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私が貴女で、貴女が私?

 日比野 有紗という少女が初めて触れたゲーム。それは、「薔薇の乙女と恋の花」という乙女ゲームだ。50を超えるエンディングと美しい色彩で彩られたこのゲームは、日本国内ならず、海外でも大流行したゲームだった。…今から、20年ほど前に。

 某携帯型ゲーム機を作った有名ゲーム会社が新しいゲーム機を発売し、間もなく十周年。世界にそれが浸透すると同時に、旧型のそれは姿をくらまし、今の子供達に聞いても旧型の名前は分からないらしい。が、有紗の年齢は今年で17歳。分からなくても無理ない程の年齢で、今もなお、初めての大切なゲーム、「薔薇の乙女と恋の花」をプレイし続けている。

 

 さて、このゲームには、2人のメイン女性キャラクターが登場する。1人目は、ヒロイン、ソフィア・ローズ。心優しい少女で、ゲーム内の世界の聖女だ。彼女は、エンディングにもよるが、大体では王子と婚約し、女王となる。清楚な見た目や勉学にひたむきなその姿に、プレイヤーもゲーム内の攻略対象もメロメロになったとか。

 2人目は、アリサ・ビリュアーン。断罪される悪役令嬢だ。ソフィアと王子との恋路を邪魔したり、ソフィアを虐めたりと、属に言う当て馬キャラである。まぁ幾つかのエンディングでは、彼女の可哀想な過去が露見し同情を集めたりもしたが、やはり悪女といえば彼女、と言われるほどに悪いイメージが根付いている。そしてこのキャラクターは、ほぼ全てのエンディングで悲惨な結末を迎えることで有名だ。ソフィアを殺害しようとして返り討ち、悪事が露見して処刑、生贄に選ばれ人知れず死亡…。見事に死亡フラグを立てて回収していく彼女は、今でも「アリサパロ」というパロディーが樹立されるくらいネタに振り切ったキャラクターだ(ちなみにアリサパロは、フラグを全回収する二次創作に用いられる)。

 あまりの悲惨っぷりに、公式も心を痛めたのだろうか?1つだけ、アリサ・ビリュアーンが助かるルートを用意していた。しかし…。それは、期間限定個数限定追加コンテンツを追加購入した人がゲーム内のあるアイテムをゲットして、特定の会話イベントで一定の選択をしなければそのルートへ行かないという、あまりの鬼畜っぷりを発揮していた。無論、そんな追加コンテンツを日比野有紗は手に入れられていないし、どうやって攻略するかも分からない。しかし、日比野有紗は一縷の望みをかけて…――もしかしたら、追加コンテンツが無くても、アリサ・ビリュアーンを救う方法がないかと考えて――、全ての会話をやり直し、全てのデータをやり直し、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も、アリサを救うために、ゲームを続けていた。

 でも、それも今日で終わりだ。


「…結局、アリサちゃん助けられなかったなぁ〜」


 有紗が持つゲーム機には、涙を流すアリサのイラストが。その下には、吹き出しマークのなかに、「さようなら」と、別れを告げる言葉が。ゲーム内のエンドはハッピーエンド。アリサは魔王封印の生贄に使われ死亡エンド。…これで、全ての会話パターンのルートを回収した。隠しルートが無いか、分岐の会話以外も全てのパターンを考え、全て回収した。…でも。それでも。アリサ・ビリュアーンは、助からなかった。

 涙で、ゲーム画面が霞む。

 

「…ごめんね、アリサちゃん。ごめんね」


 ここは、学校の屋上だった。

 日比野有紗は、今日、飛び降りる。

 アリサが助けられなかったから、なんて馬鹿な理由ではない。…限界だったのだ。

 制限をかけられた生活。

 物を隠されるのが当たり前な学校。

 有紗を縛るだけのルール。

 影で笑われるのを我慢する日々。

 冷たい食事。

 家に帰らない両親。

 大切な人を馬鹿にする家族…。

 比較されて落とされるだけの評価……。

 嫌でも明日が来る恐怖…!!

 勝手に決められた未来!!!!!


 …なんで…、なんで、息をするのか。なんで、生きなくちゃいけないのか、分からなくなっていた。

 天国に行きたいとは思わない。だけど…、お願い。この地獄から、抜け出したい。


 スカートが邪魔だと思いながら、フェンスをよじ登る。

 部活中の運動部の、野太い声が聞こえる。吹奏楽部の、チューニングの音も。

 桜の花が落ちた、5月。

 

 屋上から、一人の少女が消えた。


 残ったのは…、ボタンも押されてないのに、なぜか初期化していたゲーム機だけだ。


――――――――――


 ――ピ…ピ…ピ…ピ…


 ――ザザザザザ……ピー


 2つの機械音が聞こえる。1つは、一定間隔で鳴り響く不快な高い音。もう1つは、ゲーム機が壊れたような砂嵐の音だ。2つは同時に聞こえてくるのに、不思議と、2つを聞き分けることは容易だった。


 ――「…が、…有紗…ん!!有紗さん!!」


 ――「ア…サ…………リュ…ーン!!」


 そこに、声が混じる。

 聞き覚えの無い声で、聞き覚えの無い女性の声。もう一つは、執事の声だ。…でも、おかしい。この執事、カーネルは、私が幼少期に解雇されたはずだった。なぜ、今、私に声をかけているの?

 …あら?少しお待ちになって?

 有紗…。有紗。これは、私の名前?

 ええ、そうね。私は私はアリサ・ビリュアーン。…なのに、なぜ?私は、有紗・日比野…?…日比野有紗?

 誰、日比野有紗って。変な名前。なのに、なぜ?聞き覚えがあるわ。

 私、私は、わたくしは…。


「せん…い、有紗さんが、目を覚ましました!!」

「いつまで寝ているんだ!!!アリサ・ビリュアーン!!!」


 私は、アリサ・ビリュアーン。でも。

 …あら、どうやら、私…。

 日比野有紗として生きた記憶がある、ニホンのコウコウセイになったようですわ?

 



 

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