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「だから、やっぱなんか秘密があるんだって」

「そうかなあ」


 大通りを女子高生が二人、うきうきと歩いてくる。

「あんなに美人で頭もよくて、スポーツ万能で性格もいいとかさあ。とても私たちと同じ人間とは思えないじゃない」

「確かに釣り合う男とかいないよねー、うちの学校とかだと」

「絶対ロボットだよ、お父さん有名な科学者だったんでしょ? きっとなんか、世界征服とか、そういう凄い目的とかさー」

「ロボットになって美人になれるんなら、私も改造してほしいな……」


 人々が行き交う夕方の街。商店が並ぶこの通りは、この島のメインストリートである。学校帰りの学生から、買い物袋を提げた主婦まで、人の流れは絶え間ない。


「……おい、なんだアイツ?」


 そんな中、若者の一人が奇異の声を上げた。それを合図にしたように、人の群れがさっと分かれる――アイツ、と呼ばれた一人の男を避けるように。


 男はこの平和な大通りに、明らかに似つかわしくない姿であった。全身はずぶ濡れ、長い前髪で面相は隠れているが、虚ろな、しかし妙な凄みのある目だけは露わになっている。男、と書いたが、まだその年の頃は二十歳にもならないほどだろう。しかし足を引きずるように歩くその幽鬼が如き姿には、少年や青年という言葉はとても似合わない。


 そして何より人の目を惹いたのは、その服――白のパーカーにこびりついた、褐色の染み。


「あれ……血じゃないか?」

「ちょっと、やばくない、あれ?」


 ふん――人々の言葉が聞こえているのかいないのか、彼は軽く鼻を鳴らしてまっすぐ歩いていく。


(ん……)


「あー、改造手術ってどこで受けれるのかなあ」

「いつまで馬鹿なこと言ってんの……にしても、今日のケーキ美味しかったなあ」

 男の目の中に、二人の女生徒の影が固定される。会話に夢中の彼女らは、まだ男の存在に気付いていない。男の口元が、幽かに歪む。


 男はポケットに手を入れたまま、歩を速める。おい、あれ、人々がざわめく。それにようやく、女生徒の片割れが異変に気付いた。しかし彼女がもう一人の袖を軽く引いたとき、既に、男は、少女のすぐ傍らに立っていた。


「え……?」


 顎の下に何かが押し付けられる。固い、何か。


「グッド・バイ、」


 銃声が、夕の空に響いた。

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