第53話 【速報】連邦国の1個師団を一億二千万でお買い上げw
装甲バスが泥濘を抜け、舗装された幹線道路へと入った頃。
助手席に座る源田のスマートフォンは、先ほどから通知の嵐でバイブレーションが鳴り止まない状態になっていた。
「……ゲンさん、もしかしてまた何かやらかしました?」
「俺じゃない。世界が勝手に騒いでるだけだ」
運転席の三上の問いに、源田は呆れたように息を吐きながら画面をスクロールする。
昨日の「投降の行列」を映した動画は、同行していた難民や、あるいは降伏した兵士たち自身のスマートフォンから瞬く間に全世界へと拡散されていた。
もはや一国の情報統制などで止められる次元ではない。
世界最大のSNS『X』のトレンドは、完全に一つの話題で埋め尽くされていた。
【世界トレンドランキング】
1位:ヒール屋
2位:ツナマヨ
3位:一万円の奇跡
4位:連邦軍解体
5位:市ヶ谷有能
6位:数取器の男
7位:お掃除完了
8位:グロモフ涙目
「……ツナマヨが2位ってどういうことだ」
「あ、ヒミコちゃん、昨日ずっとツナマヨおにぎり食べてましたからね」
「あの状況で食欲落ちないのは大したもんだが……」
源田は後部座席を一瞥した。
当のヒミコは、数千人の兵士を浄化し終えた疲労からか、毛布にくるまってスヤスヤと眠っている。
その平和すぎる寝顔が、今この瞬間、世界の軍事バランスを完全に崩壊させた張本人だとは誰も信じないだろう。
源田はブラウザを開き、日本で最も巨大な匿名掲示板へとアクセスした。
そこはもう、お祭り騒ぎを通り越して歴史の転換点を目撃した狂乱の渦の中にあった。
◇
【速報】日本の民間医療業者(?)、連邦国の1個師団を一億二千万でお買い上げwwwww
1:名無しさん@お掃除済み: ID:aBcDeFgH
おいお前ら、今のクライ国前線のライブ映像見たか!?
連邦軍の主力部隊が、全員白旗上げて並んでるぞwww
2:名無しさん@お掃除済み: ID:iJkLmNoP
見たwww
マジで地平線の果てまで白旗の行列できてるの草生える
コミケの待機列より綺麗に整列しててワロタ
3:名無しさん@お掃除済み: ID:qRsTuVwX
ていうかあれ、降伏っていうか「診察待ち」だろwww
先頭のやつ、手にお札握りしめて「俺を洗ってくれ!」って泣き叫んでたぞ
4:名無しさん@お掃除済み: ID:yZaBcDeF
一万円で洗脳解除+古傷完治だろ?
そりゃ並ぶわ。俺だってハゲ治るなら一万円払うわ。
5:名無しさん@お掃除済み: ID:gHiJkLmN
>>4
お前の頭頂部は洗脳じゃなくて寿命だ、諦めろ
6:名無しさん@お掃除済み: ID:oPqRsTuV
それにしてもヒミコ様かわいすぎんか?
目の前に重武装の敵兵が何千人もいるのに、片手でツナマヨおにぎりもぐもぐしながら「お掃除」って。
神様かなにか?
7:名無しさん@お掃除済み: ID:wXyZaBcD
神様っていうか、隣にいるスーツの男が完全に悪徳商人ww
拡声器で「金のない客は相手にせん!」って怒鳴り散らしててクソ笑った
あの状況でボランティア拒否するメンタル鋼すぎるだろ
8:名無しさん@お掃除済み: ID:eFgHiJkL
>>7
あれがヒール屋の店主(マネージャー?)らしいぞ
名前は源田っていうらしい。元弁護士だとかいう噂。
9:名無しさん@お掃除済み: ID:mNoPqRsT
てか、途中から日本政府が金出したの熱すぎないか?
電話のスピーカーから市ヶ谷総理の声聞こえたよな?
10:名無しさん@お掃除済み: ID:uVwXyZaB
市ヶ谷総理「全額日本政府が代位弁済する!」
源田「単価一万円。いいな?」
総理「決済する!」
このスピード感よwww外交交渉を八百屋のノリでやんなwww
11:名無しさん@お掃除済み: ID:cDeFgHiJ
でも冷静に考えたら、市ヶ谷総理クソ有能じゃね?
一人一万円ってことは、1万2000人浄化しても1億2000万だぞ。
最新鋭の戦闘機1機の値段が100億円以上する現代で、たった1億ちょいで敵の主力軍隊を一つ物理的に消滅させて、しかも「平和をもたらした国」として世界中から賞賛されてるんだぞ。
12:名無しさん@お掃除済み: ID:kLmNoPqR
>>11
たしかに。
ミサイル一発撃つより安く戦争終わらせてて草。
コスパ最強の国防費www
13:名無しさん@お掃除済み: ID:sTuVwXyZ
動画の後半、ヒミコ様が光放つたびに源田が横で交通量調査のカウンターみたいなの「カチッ、はい一万円。カチッ、はい次一万円」ってやってるのシュールすぎて腹痛いwww
お前ら、あれが歴史上初めて金銭取引で軍隊が崩壊した瞬間の音だぞwww
14:名無しさん@お掃除済み: ID:aBcDeFgH
カチカチ音で連邦軍が溶けていくwww
15:名無しさん@お掃除済み: ID:iJkLmNoP
海外の反応サイト見てきたけど、向こうの連中も完全にドン引き通り越して大熱狂してるぞ。
ちょっと翻訳貼るわ。
『Oh my god... 日本の魔法少女はおにぎりを燃料にして軍隊を無効化するのか?』
『あの黒スーツの男のビジネスセンスはクレイジーだ。ノーベル平和賞と経済学賞を同時に与えるべき』
『私の国籍を日本に変更してくれ。彼女に一万円払って腰痛を治したい』
『グロモフ大統領の核兵器より、HimikoのTuna-Mayoの方が脅威だ』
16:名無しさん@お掃除済み: ID:qRsTuVwX
Tuna-Mayoの脅威www
17:名無しさん@お掃除済み: ID:yZaBcDeF
おい、連邦国の国営放送ヤバいぞ。
さっきからグロモフ大統領が「あれは集団洗脳だ!CGだ!信じるな!」って顔真っ赤にして演説してるけど、国民の誰も聞いてないっぽい。
18:名無しさん@お掃除済み: ID:gHiJkLmN
そりゃそうだろ。
浄化された連邦兵たちが、武器捨ててニコニコしながら自国に歩いて帰ってきてるんだぜ?
連邦国のSNS、今「帰還兵」の話題で持ちきりらしい。
19:名無しさん@お掃除済み: ID:oPqRsTuV
連邦国SNSの翻訳
『兄が前線から帰ってきた。今までずっと「祖国のために死ぬ」って血走った目をしてたのに、今は庭で花壇の手入れをしてる。日本の聖女に一万円で治してもらったらしい。泣いてる』
『うちの旦那も帰ってきた!足の切断傷まで治ってる!ありがとうヒール屋!』
『大統領は嘘つきだ!本当の平和は一万円で買えるんじゃないか!』
20:名無しさん@お掃除済み: ID:wXyZaBcD
これもう革命だろ。
武力じゃなくて、奇跡と一万円札による革命。
21:名無しさん@お掃除済み: ID:eFgHiJkL
グロモフ、ネット遮断しようとしたらしいけど、前線の兵士たちが自前のパラボラアンテナで日本の動画拡散しまくってて物理的に不可能になってるらしいぞ。
もう軍隊として指揮系統が完全に崩壊してる。
22:名無しさん@お掃除済み: ID:mNoPqRsT
【悲報】連邦軍第4機甲師団、ヒール屋の行列に並ぶために進軍ルートを変更
23:名無しさん@お掃除済み: ID:uVwXyZaB
>>22
ダメだ腹痛いwwww
戦車に乗って診察券もらいにいくなwww
24:名無しさん@お掃除済み: ID:cDeFgHiJ
ゲンさん「本日は予約で一杯だ!帰れ!」
第4機甲師団「そんなあ!」
25:名無しさん@お掃除済み: ID:kLmNoPqR
もうこれ、戦争終結どころか世界のパワーバランスそのものが変わるぞ。
アメリカも共和国も、ヒール屋をどう扱うかで深夜に緊急首脳会談やってるってニュースで言ってた。
26:名無しさん@お掃除済み: ID:sTuVwXyZ
もし俺が他国の大統領なら、国家予算の半分差し出してでもあのヒミコちゃんを自国に招き入れるわ。
どんな最先端医療よりも確実で、どんな兵器よりも強いんだから。
27:名無しさん@お掃除済み: ID:aBcDeFgH
でもヒミコ様、たぶん「おにぎり以外いらない」とか言ってオファー蹴りそう。
28:名無しさん@お掃除済み: ID:iJkLmNoP
そして横からゲンさんが「国家予算? じゃあ特別出張費として三割増しだ」ってふっかける図しか見えないww
29:名無しさん@お掃除済み: ID:qRsTuVwX
お前ら、ここで市ヶ谷総理の昨日の緊急会見の動画見てみろ。
めちゃくちゃドヤ顔だぞ。
30:名無しさん@お掃除済み: ID:yZaBcDeF
市ヶ谷総理「我が国発の民間医療サービスが、国際平和に多大な貢献をしたことを誇りに思います(ドヤァ)」
これ絶対、歴史の教科書に載るやつだわ。
31:名無しさん@お掃除済み: ID:gHiJkLmN
日本の民間医療サービス(一万円・おにぎり付き・領収書発行可)
32:名無しさん@お掃除済み: ID:oPqRsTuV
グロモフ「ぐぬぬ……!」
市ヶ谷「ドヤァ」
ゲンさん「カチッ、はい一万円」
ヒミコ「もぐもぐ」
これが今の世界情勢のすべてである。
◇
「……ひどい言われようだな」
源田はブラウザを閉じると、小さく鼻で笑った。
ネットの住民たちは面白おかしく騒いでいるが、事の本質は彼らが言っている通りだ。
一国の軍隊が、魔法と経済の前に屈した。
武力で人を縛る時代は、昨日あの泥濘んだ街道で終わったのだ。
グロモフ大統領は今頃、首都の宮殿で発狂しているだろう。
自慢の兵士たちは戦意を喪失し、国民は「一万円の奇跡」を求めて暴動寸前だという。
もはや連邦国という巨大な軍事国家は、内側から瓦解するのを待つだけの泥舟となっていた。
「ん……」
後部座席で、毛布の山がもぞもぞと動いた。
白い髪を寝癖で跳ねさせながら、ヒミコが目をこすって起き上がる。
「おはよう、ヒミコ。よく眠れた?」
レイナが優しく声をかけると、ヒミコはぽけっとした顔で頷き、そして源田の方を見た。
「……ゲンさん」
「なんだ。まだ腹が減ってるのか?」
「……お腹すいた。ツナマヨ、たべたい」
世界をひっくり返した最強の少女は、政治も軍事もどこ吹く風で、ただ己の食欲だけを主張した。あれだけの数をこなしても、まだおにぎりを要求しているのだ。
そのあまりのブレなさに、運転席の三上も、レイナも、剣崎も、思わず吹き出してしまう。
「……わかったよ。とびきり美味いおにぎりを食わせてやる」
源田はスマートフォンをポケットにしまい、口角を吊り上げた。
「なんせ今の俺たちには、国家予算クラスのスポンサーがついてるからな。次に行く街で、一番高い米と具材を買い占めるぞ」
装甲バスは、朝陽に照らされた道を力強く進んでいく。
世界中が熱狂し、各国首脳が彼らとの接触を巡って暗躍を始める中、ヒール屋の一同はただ「美味いおにぎり」を求めて、戦場の跡地を走り抜けていった。
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