表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/66

第35話 聖女の守護者①

挿絵(By みてみん)


 午前零時。

 日付が変わった瞬間、源田壮一郎はタブレットの「投稿」ボタンをタップした。


 『聖女教』の公式サイト、および公式SNSアカウント。

 世界中が注目するそのページに、新たな告知が掲載された。


『聖女教・守護騎士団ガーディアン公募のお知らせ』


 一見すれば、よくある宗教団体の信者募集に見えるかもしれない。

 だが、その中身は現代社会の常識を、物理法則ごと粉砕するものだった。


『聖女ヒミコの守護、および聖域の管理を行う者を募集する。

 採用者には、報酬として以下の権利を与える』


『お布施一万円と引き換えに、聖女様による「魔法」の付与を行う』


 その一行の下には、さらに信じがたい但し書きが続いていた。


 ※付与される魔法は、本人の素質に応じた独自の能力スキルが発現する。

 ※ただし、審査は厳正に行う。適正なき者、悪意ある者には与えない。


「……さて。世界はどう動くかな」


 源田はニヤリと笑い、ウィスキーを煽った。

 現代に蘇った魔法使い。その販売価格、一万円。

 安すぎる? いや、この「安さ」こそが、狂乱の火種になるのだ。


          ◇


 反応は、爆発的だった。

 投稿から数分もしないうちに、X(旧Twitter)のトレンドは聖女教一色に染まった。


 #聖女教騎士団

 #魔法付与

 #一万円で魔法使い

 #能力ガチャ


 世界トレンドの1位から10位までを、この関連ワードが独占した。

 ネット民たちは、これまで聖女教が見せてきた「異常な現象」を思い出し、興奮を爆発させていた。


「あのケンザキがやってた瞬間移動、あれ魔法だったのか!」


「サングラスの少女レイナが嘘を見抜いたり自白させたりするのも、精神操作魔法確定じゃん」


「一万円であのチート能力が手に入るなら、全財産つぎ込むわ」


 そう。彼らは既に目撃している。

 剣崎が銃弾より速く移動する「転移魔法」のような神速を。

 レイナが他者の心を読み、時に操るかのような「精神操作魔法」の恐ろしさを。

 それが「素質があれば手に入る」と示唆されたのだ。


 日本のネット文化の最深部、巨大匿名掲示板もまた、阿鼻叫喚の嵐となっていた。


【速報】聖女教、一万円で魔法(能力ガチャ)を売り始める。


1 :名無しさん@聖女教:

 源田さん、ついに現代の法則を壊しにきたな。

 魔法付与とか、これ半分異世界転移だろ。


15 :名無しさん@港区:

 おい、募集要項見たか?「素質に応じた独自の魔法」だってよ。

 つまり、剣崎みたいな「転移魔法」とか、レイナみたいな「精神操作」が当たる可能性もあるってことか?


22 :名無しさん@ガチャ爆死:

 剣崎のあれ、魔法だったんか……。

 一万円でSSRの転移スキル引けたら、通勤ラッシュとおさらばできるじゃねーか!

 これもう全人類並ぶわ。


35 :名無しさん@軍事評論家:

 【重要】素質依存ってことは、スパイや軍人が最強魔法手に入れたら終わるんじゃね?

 レイナの精神操作系とか、政治家に使われたら国が乗っ取られるぞ。


58 :名無しさん@諜報機関:

 隣国の総書記が今ごろ血眼で工作員送り込んでるぞ、これ。

 見えない兵士、テレポートする暗殺者……国家予算積んでも欲しい戦力だ。


77 :名無しさん@懐疑派:

 でも審査あるんだろ?

 レイナって子が面接官なら、嘘ついた瞬間に精神操作されて「私はスパイです」って自白させられる未来しか見えない。


102 :名無しさん@社畜:

 俺、火の魔法が出たら会社燃やしてくるわ。

 >>102

 聖女様に速攻で「汚い」って言われてお掃除(物理)されるぞ。


          ◇


 夜明け前。

 港区の洋館周辺は、異様な熱気に包まれていた。


 始発も動いていない時間だというのに、既に数千、いや数万の群衆が洋館を取り囲んでいる。

 一万円札を握りしめた若者。

 迷彩服を着た屈強な外国人グループ。

 履歴書を抱えた就活生。

 そして「ヒミコ様親衛隊」と書かれた法被を着たオタクたち。


 警視庁の機動隊が緊急出動し、バリケードを築いているが、魔法を渇望する人々の波を抑えきれるものではない。

 欲望。希望。野心。

 それらが混じり合った濁流が、聖女の館へと押し寄せている。


「……ふん。一晩で応募総数100万人突破か」


 洋館の二階から、源田は眼下の群衆を見下ろした。

 手元のタブレットには、今も秒単位で増え続ける志願者の数字が表示されている。


「いい『欲望』が煮詰まってきたな。一万円で人生が変わるなら、安いもんだろう?」


「……ゲンさん」


 リビングのソファで、ヒミコが声を上げた。

 彼女の手には、先日、市ヶ谷首相から貰った「高級おにぎり」の残りがある。


「この人たち、みんな魔法ほしいの? お掃除してほしいの?」


 ヒミコは、スマホに流れる大量の顔写真リストを見て首を傾げた。

 彼女にとって魔法とは「お掃除」であり、日常の一部に過ぎない。なぜ大人がこれほど必死になるのか理解できないのだ。


「ああ、そうだ。だがヒミコ、全員に力を貸す必要はない」


 源田の隣で、レイナがサングラスをクイッと上げた。

 『心眼』、オン。

 窓の外に広がる群衆を見つめる彼女の唇が、捕食者のような笑みを形作る。


「安心して、ヒミコ。……どんなに一般人の皮を被っても、あいつらの『腹黒い色』は私には隠せないから」


 レイナの視界には、無数の色彩が映っていた。

 純粋な憧れを示す「白」。

 私利私欲にまみれた「濁った紫」。

 そして――。


(……いるわね。一見して善良な市民に見えるけど、その奥底に『国家への忠誠』と『殺意』を隠し持った、真っ黒な連中が)


 共和国の工作員部隊。彼らは「一般市民」に紛れ、あるいは「熱心な信者」を装い、列の奥深くに潜り込んでいる。

 ネット民が恐れていた通り、彼らは魔法を軍事利用するために来たのだ。


 だが、彼らは知らない。

 この館には、世界最強のセキュリティ・システム――人心を操り、嘘を見抜く「魔女」がいることを。


「さて、地獄の選別オーディションを始めましょうか」


 東の空が白む。

 一万円を握りしめた100万人の欲望と、それを待ち受ける聖女教の守護者たち。

 かつてない規模の「お掃除」が、幕を開けようとしていた。


少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と感じていただけたら、下の【★★★★★】と【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、執筆速度が爆上がりします。


何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ