ、どちらにしろうんと痛くしますけど」

「た、助けて、なんでも、なんでもします、三回まわってワンとでも、なんでも、」

「……どうしますか、お嬢さま」


「言ったでしょう? ……もう遅いわ」


「いやああああああ!?!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ