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第十一章 帰還——展示札に残った一文
第十一章 帰還——展示札に残った一文
帰国の日。
空港の光は冷たい。
けれど、わたしは前より呼吸が深い。
機内でスマホを開く。
弟の連絡先。
消せないままの名前。
でも、今日は消さなくていいと思えた。
着陸の衝撃が身体を揺らす。
日常が戻ってくる。
日常は、弟のいない日常だ。
それでも——戻ってきたのはわたしだ。
荷物を受け取り、出口へ向かう。
人の流れが川みたいに動く。
その中で、わたしは急に立ち止まった。
ポケットの中で、スマホが震えた。
通知。
保存されていなかったはずの音声ファイルが、ひとつ増えている。
タイトル:「姉ちゃんへ」
指が震えて、再生を押した。
雑音の向こう、弟の声。
「姉ちゃん、プリン買ってきてって言ったけどさ——無理ならいい。帰ってきて。ちゃんと寝て。……それだけ」
短い。
泣きそうになる。
でも、泣きながら笑ってしまった。
弟は、わたしが“戻る”ことを望んでいたんじゃない。
“生きて帰る”ことを望んでいた。




