表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/62

第33話 世界、フリーズ

挿絵(By みてみん)


 その日の朝、世界は文字通りフリーズした。


 ニューヨーク証券取引所。ロンドン市場。そして、東京証券取引所。

 開場を告げる鐘の音は、ディーラーたちの絶叫にかき消された。


「おい、冗談だろ!? 資源先物価格が垂直落下してるぞ!」


「共和国関連の銘柄、ストップ安だ! 全部売り払え! 紙屑になる前に逃げろ!」


「逆に日本のハイテク株が爆騰してる! 日東エレクトロ、買い注文が殺到してシステムが追いつかない!」


 モニターに映し出されるチャートは、芸術的なまでの乱高下を描いていた。

 原因はたった一つのニュース。


 『日本、レアアースの完全自給自足に成功。コストは実質ゼロ』


 物理法則を無視した精錬技術。

 国家戦略を一瞬で無力化する供給量。

 各国の首脳や経済学者たちが「ありえない」「誤報だ」と叫ぶ中、アメリカ国防総省ペンタゴンやCIAの衛星画像は、ある一点を静かに映し出していた。


 軍事基地でもなければ、最先端の科学研究所でもない。

 東京・港区。

 超高層ビルの谷間にポツンと残された、古びた洋館。

 庭には「聖女様降臨」という怪しげなのぼりがはためき、縁側では少女がおにぎりを頬張っている。


 世界経済の心臓部を握ったのは、このボロ屋敷だった。


          ◇


 一方、日本のインターネット上は、未曾有の「お祭り騒ぎ」となっていた。

 巨大掲示板やSNSのトレンドは、朝からこの話題で埋め尽くされている。


【速報】日本政府、レアアースを海底の泥から一瞬で精錬。共和国終了へ。


1 :名無しさん@聖女教信者:

 共和国の外交カード、ただのゴミになるwww

 ざまぁぁぁぁぁぁ!!


5 :名無しさん@港区:

 聖女教とかいう怪しい宗教が日本を救ってて草。

 これもう国教だろ。


12 :名無しさん@科学者志望:

 一万円でレアアース精製とか、これもう錬金術師だろ。

 ハガレンかよ。等価交換の法則どこいった?

 >>12

 対価は一万円とおにぎりだからセーフ。


28 :名無しさん@投資家:

 【悲報】ワイが持ってた資源株、電子の藻屑となる。

 その代わり日東エレクトロが爆上げで資産倍増したわ。

 サンキューヒミコ様。


45 :名無しさん@オカルト板:

 おにぎり供えたら勝てるってマジ?

 明日からコンビニのおにぎり売り切れるぞ。

 >>45

 港区のコンビニ、もう棚が空っぽらしいぞ。

 「ツナマヨ」が聖遺物扱いされててワロタ。


89 :名無しさん@憂国の士:

 これガチで歴史変わったな。

 資源のない島国が、一瞬で資源大国になった。

 全部、あの一万円の石ころのおかげとか、教科書に載るレベル。


135 :名無しさん@実験体:

 なお、当の本人は今ごろ「おやつ」の心配をしてる模様。

 平和すぎて涙出るわ。


          ◇


 ネットの狂乱、市場の崩壊。

 それらを遠く離れた大陸の奥深く。

 共和国の中枢にある、薄暗い執務室。


 ガシャァァァンッ!!


 重厚な執務机の上に置かれていた通信モニターが、床に叩きつけられて粉々になった。

 荒い息を吐いているのは、共和国の最高権力者、総書記だ。


「……おのれ、おのれぇぇ……ッ!」


 彼は震える手で、モニターの残骸――そこに映っていた白いドレスの少女の画像を、革靴で踏みつけた。


「物理法則も……外交序列も……我が国が数十年かけて築き上げた包囲網も……!

 たった一人の小娘と、一万円の石ころごときに破壊されただと……!?」


 側近たちが青ざめて直立不動で震えている。

 レアアースという最強の首輪を失った日本は、もはや共和国の言いなりにはならない。

 それどころか、あの技術が世界に広まれば、資源を武器にしてきた共和国の優位性は完全に消滅する。


 国家の存亡に関わる危機。

 総書記の目から、理性の光が消え、冷酷な殺意だけが宿った。


「……もはや、生かしておく理由はどこにもない」


 彼は受話器を取り上げ、暗号回線を開いた。

 繋がった先は、国家直属の特殊工作部隊。あるいは、闇の世界で生きる暗殺者ギルド。


「あの少女を殺せ」


 地獄の底から響くような声で、彼は命じた。


「魔石の秘密を盗め。関係者は全員始末しろ。……でなければ、我が国が先に世界から『掃除』されるぞ」


 電話が切られる。

 日本の港区に向け、不可視の凶刃が放たれた瞬間だった。

 聖女の「お掃除」か、国家による「抹殺」か。

 血なまぐさい影が、静かに洋館へと忍び寄ろうとしていた。


少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と感じていただけたら、下の【★★★★★】と【ブックマーク】をポチッと押して応援していただけると、執筆速度が爆上がりします。


何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ