第三章 鈴が落ちる音、世界が裂ける音
第三章 鈴が落ちる音、世界が裂ける音
頬が砂に触れた。
ざらり。熱い。
喉に乾いた空気が入り、咳が出る。咳は痛い。生きている。
目を開けると、街が違う。
近代の建物がない。電線がない。
代わりに、低い土壁、木の梁、煙、獣の匂い。
人々の服が粗く、色は土に近い。
手のひらが冷たい。
青い鈴がそこにあった。
表面には星図みたいな線。触れると、溝が指先を削る。
影が落ちる。
青年が立っていた。暗い瞳。腰に短剣。
視線は鋭いのに、怒ってはいない。むしろ、悲しみの形をしている。
「それを、どこで手に入れた」
知らない言葉。なのに意味だけが入ってくる。
怖い。
でも怖さの中に、不思議な安心が混ざる。
“通じる”という安心だ。
「わたしは……落ちて……」
説明ができない。説明したら崩れる。
青年は鈴を見て、息を止めた。
「青の鈴……やはり」
「あなたは誰」
「ラシード。星を読む。——今日は西暦二一五年、五月二十五日だ」
西暦。二一五年。
脳が拒否する。拒否しきれない。
背中が冷たくなる。
弟の顔が浮かぶ。
もし過去なら。もし——。
「戻りたい顔をしてる」
ラシードが言った。
わたしは答えられない。答えた瞬間、欲望が形になるからだ。
彼は視線を逸らし、市場の方を指した。
「ここで立ってると死ぬ。来い」
命令口調なのに、拒めなかった。
彼の背中に、奇妙な“正しさ”がある。
正しさは眩しくて、痛い。




