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第85話 魂の色彩と面接

挿絵(By みてみん)


 季節は流れ、夏が終わり、秋も終わり、そして冬が訪れていた。港区の白亜の洋館から、かつて私立小学校だった場所へと、ヒール屋の本拠地は移り、そこは今、世界中が最も注目する「聖域」へと生まれ変わろうとしていた。


 その、重厚な扉の向こう側には、これからこの国の、ひいては世界の運命を左右するであろう三人の審判が座していた。

 中央には理事長の源田壮一郎。その隣には、お気に入りのツナマヨおにぎりを丁寧に並べたヒミコ校長。そして少し離れた位置で、サングラスをずらし、入室してくる候補者の「色」を待ち構えるレイナ。

 源田は完璧に仕立てられたスーツに身を包み、手元の経歴書をじっと見つめている。彼に眼鏡はない。剥き出しの鋭い眼光が、候補者の言葉の裏側に隠された本質を射抜こうとしていた。


 コンコン、と控えめなノックの後に、一人の少年が入室してきた。


 前日の測定で魔力値120を叩き出した、有名進学校の神童だ。彼は背筋を伸ばし、淀みのない口調で語り始めた。


「私は、この素晴らしい魔法の力を産業利用し、日本の国力を再び世界一に引き上げたいと考えています。それが国民への最大の貢献だと信じております」


 完璧な回答。しかし、源田の表情は動かない。源田は無意識に、自身の右膝をトントンと軽く叩き始めた。彼が相手の魂を法廷さながらに査定し、重大な決断を下す時の癖だ。


「……君が言っているのは『貢献』ではなく、利権の独占による自己顕示欲の充足だな? 魔法という圧倒的な暴力を手に入れ、他者を見下すための免罪符が欲しいだけだ。計算が甘い」


 源田の冷徹な言葉に、少年の顔が一瞬だけ醜く歪んだ。

 その瞬間、横で見ていたレイナが鼻を鳴らした。


「あーあ。今、色が『どろりとした黄色』に濁っちゃったわよ。不合格。あんたに魔法を持たせたら、真っ先に気に食わない誰かを傷つけるわね」


 少年は反論しようとしたが、源田の射抜くような視線に言葉を失い、逃げるように部屋を後にした。


 次に入室してきたのは、30代の冴えない男性、佐藤だった。

 魔力値1200という怪物級の数値を記録しながら、彼はあまりの緊張にガタガタと震え、椅子に座るのすらおぼつかない様子だった。

 しかし、彼を見た瞬間、レイナが小さく息を呑んだ。


「……嘘。この人、こんなに怯えてるのに、魂の芯がどこまでも『澄んだ水色』をしてる。打算が欠片もないわ」


 源田が口を開くより先に、隣でツナマヨを頬張っていたヒミコが、おにぎりをゴクリと飲み込んで佐藤を見つめた。


「佐藤さん。お掃除して、魔法が使えるようになったら、誰におにぎり握ってあげたい?」


 一見、場違いな質問。しかし、佐藤は震える声で、真っ直ぐに答えた。


「……毎日、スーパーのレジで腰を痛そうにしてるお婆ちゃんがいて。……その人に、おにぎりにぎってあげたいです。魔法で少しでも楽にしてあげて、一緒に食べて、笑ってくれたらいいなって……」


 源田は右膝を叩く手を止め、フッと口角を上げた。


「合格だ。一万円を持って、春に来い」


 その後も面接は続き、アメリカ特別枠である8歳のアリスや、クライ国から来た少年ニコラといった特別枠に加え、ヒミコの直感とレイナの色、そして源田の論理的な圧迫面接を突破した精鋭たちが次々と決まっていった。

 合格者は全部で30名。そのうち八割は、新しい時代を担う10代の若者たちだ。残りの二割は、佐藤のような変な大人たち。


 面接がすべて終わり、学院の窓からは冬の訪れを告げる、冷たくも澄んだ夕陽が差し込んでいた。


「……さて、世界で最も厄介な30人が揃ったな。ヒミコ、準備はいいか」


「ん。みんなでお掃除、がんばる。春になったら、お庭でおにぎり食べようね」


 掲示板に貼り出された30名の名前。


春からは、世界で最も過酷で、最も平和な授業の始まりだ。


挿絵(By みてみん)



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