シーン4:市井の人々との生活的接触
作業場は昼前から騒がしく、空気には粉塵と油の匂いが混じっていた。
主人公は声をかけられるまま、簡単な作業を手伝った。箱を運び、道具を洗い、空いた時間に火の番をする。どれも説明を要しない仕事だった。
指示は短い。
「それを向こうに」
「終わったら、次は水を」
彼女は黙って頷き、言われた通りに動く。手際は悪くないが、際立って良くもない。遅れもなく、無理もしない。作業は予定通り進み、誰も困らない。
食堂では、空いた卓を拭き、皿を下げた。
忙しい時間帯が過ぎると、主人は言う。
「助かったよ」
その声に、含みはない。感謝はあるが、評価には踏み込まない。
代わりに、温い食事が一つ出される。
理由の説明も、追加の言葉もない。
彼女はそこで理解する。
自分は役に立っている。
だが、いなければ回らない存在ではない。
誰かが欠ければ、別の誰かが補う。
それで十分だという前提が、ここにはある。
この立場は、軽い。
同時に、安定している。
期待されない。
失望もされない。
仕事が終わると、彼女は手を洗い、場を離れる。引き止めはない。明日も来るかどうかは、問われない。
市井の時間は、彼女を必要以上に留めない。
それでいて、拒みもしない。
彼女は初めて、
「ちょうどよい存在」として、そこにいた。




