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01 四属性の光と、魔力ゼロの私

静まり返った医務室に、時計の針の音だけが規則正しく響いていた。


白衣の男は、検査結果の羊皮紙からゆっくりと視線を上げる。


淡い青の髪が、窓から差し込む光を受けて静かに揺れていた。


レンズ越しの瞳は、感情を映さない。

ただ、冷たく澄んでいる。


王宮から派遣された保健医だと聞いている。

その診断は、絶対だと。


その声は、どこまでも静かで、淡々としていた。


「……貴方の魔力壺には、魔力が確認できません」


一拍。


彼は言葉を選ぶように、わずかに息を整える。


「魔力は、自身で生成されていない状態です」


そして、結論だけを告げる。


「つまり——魔力は、ゼロです」


世界が、静まり返った。


魔力が、ゼロ。


それは、この学院において。

魔法使いになるために入学した私にとって。


――致命的な宣告だった。


喉が震える。

けれど、声は出ない。


彼はただ、事実を告げただけだ。


(……ゼロ、か)


残酷なのは、現実の方だった。



「――本当に、夢みたい……」

フィリアは思わず呟いた。


片田舎育ちの自分が、今こうして王立魔導学院の門をくぐっている。


白亜の大理石の校舎に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が頰を撫で、磨き上げられた床に自分の姿がぼんやり映った。


歩くたびにコツコツと響く足音が、高く広い空間にこだまし、どこか遠くまで届いていく。


天井から吊るされた灯りは、繊細な彫刻の隙間から柔らかな光を零し、微かに蝋燭のような甘い香りが漂っていた。


さすが王立魔導学院……。


何もかもが圧倒的で、私はただ立ち尽くすしかなかった。


周囲には、仕立ての良い制服を身にまとった貴族の子息令嬢たち。


同じ制服とはいえ、装飾品もなく質素な雰囲気の私は、なんだか場違いに感じてしまう。


それでも――ここは、私の夢の場所だ。


深く息を吸い、入学式会場へと足を急がせた。



壇上では学院長の長い挨拶が終わるところだった。


「――以上。君たちには期待しておる」


拍手が広がる。


続いて、指導教官が前へ出た。


「これより、属性検査を開始いたします。名前を呼ばれた生徒は、魔導機の前へ」


ざわり、と空気が揺れる。


最初に呼ばれたのは――


「エルヴィン・アステリア」


その名が響いた瞬間、会場の空気がわずかに変わった。


銀の髪が、魔導灯の光を受けて淡く揺れる。

若葉を透かした春光の様な翡翠の瞳。

長身の体躯は無駄がなく、それでいてどこか柔らかな雰囲気を纏っていた。


彼が壇上に上がり、魔導機へ静かに手を伸ばす。


次の瞬間、中央の魔石が強く脈打った。


鮮やかな緑光が、ふわりと会場を包み込む。

強烈というよりは、澄んだ春風のような魔力。

重さはなく、ただ確かな存在感だけが残る。


「風属性……やはりか」

「さすがアステリア公爵家だ」


抑えた声があちこちから漏れる。


四大公爵家のうちの風の公爵家。その嫡男。

同学年で最も魔力量が高いと噂される人物。


周囲の視線が自然と彼に集まる。

憧れを含んだ眼差し。けれど、誰も不用意には近づかない。


“春風の君”。


そう呼ばれていることは、入学前から聞いていた。


誰にでも穏やかに微笑むが、特定の誰かの隣に立つことはない。

距離を詰めようとすれば、やわらかく、しかし確実に一歩分だけ遠ざかる――そんな人だと。


なるほど、と思う。


すごい人が同じ学年にいるものだ。


ただ、それだけだ。

きっと関わることなどないだろう。


私は静かに視線を外し、自分の番を待った。



そして――


「フィリア・リヴァリエ」


胸が、どくんと跳ねた。


ついに、私の番だ。


名が呼ばれた瞬間、わずかな間が落ちる。

貴族名鑑に載らない姓だと、誰もが察したのだろう。


幾つもの視線が集まる。

好奇と、わずかな値踏み。


大丈夫。


きっと、何か一つくらいはある。


そう信じて、私は魔導機にそっと触れた。


――次の瞬間。


光が、弾けた。


「なっ……!?」


教官の声が裏返る。


視界が白く染まり――


その奥で、色が奔った。


燃え上がる赤。

波打つ青。

包み込む緑。

鋭く閃く黄。


四つの属性石が、同時に輝く。


否。

ただ同時なのではない。


呼応し、絡み合い、引き寄せ合いながら、

中央で渦を成す。


溢れ出す魔力。

制御を失った奔流――かと思えば、どこかで均衡を保っている。


柔らかく、けれど圧倒的な光。


「四属性適性だと……そんな、前例は――」


どよめきが会場を走る。


ざわめきが波のように広がり、息をのむ音があちこちから聞こえる。


私自身が、一番驚いていた。


四属性?


そんなこと、あり得るの?


私は光の中心に立ち尽くしてた。


怖い――はずなのに。


胸の奥から込み上げるのは、不安よりも先に、

どうしようもない高揚だった。


そのとき。


窓際から、ひとつの視線が静かに向けられていた。


エルヴィン・アステリア。


銀の髪が光を透かす。

翡翠の瞳が、わずかに細められる。


四色の輝きに照らされ、少女の髪が淡く揺れた。

質素な制服の袖を握りしめる、細い指先。


震える肩。


それでも、その灰青の瞳には恐れはない。

ただ、まっすぐな光。


春風に揺れる花のように、儚く。

それでいて、折れない芯を秘めている。


(……四属性?

この子が?)


胸の奥に、小さな波紋が落ちる。


誰にでも等しく微笑む“春風の君”が――


ほんの一瞬。


彼女から目を逸らすことを忘れていた。


第一話を読んでいただき、ありがとうございます。

初めて小説を書きました。

もし、よろしければ、評価やブクマをしていただけると励みになります。よろしくお願いします。


『魔力ゼロの私ですが、

独占欲強めの公爵様に溺愛されています』

のカバーイラスト風。初小説記念!

※AIが画像制作してくれました。

※画像はフィリアとエルヴィンのイメージです

挿絵(By みてみん)


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