4/12
第四章 西暦二一五年の市場で、君は星を読む
第四章 西暦二一五年の市場で、君は星を読む
市場は音でできていた。
ラクダの鳴き声。金属が打つ音。香辛料を混ぜる杵の音。笑い声。怒鳴り声。
匂いは層になって、鼻腔を塞ぐ。焼いた肉、汗、土、ミント、甘い蜜。
茶屋に入ると、湯気が目を柔らかくした。
ミント茶が甘い。舌が生き返る。
老女がわたしの鈴を見るなり、低く言った。
「青の鈴を持つ者は、二つの時間を泣かせる」
泣かせる。
弟を泣かせたわたしが、また誰かを泣かせるのか。
ラシードが言う。
「泣かせないために、写本を戻す」
「写本?」
「青の写本。時間の縫い目が書かれている。欠けたままなら、未来が裂ける」
未来。
弟が死んだ未来。
裂けるなら、裂ける前に——という欲望が喉を持ち上げる。
ラシードはわたしの喉元を見た。
「言うな。言葉にしたら、お前は戻るために人を殺す」
冷たい。
でも、当たっている気がして、胸が痛い。
「わたし、弟を……」
言いかけて、飲み込んだ。
代わりに、息を吸う。ミントと煙の匂いが混ざる。
「写本を探す。手伝って」
わたしは言った。
目的を作らないと、欲望が暴れる。
ラシードは頷いた。
「隊商路へ出る。青の写本は、この街に眠っていない」




