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12.5 好奇心の医師と、ミントの魔力 〜クラウス先生の検証〜(おまけ)

これはおまけ話です。

本編とは少し離れたお話のため、

飛ばしていただいても大丈夫です(*´꒳`*)


研究大好きクラウス先生!

おまけエピソード書いてみました。

薬品の香りがほのかに漂う。

王立学院の医務室は無駄なものが一切なく、整然としていた。


今ではこの場所が気に入っている。

好きな時間に、好きな研究ができる。


研究対象も豊富だ。


こんな素晴らしい環境を用意してくれた殿下には、感謝している。


もっとも――


王宮から魔導学院へ、クラウス殿下の計らいで引き抜かれたときは、正直なところ左遷ではないかと疑っていた。


学院の医務室など、どうせ貧血や軽い怪我ばかりの退屈な職場だろうと思っていたのだ。


しかし、蓋を開けてみればまるで違った。


転属初日。


四属性適性の魔導機をすべて光らせた新入生に、私は目を奪われた。


フィリア・リヴァリエ。


王家ですらほとんど例のない四属性適性。


それだけでも興味深いのに――


彼女は、魔力を自力で生成できない身体だという。


謎は深まるばかりだった。


もっと調べたい。

もっと知りたい。


そんな欲求に駆られていた、ある日。


――ヴェルナがフィリアと魔力共有を行い、魔獣を倒した。

圧倒的な火力で、森を燃やした。


そんな噂が耳に入った。


周囲はヴェルナ・イグナティアの実力を称賛していたが、私はそうは思わなかった。


本当にすごいのは――


おそらくフィリア・リヴァリエの方だ。


後日、ヴェルナ本人から話を聞き、その確信はさらに強まった。


――早く調べたい。


そしてついに、彼女が目覚めたと聞いた。


これは行くしかない。


そう思い、足早に医務室へ向かった。


……保健医とは聞いて呆れる。


目覚めたばかりの彼女の容態が安定していると確認するや否や、私はすぐに検証を始めてしまった。


普通なら「身体を休めなさい」と労わるところだろう。


しかしそんなことより、興味が勝った。


「今から私の魔力を送る。

なるべく体に貯めるイメージを持ちなさい」


そう言って、彼女へ魔力を流し始める。


まずはごく少量。


するりと抵抗なく魔力が入っていく。


身体にも異変はない。


では、もう少し。


量を増やして流してみる。


それでも問題なく受け止めている。


……こんなに受け止められるものなのか?


その時、ある仮説が浮かんだ。


……いや。


受け止めているのではなく、

身体から流しているのではないか?


「失礼」


確かめなければならない。


フィリアが恥ずかしそうな声を上げる。


しかし、それどころではない。


腹部に手を当て、魔力壺の状態を探る。


医師として冷静な指先が、服越しにフィリアの柔らかな腹部をなぞる。


その温度差にフィリアが小さく肩を震わせるが、

当の本人は全く気づきもせず、

数式を解くような冷徹な瞳で彼女の体内の魔力の流れを見つめていた。


ふむ。入れた分は、確かに内部に蓄えられている。


だが――


少しずつ漏れ出している。


……なるほど。


興味はさらに深まる。


次は、ヴェルナから聞いていた件だ。


「私はフィリアに抱きついただけで、魔力なんて送ってない。

でも……吸われるような感覚はあったかもしれない」


そう彼女は言っていた。


「では次だ。

こちらからの魔力供給を止める」


私は彼女の手を握ったまま言う。


「繋いだ手から、魔力を吸い上げてみなさい」


すると。


身体から魔力が引き抜かれる感覚がした。


彼女は慎重だった。


少し吸っては止まり、こちらの様子をうかがう。


私は魔力を手元に寄せて「大丈夫だ」と示す。


すると、少しだけ強く吸い上げてきた。


……これは面白い。


そして、最後の検証だ。


「では今度は、自分の中に溜まっている魔力を流す感覚で」


これまで水属性の魔力共有は何度も経験している。


冷たいものから、ぬるいものまで様々だが――


結局は、水が流れ込んでくるだけの単調な感覚だ。


病院の点滴と大差ない。


しかし。


四属性適性の彼女なら、何か違うのではないか。


期待で胸が高鳴る。


やがて、彼女から魔力が流れ始めた。


暖かい。


おずおずと、遠慮がちに。


まるで「入ってもいいのか」と戸惑っているように、ゆっくり居場所を探している。


その様子が、どこか彼女自身と重なって思わず笑いそうになった。


その時。


すっと爽やかな香りがした。


……これは。


ミント?


……魔力の味か?


彼女の中に残っている私の魔力と、

今流れてきている魔力は明らかに違う。


それなのに。


まるで昔から知っていたかのように、すぐに馴染んでいく。


とても興味深い。


ふとフィリアを見る。


顔を真っ赤にして、小刻みに震えていた。


……限界か。


私はすっと手を離した。


彼女は安堵したように、深く息を吸う。


……少しやり過ぎたかもしれない。


そして確認した。


彼女が放った魔法には――


彼女自身の魔力の痕跡しか残っていなかった。


……なぜか、少し残念に思う。


目の前で、水色の瞳を輝かせながら嬉しそうに笑うフィリア。


その危うい身体を、今後誰が守るのだろうか。


……少しは自分で守れるようにした方がいいかもしれない。


……彼女は、あまりにも無防備すぎる。


「落ち着いた時に、魔力を貯める練習をしよう」


私にできることはしてやろう。


何も知らず研究に協力してくれた彼女に、

少しくらいは返さなければならない。


「では、また学院で」


クラウスは静かに病室を後にした。



「で、クラウス。彼女の魔力について何かわかった?」


レオニス殿下が楽しそうに尋ねてくる。


「そうですね。

流す、吸い取る、変換して送る。

どれを取っても素晴らしかったです」


少し考え、私は言った。


「名付けるなら――“魔力媒介者”でしょうか」


「魔力媒介者かぁ……いいね」


レオニスは嬉しそうに笑う。


「それ、国宝級じゃない?」


「ええ。研究価値は計り知れません」


「他には?」


少し考える。


「そうですね……」


私は思い出した。


「ミントの味がしました」


「ミント?」


レオニスが目を丸くする。


「魔力に味があるの?」


「ええ。私も驚きました」


「それは面白いね!」


レオニスは楽しそうに笑った。


「味わってみたいなぁ」


そして突然、何かを思い出したように机へ向かう。


「あ、そうだ!この間閃いた光魔法があってさ!」


紙を広げ、魔法陣を描き始める。


「実現するための数式、一緒に考えてよ」


「いいですね」


クラウスはすぐ隣に立つ。


「光の屈折を利用しましょう」


二人は並んで、新しい魔法の研究に没頭するのだった。


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