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第七章 同行者は二度、笑う
第七章 同行者は二度、笑う
井戸の近くで、襲撃が起きた。
影が走る。短剣が光る。
隊商が叫ぶ。
わたしの喉が凍る。
火が落ち着いたあと、闇の向こうから声がした。
現代の、あの整いすぎた声。
「紗良さん。やっと会えた」
サイードが闇から現れた。
服はこの時代のものに変わっているのに、笑い方だけが現代のままだ。
「どうして……」
「君が落ちた瞬間、僕も“つながった”。鈴はね、喪失を餌にするんだよ」
彼は笑う。
その笑いが一度目。
そして続けて言った。
「弟を救いたいんだろ?」
それが二度目の笑い。
人の痛みを“鍵”として扱う笑い。
ラシードが低く言う。
「紗良、あいつの言葉を見るな。言葉は鈴より強い」
わたしは目を逸らした。
けれど耳が聞いてしまう。
「井戸の底に写本がある。欠けた一行を戻せば未来は救える。でもね、同時に——君は戻れる」
サイードは囁く。
「鈴を鳴らせば、弟に会える」
甘い。
砂糖菓子の匂いより甘い。
息を吸うだけで、喉がその甘さで満ちる。




