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第十二章 プリンの甘さで、朝は始まる
第十二章 プリンの甘さで、朝は始まる
コンビニの冷蔵棚。
プリンが並んでいる。
わたしは迷わず一つ取った。
会計をして、スプーンを入れる。
ぷるん、と揺れる。
甘い。
胸の奥が痛い。
でも、その痛みは、前より柔らかい。
窓の外、朝の光が白い。
サマルカンドの青い朝とは違う。
けれど、朝は朝だ。
わたしはノートを開く。
あの日、隅に書いた言葉の下に、今日の言葉を書く。
——もし、鈴が鳴ったら。
——鳴らさない勇気を忘れない。
——戻らない朝を、守る。
スプーンがカップの底に当たり、カン、と小さく鳴った。
それは鈴じゃない。
でも、わたしには十分だった。
朝は戻らない。
だからこそ、選べる。
そして、選んだ痛みは、いつか誰かの朝になる。
わたしは立ち上がる。
プリンの甘さが、喉の奥でまだ残っている。
それが、今日のわたしの“生きている証拠”だった。
——おしまい。




