第46話 拡散される奇跡
政府専用機が、ミサイルの爆煙を抜けて悠然と飛行を続ける頃。
地上では、別の爆発が起きていた。
情報という名の、核爆発だ。
市ヶ谷総理の指示により、政府専用機に搭載されたカメラが捉えた「ミサイル迎撃映像」が、全世界にリークされたのだ。
さらに、前日に洋館前で捕獲された連邦国工作員たちの尋問映像(モザイク無し)も、同時にネットの海へと放流されていた。
◇
日本最大級の匿名掲示板群「Dチャンネル」。
そのサーバーは、かつてないアクセス数によって悲鳴を上げていた。
【悲報】連邦国の最新鋭極超音速ミサイル、一万円のバリアに敗北wwwww
1 :名無しさん@お掃除中:ID:HimikoKAWAII
動画見たか?
物理法則が死んでて草
あんなんどうやって防ぐんだよwww
2 :名無しさん@お掃除中:ID:BeamMan
>>1
真壁さんの『絶対防御』だろ
ミサイルが豆腐みたいに砕けててワロタ
連邦国の技術力(笑)
3 :名無しさん@お掃除中:ID:GendaNoSaifu
これもう核シェルターより安全だろ
一万円で国民守れるなら防衛費いらなくね?
45 :名無しさん@お掃除中:ID:SpyHunter
それより昨日のデモの工作員特定祭りが熱いぞ
リーダー格の男、SNS掘られた結果、連邦国の高級車乗り回してる写真が出てきたwww
「日本の貧困を憂う市民」の設定どこいったwwww
46 :名無しさん@お掃除中:ID:CleanUp
>>45
特定班仕事早すぎwww
こいつらの資金源、連邦国のフロント企業じゃねーか
完全に内政干渉で草
108 :名無しさん@お掃除中:ID:Omochi
連邦国大統領グロモフ涙目www
ミサイルは効かないし、工作員はバレるし、世界中に恥さらしてて草
もう「お掃除」されるしかないねぇ
◇
連邦国首都、クレムリノ大宮殿の地下指令室。
そこでは、インターネットという「制御不能の兵器」がもたらした被害報告が行われていた。
「……閣下。世界中のSNSで、我が軍の威信が失墜しております」
側近が震える手でタブレットを差し出した。
そこに映っていたのは、グロモフ大統領の顔写真を使った大量のミーム画像だった。
ミサイルがヒミコのおにぎりに弾き返される画像。
『一万円に負けた男』という屈辱的なキャプション。
そして、工作員たちの無様な連行シーンに合わせて流れる、軽快なBGM動画。
「き、貴様ッ……! こんなふざけたものを私に見せるな!」
グロモフは激昂し、タブレットを床に叩きつけた。
バキリ、と画面が砕ける。だが、一度拡散したデータは消えない。
「我が連邦国の『恐怖』による統治が、日本のネット民の玩具にされているだと……!」
軍事力による威圧は、相手が恐怖して初めて成立する。
だが今、世界は連邦国を恐れるどころか、「物理法則も通じない相手に喧嘩を売ったピエロ」として笑っているのだ。
それは独裁者にとって、ミサイルを撃墜される以上の致命傷だった。
「おのれ……おのれヒミコ! 源田! ただでは済さんぞ……ッ!」
◇
一方、成層圏を飛ぶ政府専用機の中。
三上翔はスマホの画面をスクロールしながら、興奮を抑えきれずにいた。
「すごい……すごいです! 真壁さん、見てください! Dチャで『物理キャンセラー真壁』とか『最強の盾おば……お姉さん』とか呼ばれて大人気ですよ!」
「……おばさんと言いかけたな?」
真壁は三上の脛を軽く蹴りつつ、赤面して顔を背けた。
元刑事として、ネットのおもちゃにされるのは不本意極まりない。だが、昨日のデモ隊に混じっていた工作員たちが、ネット民の特定班によって過去の悪事まで暴かれ、社会的に「お掃除」されている状況には、ある種の爽快感も感じていた。
「法で裁けない悪を、白日の下に晒す。……現代の捜査とは、こういう形なのかもしれないな」
「いや、単にみんな面白がってるだけですよ」
三上が笑う。
そんな二人を尻目に、源田は電卓を弾いていた。
「ネットの反応などどうでもいい。重要なのは、この騒ぎで聖女教の『一万円』のブランド価値が爆上がりしたことだ」
「えっ、そっちですか?」
「当たり前だ。世界中の軍事専門家が、一万円で核兵器すら防げる可能性に気づいた。次のクライ国での商談、そして戦後の外交カードとして、うちは最強の手札を手に入れたんだ」
源田はニヤリと笑った。
ミサイル攻撃さえも、彼にとっては巨大な広告宣伝費(無料)に過ぎないのだ。
◇
『……当機はまもなく、クライ国領空へ入ります』
機長のアナウンスが流れた。
ヒミコが、ふと顔を上げる。
窓の外。眼下に広がる雲の切れ間から、大地が見え始めた。
そこには、Dチャンネルの喧騒も、グロモフの怒りも関係ない、冷厳たる現実があった。
「……煤だらけ」
ヒミコが窓ガラスに手を当てる。
美しいはずの田園地帯には無数のクレーターが穿たれ、黒い煙が幾筋も立ち上っていた。
人の悲鳴。火薬の匂い。絶望の色。
それらが、高度一万メートルのヒミコにも伝わってくる。
「……お待たせ」
ヒミコは、食べかけのおにぎりを置き、小さく、しかし力強く呟いた。
「お掃除、するよ」
ネットのおふざけはここまでだ。
ここから先は、命のやり取りしかない「戦場」という名の巨大な汚れが待っている。
政府専用機は翼を傾け、黒煙のたなびく大地へと降下を開始した。
少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と感じていただけたら、下の【★★★★★】と【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、執筆速度が爆上がりします。
何卒、よろしくお願いいたします!




