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13 甘い贈り物と、翳る視界


その夜、フィリアは困っていた。


胸の奥に、まだ微かに残るエルヴィンの魔力。


指先で撫でるように、

くすぐるように、

それでいて温かな毛布に包まれるように――


やわらかく、優しく、甘く。


まるでエルヴィン本人がすぐそばで、

フィリアの表情を、じっと観察しながら、

その反応を楽しんでいるみたいで。


翠の気配が、くすりと笑う。


布団を頭まで引き上げ、ぎゅっと目を閉じる。


忘れようとしても、思い出してしまう。


熱を帯びた翠色の瞳。

絡みつく指先。

耳元で落とされた、低く甘い声。


胸がそわそわして落ち着かない。

心臓がうるさいくらいに鳴っている。


「こんなの……眠れるわけないじゃない……!」


布団を跳ねのけ、両手で頬を押さえる。


熱い。


どうしようもなく、熱い。


……もう、どうしよう。


フィリアはその夜、ほとんど眠れなかった。




学院に戻ると、ヴェルナが一番に駆け寄ってきた。


「フィリアァ!」


勢いよく抱きついてきて、


「私を助けてくれて、本当にありがとう……」

「傷を負わせてしまって、ごめんなさい……」

「あの後クラウス先生に呼ばれて……フィリアって『魔力媒介者』なんだって!?」


矢継ぎ早に言葉を吐き出して――


「そういえば――」


ヴェルナが、にやりと笑う。


「エルヴィン様と、ゆっくり時間取れた?」


「あの人、あなたのために病院で一番高い特別室用意して、毎日花持ってって、もうすごかったのよ!」


「今度退院祝いに、王都でお買い物しましょ! 今一番流行りのカフェの予約も取れたんだから!」


感謝と謝罪と、弾むような約束が次々と飛び出してきて、


フィリアは圧倒されながらも、胸の奥がじんわりと温かく満たされていった。



休日。


「今日は、とことん遊び尽くすわよ!」


ヴェルナがキラキラした笑顔で手を引く。


学院に来てから、王都観光なんてほとんどしていなかった。


いつの間にか春が終わり、初夏の陽気が街を包んでいる。


街灯には色とりどりのガーランドが揺れ、

花々が溢れるプランターが街のあちこちを宝石箱みたいに彩っている。


すれ違う人々は笑顔で溢れ、


どこからか流れてくる軽やかな音楽に、心が自然と弾む。


「えぇ、目一杯遊びましょう!」


フィリアもヴェルナの手をぎゅっと握り返した。



「こちら、桃とミルクのご褒美パフェでございます♡」


運ばれてきた瞬間、空気まで甘くなった。


ガラスの器の中で、柔らかな薄桃色が幾重にも重なり、


宝石のように艶めく果肉が光を受けてきらりと微笑む。


ミルクの白と桃の淡いピンクが、やわらかく溶け合う。


スプーンは抵抗なく、するりと沈んだ。


ひとくち。


「……んんっ……! 美味しい……っ」


みずみずしさがじゅわっと舌に広がり、


完熟の甘さが優しく頬を撫でるように溶けていく。


思わず目を閉じて、幸せに浸る。


とろけた顔をしていると、


ヴェルナが嬉しそうに微笑んでいた。


パフェを食べ終え、店内をぶらぶら。


可愛らしいクッキー缶や、絵本型のチョコレート缶に胸がきゅんとときめく。


若い女性客が多いのも頷ける。


「あ、これ……」


見覚えのあるキャンディ。


「大人気!」の表示と「売り切れ」の文字。


そっか……残念。


残念そうにしていると、ヴェルナがやってくる。


「フィリア、いいもの見つけたわね!

これ、人気すぎて手に入らないんだよね。

ここのパフェと同じで、新鮮なフルーツを贅沢に使ってるから、めっちゃ美味しいんだって!」


「一度は食べてみたいなぁ……」


ヴェルナが呟く。


確かに、あの時エルヴィン様がくれたキャンディ……


すごく美味しくって。


頑張ろうって思えた。


こんなに特別なものだったんだ。


いつか、ちゃんとお礼をしなくちゃ。


「次は雑貨屋さん行こう! おすすめの場所があるの!」


ヴェルナが手をぐいぐい引っ張る。


無邪気で、本当に可愛いなぁ。



次に訪れたのは、魔石をあしらったアクセサリー専門店。


「ねぇ、見て見て! これ素敵じゃない?」


小さなうさぎが魔石を抱えたチャーム。


「私これ買ってくるっ!」


ヴェルナが会計に向かう。


店内を眺めていると、ふと自分の指輪に目が留まる。


魔獣討伐の事件で、魔石にヒビが入り、もう魔力を満たせなくなっていた。


魔力共有ができることはわかったけど、


まだずっと身体に留めておけない。


新しい指輪が、必要だよね……。


導かれるように、魔石入りの指輪を眺めていると――


四つ葉のクローバーで、ハートの葉の一つが翡翠色の魔石になっている指輪を見つけた。


エルヴィン様の瞳みたいな色。


なんとなく、気になってしまう。


値札を見る。


買えないわけではないけど……覚悟がいる金額。


指輪の前で逡巡していると、


「これが欲しいの?」


聞き慣れた声。


振り向くと、エルヴィンが立っていた。


「偶然だね」


柔らかく微笑む。


「げっ、春風のストーカーがいる!」


ヴェルナが戻ってきて思わず叫ぶ。


エルヴィンは微笑んだまま、


「今、何か言ったかい?」


――あ、これは怒ってる……。


ヴェルナは気圧されず、さらに突っ込む。


「何が“偶然だね”よ! 誰にも言ってないのに、どうしてここがわかるの!

フィリアに何か仕込んでるんじゃないの?」


ヴェルナはじーっと疑いの眼差しでエルヴィンを見る。


「運命なんじゃないかな?」


はぐらかすエルヴィン。


今まであまり感情を表に出さなかった彼が、

こうしてヴェルナに軽く突っかかられているのが、なんだか新鮮。


「いつの間にかヴェルナと仲良くなったんですね!」


フィリアが嬉しそうに言うと、


二人とも苦々しい顔をしたけど、


二人が仲良くしてくれるのは、素直に嬉しい。


「さて、私たちはまだまだ用事があるの!

休日くらいフィリアと二人きりにさせてよっ!」


ヴェルナがフィリアの手を取って走り出そうとする。


「えっと、エルヴィン様、また学院で!」


エルヴィンは穏やかに手を振っていた。



夕方。


ヴェルナとたっぷり街を楽しんだ後、


寮に戻ろうとすると、背の高い人影が立っていた。


「おかえり、フィリア」


微笑むエルヴィン。


「今度にしようかと思ったんだけど……

どうしても今日、渡したくて」


「手、出して?」


フィリアが素直に差し出した指に、

そっと、あのクローバーの指輪がはめられる。


冷たいはずの金属が、すぐに体温を帯びる。


「!?」


「こんな高いもの、いただけませんっ!」


慌てるフィリアに、


「もうサイズは合わせてあるから、返品は難しいかな」


と、意地悪く微笑む。


この人はもう……。


でも、高価すぎる。


「なら、半分出しますので、いかがでしょう?」


「お金はいらないよ。

でも、一つお願いを聞いてもらえないかな?」


「お願いによっては……ですけど」


手玉に取られないよう、慎重に言葉を選ぶ。


……でも、期待で心臓を鳴らしながら見上げると、

エルヴィンはとびきり優しく、嬉しそうに笑った。


「そしたらこの魔石に、フィリアの魔力を入れて欲しいんだ」


「私には魔力が……」


困ったように言うと、


「僕が入れた魔力を、フィリアは自分の中でフィリアの魔力に変換するんだろう?」


そっと、指を絡める。


「……それを、僕だけに見せてほしい」


「……それくらい、なら」

私も自分の魔力の色を見てみたい。


「じゃあ、注ぐね」


絡めた指先から、熱が流れ込む。


――強い。


思わず、息が詰まる。


前よりもずっと速く、ずっと深く。


身体の奥へ押し寄せてくる。


少しでも満たせる場所がないか探すように。


でも、前と違う。


染み込んでいくような感覚がない。


身体の中でずっと暴れているような。


まるで内側から突き破って出ていきそうな。


胸が苦しい。


頭が、ぐらりと揺れる。


「あれ……?」


視界が滲む。


足元が消える。


音が、遠くなる。


「……も、もう……だめ……」


力が抜ける。


支えを失った身体が、崩れ落ちた。


「フィリア!?」


エルヴィンの腕が咄嗟に伸びた。


霞む意識の中、


何度も、何度も、


名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

眠れないフィリアさんのイメージイラストを置いておきます。

恥ずかしさで寝れない事ありますよね(*´꒳`*)

※AIが作成してくれました。


挿絵(By みてみん)

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