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 三年前の嵐の晩、天才科学者・羽足林太郎は曳鞠島の住人全てをロボットに変え、そして姿を消した。


 この島の時間は止まった。そして、そのことは、誰も知らない。


 ただ一人の人間・羽足乃麻と、彼女を守るために作られた機械人形・ガラテア――日柄千明を除いて。



「お父さまも一体、何を考えてこんなことを……」

 頬杖を突いて、乃麻は、ため息をつく。何故私一人を残して……。

「そう、私は人間。たった一人の」

 ならば。私には責任がある。たった一人の人間として、そしてお父さまの娘として。


「いつか、お父さまが帰ってくるその日まで……」


 そして、全てが元に戻る時が来るまで――私は、この島を、私に残されたこの島を、守らなければならない。

 それが、私の使命。


「お嬢さま、入りますよ」

 重い扉を開けて、千明が入ってくる。羽足邸、居間。

「島の皆さんの記憶は、ちゃんと調整しておきました。例のピストル魔の少年も一命を取り留めて、今日にでも本土に移送されるそうです」

「そう」

「何でもあの有沢って刑事、一週間前に女子高生の彼女に逃げられたらしくて……。それで、年恰好の似た女の子を片っ端から襲っていたそうです」

「それで、ちょうど近くに逃げてきたピストル魔に罪をなすりつけようとしたわけね」

「あ。あと……」

 千明が、くすくすと独笑した。

「何? 思い出し笑いなんて、品がないわね」

「いえ、あの有沢刑事の記憶操作が不完全だったらしくて……『周りの人間がみんな機械に見える』と喚いているそうです」

「ふふ。まあそのうち修理することにして、しばらくは放っておきましょう」

「そうですね」

「にしても千明、今回はご苦労だったわね」

「い、いえ、そんな」

「……ところで」

 乃麻が、そのくるりとした黒目で千明の顔を覗き込んだ。

「は、はい」

「ケーキは?」

「は? 結局昨日買ってきたじゃ……」

「それはそれ、これはこれ。昨日『明日買ってくる』と約束したわよね」

「え……」


「今すぐ買ってきなさい」



 こうして千明は今日も、屋根の上を走るのであった。

 本作は2008年頃、長編小説の序章および第一章として書いたものです。

 よくあることで、そこを以て本作の執筆は中絶し、以来完璧にお蔵入りとなっておりました。

 まあでも最近読み返してみたら、これはこれでちゃんとまとまってるな、と。元々連作短編的なスタイルで書くつもりだったので、当然と言えば当然なのですが。

 というわけで本作は未刊とか書きかけじゃなくて、完結した作品です(と言い切っておく)。


 タイトルは、蘭郁二郎「白金神経の少女」という作品から借用しました。


 乃麻・千明というキャラクターにはそこそこ愛着があるので、もし機械、いや機会があれば、また書いてみたいと思ったりしています。

 またお目にかかることがあったなら、どうぞよろしく。


 以上、蛇足ながらあとがきでした。

 最後になりましたが、読んで下さった皆さまに感謝の念を捧げます。

 ではでは。

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