シーン7:章の閉じ
日常は、そのまま続いた。
授業に出て、
板書を写し、
教師の声を必要な分だけ聞く。
理解できるところと、
流していいところの区別も、
以前と変わらない。
食事をする。
味は穏やかで、
過不足なく整えられている。
特別な感想を持つほどではないが、
残す理由もなかった。
侍女とは最低限の会話を交わす。
予定の確認、
体調への形式的な気遣い、
沈黙を埋めるための短いやり取り。
どれも、役割の範囲内に収まっている。
世界は何も変わっていない。
鐘は鳴り、
時間は区切られ、
人々はそれぞれの場所へ戻っていく。
物語が始まった痕跡は、
どこにも見当たらない。
ただ一つ、
私の内部だけで、
小さな保存が行われた。
物語を始めない、という選択肢。
それは宣言でも、
決意でもない。
使われるかどうかも、
まだ決まっていない。
引き出しに入れられ、
名前も付けられず、
静かに置かれる。
外から見れば、
何も起きていない一日だ。
だが、その日の終わりに、
私は知っている。
世界が準備を終えているのと同じように、
私もまた、
始めない準備を終えたのだと。
世界は、
何事もなかったように閉じられる。




