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 嵐の夜だった。闇に覆われた研究室の作業台ベッド、無数の配線コードに繋がれて、僕は生まれた。


「名前は……名前は何にしようかな……?」

 突然の稲光に、一人の男の姿が浮かび上がる。彼は続けて何かを呟きながら、僕の傍らを二度、三度とゆっくりと周回した。


「ガラテア」


 また雷。彼は大きく暗い瞳で、僕の顔を覗き込む。

「ガラテア。佳い名だ。物語の創まりにふさわしい……ガラテア」

 僕には分かっていた。この男の言うことに、逆らうことは出来ないと。男は僕の心を見透かしたように、にったりと笑う。

「見たまえ」

 男は部屋の奥を指差した。暗がりの中に、何かがある。

 ……椅子。誰かが、座っている。

「ガラテア、君に頼みがある」

 僕の名付け親は静かに、その椅子の背後に回った。僕はもっとよく見ようと起き上がろうとするが、絡みついた配線が邪魔で動けない。

 あ、また雷。稲光がさっと、部屋を照らす。


 ……少女だ。真白い肌の、少女。眼を閉じて、椅子に深く腰掛けている。


「彼女を、守って欲しい」

 彼女は、眠っているようだった。

「彼女――私の乃麻のーまを、守って欲しい。夢から醒める、その日まで」

 風雨が窓を揺らす。男はしばらく、じっと黙って僕の顔を見ていた。僕は身じろぎも出来ないで、やはり彼の顔と、そしてそこにいる少女を代わる代わるに見ていた。


 雷鳴が轟く。闇が少し軋んだ。雨はなおも、止む気配がない。

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