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シーン2 孤立の否定(関係の痕跡提示)
続いて、語りは孤立という可能性を退ける。
彼女は一人ではなかった。
会話は存在した。
並んで歩いた時間があり、同じ景色を見た瞬間もあった。
それらは密接ではない。
互いの内側に踏み込まず、説明も要求しない距離が、自然に保たれていた。
干渉しないことが、拒絶ではなく、配慮として成立していた。
思い返されるのは、名前の残らない人物たちだ。
一度きり道を同じくした同行者。
役割も立場も持たないまま、短い時間だけ交差した存在。
約束は交わされていない。
再会の予定も設定されていない。
関係は回収されず、整理もされない。
だが、それらは無効化されない。
「なかったこと」にされるほど、薄い接触ではなかった。
物語的には未処理のまま放置されている。
それでも感情の層では、確かに痕跡として残っている。
彼女は孤立していない。
ただ、誰とも結ばれていないだけだ。
その二つは、同義ではないことが、ここで静かに示される。




